トラメの資格
お盆前日、孤児院のリュウメから精霊柱が用意出来たと狐音から伝えられる。
「数はあるが、車じゃから大丈夫じゃろう。本当に車があって良かったわい」
「この車はユウメさんのですけどね、とりあえず取ってきます!お昼過ぎには帰れるかと」
「うむ、戻り次第設置していくからの!よろしく頼むぞ縁よ」
幽荘の空いたスペースに停めてる黄色いフェラーリ、予想通り浮いた存在感を放っている。
そんな車で山越えだが人間慣れると気にならないものだ。
少し山に入れば青々した木々の葉、夏の風に太陽。ズダーン!と響く多分スズメが何か仕留めたであろう銃声……
「絶対この車で走る道じゃないよな」
苦笑しながら縁は山を走り抜けた。
山を抜け街に入り目的地を目指す、目指すはリュウメが院長務める孤児院「幽導孤児院」だ。
以前にファッションショーでユウメと訪れた際は、衣装回収で寄り道したので時間が掛かったが今日は直接なので思っていたより早い。
(お、見えた見えた)
孤児院が見えてくる、改めて見ると大きな建物だ。
外観古くとも設備が充実している、それは良い面であり悪い面もある。
(やむを得ない事情あるとは言え、子供を手放しやすい場所か……複雑だ)
縁は少し芽生えたモヤを振り払い、孤児院のインターホンを鳴らす。ボロい幽荘と違ってちゃんとインターホン鳴るのが新鮮だ。
「はーい!紬君来てくれたのね、ちょっと待ってねー」
院内の庭では今日も子供達が元気に遊んでいる、ファッションショーで訪れたからか子供達は「お兄ちゃんだ!」と覚えてくれているようだ。
孤児院の扉が開き何人かの子供達も手伝ってダンボール箱を運んでくる。
「いやー助かるよ紬君、これがうちの子達が作った精霊柱さ」
リュウメが一つ見せてきた直方体の箱側面には様々な言葉や想い、絵なども描かれている。
「リュウメ院長、これは?」
箱の中に精霊柱では無い長い巻物状の布一本ある、巻いている具合や長径から相当大きな布だ。
「うん、これは名簿の書き写しになるね……これまでに関わった子達の」
「関わった子達……」
「聞いているかもだけど、長い事孤児院やってると色々な時代の流行り病や事故があるものさ。悲しみを忘れないよう明日弔う用なんだ」
幽導孤児院での歴史で、残念な結果を迎えた子はゼロでは無いと改めて突き付けられる。
「……確かに、では持っていきますね」
「うん、ありがとう。それに明日もよろしくね!」
リュウメも色々抱えてやっているのに元気さは失わない、強い人だと縁は感服する。
その時、服を引っ張ってくる子供が居た。
「ん?あれ?確かトラメ君?」
前回のファッションショーで一番やんちゃに見え、孤児院の子の中で印象に残っていた子だ。
「……俺も明日行きたい」
「トラ……あんたまだ言ってるの?」
リュウメが少し困った顔でトラメと目線を合わせる。
どうやらリュウメだけが鎮魂祭に参加するのが納得いかないみたいだ。
「遊べるお祭りじゃないのよ?皆は連れて行けないのよ」
「わかってる、でも俺も手伝いたい。これまでにここに居た皆の為でしょ?」
トラメはなかなか頑固な節が見て取れる、だが意味を理解せず手伝いたいと言っているように見えない。
「トラメ君……明日ウチで誰の為に何をするか言えるかな?」
トラメに聞いてみた、縁は彼から出る言葉を聞いてみたくなったのだ。
「明日これまでの俺達と同じこの辺りで子供だった人に祈りを捧げるんでしょ、俺達より小さかった子も亡くなってるから」
それだけ聞ければ充分だろうと縁は決めた。
「リュウメさん、トラメ君を子供代表で連れていけませんかね?」
「え、それはもちろん嬉しい事だけど……この子に資格があるか……悩んでも仕方ないわね、ちょっと待ってて」
リュウメはスマホを取り出し通話をしようとしている。
資格、時折幽荘に関わる者から聞くワードであるが……ともあれ縁はトラメの気持ちに応えたかった。
不安気な顔をするトラメの頭を撫で少し待つ。
「狐音さん?実はね——」
どうやら通話の相手は狐音のようだ、リュウメはトラメを見ながら話をしている。
「え?そうね、聞いてみようかね。……はい、スピーカーにしたわ紬君」
いきなりスマホを向けられ戸惑う縁に狐音から話しかけられる。
「主よ、その子に来て欲しいと思ったんじゃな?」
縁に迷いは無かった。
「はい、この子トラメ君はこの孤児院と明日の鎮魂祭の背景を理解してます。その上で参加したいと思う気持ちを汲みたいんです」
「……」
狐音は少し考えているのか静かになる。
リュウメもどうしたものかと困り顔である、そして狐音が意外な言葉を出した。
「今からトラメを連れて帰って来るのじゃ、資格が無ければ参加は出来ぬ。資格有りなら今日はお主のとこに泊まらせ明日参加させる、こればかりは来てみんとわからんからの」
リュウメの顔が驚きに変わり狐音へ再確認をした。
「狐音さん、良いのかい?下手したらあんた……」
「構わんよリュウメ、心配しなさんな。縁が感じたままなら上手くいくよ」
「狐音さん……紬君、トラメをよろしく頼むよ」
「はい!」
「トラ、聞いてたね?今から紬君と幽荘に行ってダメなら帰って来る。良ければ今日はお泊まりで明日鎮魂祭に出る。決めるのは狐音さんだからね?」
「うん、わかった。お泊まりの用意してくる!」
トラメは走って行った……
「縁、リュウメきっと大丈夫じゃ。しっかり準備させて気を付けて帰って来い」
「狐音さん……ありがとうね。じゃあまた明日」
スマホの通話が切れ、リュウメは縁に向かいお辞儀をした。
「トラを頼むね、紬君はまだ資格がなんなのかわからないと思うけど狐音さんから言ってくれるはずだから。鎮魂祭終わるまで待ってね」
「すいません、あまり分からないまま進めちゃって……でもしっかり見守りますので」
リュウメは力が抜けたように笑った。
「よーし、トラメ君行くよ?」
「うん!院長!皆!行って来るね!」
「トラ、邪魔しちゃだめだからね?」
孤児院の皆に見送られ、行きより増えた人と荷物を乗せて幽荘に向かう。
「にいちゃん、幽荘ってどんなとこ?」
「どんなとこ……山の中だな、温泉があるよ」
「孤児院より人居ないの?」
「トラメ君、もしかして孤児院出るの初めて?」
「うん……だからちょっと怖い」
孤児院で皆と過ごすのは、裏返せば独りにはならないと言う事だ。それこそ一日中誰かが居るし一般家庭とは違ってくる、孤独感はあるかもしれないと縁は思った。
「大丈夫さ、一日だけだし俺も居るし幽荘の皆も居る。ユウメさんは知ってるよな?じゃああのお姉ちゃんは——」
緊張を和らげる為に色々話してあげていると、本来の元気なトラメであろう表情になる。
(そういえばユウメさんが、いつかトラメ君は幽荘に来るかもと言っていた。資格?素質?があるようだが、もうすぐわかるな)
孤児院を出て約一時間、山を越えていつもの幽荘が見えてきた。
「あれ?狐音さんとユウメさんだ」
「あ、ほんとうだ!ユウメ姉ちゃんー!」
車を停め、二人車より降り立つ……ゆっくり狐音とユウメが寄って来た。
「おかえりなさい〜トラちゃんしばらくぶりね〜」
「ふむ、お主少し大きくなったが生意気そうなところは変わらんの」
「狐音姉ちゃん、ユウメ姉ちゃんお久しぶりです!」
少し緊張があるトラメだが見知った顔で安心しただろう。
「さて、早速じゃがトラメよ……何が見える?」
狐音は少し身体をずらしてトラメの前方を開けた、何があると言われても古いアパートしか無い。それ以外何も無い田舎と言うより山の中だが……
ユウメも固唾を飲み答えを待ってるようだ。
「汚い建物しか見えないよ」
子供は正直だ、ストレートに表現してくれる。
(俺、結構毎日掃除してるんだけどなぁ)
管理人としてダメの烙印を押された気がする。
すると狐音とユウメが一斉に笑い出した。
「ホッホッホ!汚い建物か!……縁、良かったの」
「うふふ、前に言った通りになりましたわ管理人さん」
縁は一瞬キョトンとしたが、すぐに理解した。
「じゃあトラメ君は……」
「資格を持つ者じゃ、今日から準備手伝ってもらうぞトラメ?」
「はい!狐音姉ちゃん!」
心配していた事は払拭され、明日の鎮魂祭にトラメも参加決定だ。
狐音がスマホを出し連絡をしている、おそらくリュウメだろう。ユウメが車を漁り荷物を出してくれている。
「管理人さーんトラちゃーん、この箱全部ですかぁ?」
早速手伝いだとトラメの背を押して、物持ちをする。
まだ幼いが同じ男が嬉しい縁だった。




