鎮魂祭に向けて
狐音と別れ、ユウメを乗せ街に向かう。目的地はユウメの鍵挿しっぱなしの車があると思われるどこかのビル、いつから置いてるのか不明。
なかなか素晴らしい状況に改めて頭を抱える。
しかし、鎮魂祭の送迎をするなら必要であるから仕方ない。
そうこうする内に一つ目のビルへ到着する。前回孤児院に向かう前に寄ったビルだ、地下駐車場内を探していく。
「ユウメさん、車は何ですか?」
「え?車?運転して遠くに行く為のものですわよ〜」
「……違います、車種とかの話です」
「車種……黄色くて尖った車ですわ〜ごめんなさいね、あまり車には詳しく無くて〜」
ユウメらしさを感じながら、探すべきは黄色くて尖ったフォルムの車……どうやらこの駐車場には無いようだ。
「次行きますか……場所は近いんでしたっけ?」
「ええ、車移動ならすぐですわ〜」
ユウメの案内に従い次の駐車場に向かう、聞けば衣装やアクセサリーの保全管理は契約しているスタイリストが管理してるとか。
(やっぱ少し住む世界が違うんだな……服着る本人がボロアパートに住むのが凄いが)
改めてユウメの不思議な感覚に凄さを感じつつ、二つ目のビルに到着した。
見た目は普通のビルだが、ここもセキリュティがしっかりしている。入館に指紋認証があるだけで違う世界だ。
軽トラを停め駐車場内を歩いていく、今気付いたが全て高級車ばかりだ。田舎の街ビルだがランクの違いがはっきりしている。
ここもどうやらユウメの車は無い、後は最後の場所である。
(あってくれよ……ここまで来て空振りは堪える)
地下駐車場のゲート内に入り車を停める、どうやらここは前二つより少し大きな所らしい。
「ん〜お久しぶりですわ〜管理人さんちょっと部屋見てきて宜しいかしら〜」
「車見てからですよ!僕どれかわからないんですから!」
自由に消えようとしたユウメを止め駐車場内を見ていく。
「……あ!ありましたわ!鍵も挿さってる〜」
ユウメが走り出した、本当に良かったと思うし車をどこに置き忘れてたか?そして長らく放置していたのはどうかと思う縁だった。
ユウメが撫でる車を見て縁はギョッとした。
黄色い尖ったイメージの速い車、そしてモデルのユウメ。もしかしたらとは思っていたが想像以上に高級スポーツカーだ。
車が好きと言うような人とセレブが持っていそうな……
「ユウメさん……それ、ユウメさんの?」
「そうですわ〜フェ…フェリー?でしたかしら。車はよく知らないのですが、以前出たイベントの社長さんからプレゼントされまして〜普段乗らないのにどうしてくれたんでょうね?」
「うん、フェラーリですね。僕も車詳しくないけど名前は圧倒的に知っています」
一般人にはわからない世界だが、ユウメに魅了されたお金持ちの社長さんが好意か下心かで贈ったんだろう。
美人モデルの世界は理解が及ばない、なぜならその車忘れてたんだから。
「まあ四人は乗れるけど……って軽トラからフェラーリに乗り換えは無謀な気しかしないんだが……」
「でも動きますかねこの子〜」
「うーん、そこもありますね……少し動かしても?」
「ええもちろん、わっ埃だらけ〜」
本当にどれだけ放置したのか……縁はとりあえずエンジンを始動してみる。
ブォンン!……ドドドド!
エンジンが掛かった、どうやら動きはしそうだ。だが軽トラからフェラーリは想像以上に乗り心地も視点も違いすぎて運転前から怖い。
縁は恐る恐るアクセルを踏み前に出てみる、フワッと身体の浮きが伝わる。
(軽っ!出が速い!怖っ!)
慌ててブレーキを踏む、スッ!と止まり車としての性能の違いがコレだけで伝わった。
「おぉ〜動きますね〜」
パチパチと呑気に拍手しているのが持ち主である、凄い笑顔だ。
「……ユウメさん、スタンドまで持って行って軽く掃除と簡易チェックして貰いません?さすがに放置してて怖いし……車検とかは大丈夫そうか、空気圧やオイルかな」
「ええ、行きましょう行きましょう〜この子が綺麗になるのが嬉しいですわ〜」
「……鍵挿しっぱなしで忘れてましたよね?」
念の為ビルの管理会社に軽トラを置いていって良いか許可を取り、フェラーリに乗り換え有人ガソリンスタンドを探しに出る。
運転は……ユウメだ。
「スタンドまでですけど、私のドライブテクニックお見せしますわよ」
「……お手柔らかに」
不安だらけだが、今日酒は飲んでいないのが救いだ。
「行きますわよ〜」
ブォン!……ブルルル!
縁の予想に反してスムーズに運転するユウメ、なんなら車と相乗効果で美しくカッコ良さが増している。
地下駐車場を出て街中のスタンドを探す、検索で出るのはセルフばかりだが一軒見つかり向かう事に。
街と言ってもやっぱり田舎寄りの街並みで景観的には軽トラが似合う、幽荘が山の中過ぎるがこのフェラーリは未来から来た車かと浮くだろうな。
そんな事を考えながらユウメの運転に身を任す、悔しいが軽トラとは乗り心地が雲泥の差だ。
スピードが出せる車だが、道で出せるスピードは法律で決まっている。ちゃんと理解しているユウメの運転は軽やかで美しい。
「ユウメさん、その意外と言うか運転上手いですよね?」
「あら!ありがとうございます〜普段運転はしませんもので見よう見まねですわよ」
「見よう見まね……?」
「ええ、お仕事で運転手さん付く時はよく見てますの〜」
「ユウメさん、モデルとしてかなりランク高いんですか……?」
「人様から見れば評価で待遇の変わる世界ですね〜私は出るだけなので、凄いのはスタッフの皆様ですよ〜」
普段のユウメに慣れてしまったが仕事のユウメは格が違う、サラッとそれも本気で自分が偉いとかは思ってないだろうトーンで話す。
そんなオーラ溢れるユウメの運転はナビに指定されたスタンドに到着し終わりを迎えた。
「オーライオーライ!……いらっしゃいませ!今日は給油で?」
「給油と諸々のチェック、それとこの子をお風呂に入れて上げてくださいませ〜」
ユウメが店員に注文をする、店員はあまりの美人と見かけ無いフェラーリにテンションが上がっている。
「か、かしこまりました!!ささっ店内でお待ち下さい!おい!皆集まれ!」
手空きの店員まで集合して要人警護のように車とユウメを囲んでいる。
「……いや、俺も居るが」
何故か取り残された縁もとぼとぼついて行く。
スタンド内の待合室で座りコーヒーを飲みながら、縁は鎮魂祭について聞く事にした。
「ユウメさん、鎮魂祭って結局なんなんですか?何するんですか?」
「そうですわね、まずは地域で亡くなった方々への慰霊が全般の目的ですわね。そして主となる慰霊の目的もございます。」
「主となる慰霊?」
「はい、幽導村の子供に対する特性は以前お話しましたよね?」
前にユウメの孤児院ファッションショー帰りに聞いた、孤児が集まりやすい村だったと言う事だろう。
孤児を受け入れ、長く手厚く保護してきた事が皮肉にも「子を手放しやすい」認識の幽導村となってしまったのだ。
ユウメや狐音はそんな状況に悩みながらも援助を続けてきた。
「はい、本当にユウメさんは凄いです……」
「うふふ、管理人さんが認めてくれたから吹っ切れましたのよ〜そうそう鎮魂祭の核になるのは、その孤児に対してなんです」
「孤児に対して?……慰霊……あっ」
少し考えればわかる事だった、いくら保護の力が強いとは言え全ては救えない。
「お気づきのように、所詮は個人の手を合わせた私設。見つかった時には手遅れだったり見れる範囲に限界があったり力不足だったり。」
「その子達の慰霊なんですね……」
鎮魂祭と銘打ち、大きなカテゴリは地域の慰霊。
真の対象は孤児として手放され亡くなった子に向けてなのだ。
「祭りと言うのは土地神や自然に祈りを捧げる行為でもありますから、幽導村は古い歴史の中で村は消えても祭事だけは伝承しているのです」
幽荘自体も縁からすれば明治、大正辺りと古い建物だと聞いたが歴史からすれば遥か前からの風習だと思い知る。
言葉を失くした縁とユウメに、スタンドの店員が声を掛けてきた。
「お客様終わりましたよ!」
声に反応し車を見に行く。
「わぁ!ピカピカになりましたわね〜」
ユウメは綺麗になった車のボディを撫でご満悦だ。
「簡易点検ですが走行に問題は無いと思われます!何か異常を感じたら是非来てください!」
元気な店員にお礼を述べて、今度は縁が運転席に座る。
「よろしくお願いしますね〜」
助手席にユウメが乗り、スタンドを後にする。公道に出て運転すると分かる、フェラーリって気持ちいい車なんだなと。
幽荘に向かう間に狐火酒造を寄り道出来そうなので、ユウメに告げておく。
「ちょうど良いですわ、狐子姐さんに御神酒の用意も頼みましょう」
順調に進んで狐火酒造が見える、駐車場に車を入れて降りた所で人影が走ってきた。
「ユウメちゃん久しぶりやないのー!どないしはったん?そんな高級な車で来るところちゃうよ?」
「お久しぶりですわ〜狐子姐さん〜!管理人さんとデートしてたんですの!」
「何!?高級車でユウメちゃんをデートに連れ出すなんてやるやないの!」
「……忘れ物を取りに行っただけなんですが」
「狐子姐さん鎮魂祭聞いてます?今年は久しぶりに出ると聞きましたが」
「おう、狐音から連絡あって縁君がお迎えに来てくれるんやろ?それなら出れるからね」
ちゃんと伝わっているようで安心だ、これならタカとリュウメも伝わっているだろう。
「狐子姐さん、それとせっかくなので御神酒の用意と色々お酒も買いたいんですの」
「相変わらず狐音と毎晩飲んどるの?」
「ええ、しかも温泉に呑めるスペースが出来ましたわよ〜」
呑めるスペース認識されているが、あそこは皆の休憩所であるので酒盛りは辞めて頂きたい……
「ええなええな〜鎮魂祭で呑もうな〜」
鎮魂祭って酒呑む日だったか……?
「ゴホン!お酒はともかくとして、当日お迎えに参りますけど他に周ってからになります」
「うん大丈夫よ〜タカ婆とリュウメ回収してから来るんやろ?のんびり待つよ」
狐子はこれで大丈夫か、少し目を離した隙にカゴ一杯に酒を積んでるユウメ。
「街に出た時に買っておかないとダメですからね〜」
「別にダメじゃないですが……狐音さんと一緒に少しお控えになられたら?」
「うふふ、出来ると思いますか?」
「鎮魂祭当日はウチからもまた持ってくしな〜」
当日は酒瓶が更に並びそうだ。
「ほな、まってるからな〜」
狐火酒造への寄り道を済ませて幽荘に帰る。
運転にも慣れてきて縁は当日の流れを描いていた、一周りで送迎出来る事になったが時間的には二時間は掛かってしまう。
「鎮魂祭の時間って何時からですか?」
「例年午前十時に始まるのですが、今年は少し遅く始まるかもですわね〜参加人数も多くなりますし……やる事も復活するでしょう」
「復活?」
「はい、リュウメさんが来られるので孤児院の皆が作った精霊柱を設置しますので〜」
「しょうろうちゅう?」
「柱に見立て、想いや願いを書いた小さな箱に蝋燭を入れてあげるのです。例年は省いてましたが狐音姐さんは折角だし今年は復活させようとおっしゃってましたから」
孤児院の皆が作るとなれば結構な数が予想される、尚更時間かかりそうである。
縁は少し考え……
「ユウメさん、前日にでも僕精霊柱取りに行きますよ」
「あら?宜しいのですか?」
「ええ、前準備出来てたほうが遠方から来る三人に負担も無いでしょう。幽荘の皆も忙しいでしょう?」
「ありがたいですわね、私達も鎮魂祭の陣張りで動けないですから!」
「その陣張り?って温泉工事前にやってたやつですか?」
「そうですわよ〜そう言えばあの陣は管理人さん見れないモノでしたわね、今回はちゃんと見れますので〜」
「じゃあ尚更、僕が出来る事は先取りしますから」
「うふふ、お頼もしい限りでございますわ」
ユウメの笑顔が眩しい、美人にこんな笑顔で頼もしいと言われるのは悪くない。
上機嫌のまま縁とユウメは見えてきた幽荘と、手を振る狐音に手を振り返した。




