ユウメの車
温泉改修工事も終わり、いつもの静かな幽荘となっていった夏の日。
「お主、盆はどうするのかえ?」
狐音が縁の部屋を訪ねて来た。
(盆、帰って色々聞きたいけど帰るのが面倒なんだよなぁ)
縁は迫る盆にどうしようかと迷ったままであった。
そんな縁に狐音が頼み事をしてきた。
「お主が暇なら鎮魂祭を手伝ってくれんかの」
「鎮魂祭?確か前に狐音さん言ってましたね、今年はそうしようかな」
管理人業と呼べるかわからないが多少幽荘の設備管理や住人の要望に応えている、このまま幽荘を数日空けるよりは居た方が有意義に過ごせるだろう。
「うむ、助かるぞ!」
「でも鎮魂祭って何するんですか?」
「実はお主がおるのなら、狐子とタカとリュウメを連れてきて貰おうと思っての」
「あの三人を?」
「なんせこの場所に来いとは言えんかったが、今年からお主の運転あるからの」
なるほど、送迎を……って軽トラでか。
「あやつらも毎年来たいはずなんじゃが、営みもあるし足が無くての数年来れて無いんじゃ」
それは折角なので応えたいが軽トラの荷台にはみ出た二人を乗せるのは気が引ける、乗せたとしても荷物と一緒になので雰囲気が宜しく無い。
「狐音さん、普通車その日借りたりでも大丈夫ですかね?やっぱりどう考えても荷台に二人乗せるのはちょっと……」
「ああ、構わんよ。街に出ればレンタカー有るじゃろう」
許しが出て良かった、後にレンタルできる場所を調べよう。
で、結局鎮魂祭とは何をするのかを教えて貰えないまま狐音は行ってしまう。
「まあすぐ分かるか」
大して気にはせずレンタカーをサイトで見るが……無い。
予約枠が無いのだ、お盆期間である為か近くのと言っても街まで一時間はかかる。あまり遠くになりすぎるとかなり時間を取ってしまう、スムーズに狐火酒造〜タカの銃砲店〜幽導孤児院〜幽荘のルートでも二時間はかかるんじゃないだろうか?
そこにここからスタートで街まで一時間、レンタカー店まで不明。最低でも三時間超だろう。
(もしかしなくても大変だ)
鎮魂祭自体はお盆中との事だが来週には、その盆になっている。時間も無い。
「さて……参ったな……」
「何が参りました?」
「うわぁ!……気配消すのやめて下さいよ、スズメさん」
イタズラが成功した笑顔なので許してしまう。
「いや……鎮魂祭に狐子さんタカさんリュウメさんもって言われたんですが送迎が出来るか怪しくて」
「タカさんも?嬉しいですわ〜でも軽トラで皆を周るのはちょっと難しいですね〜……あ、そうだ」
スズメは縁の隣、二〇三に立ちノックする。
「え?ユウメさん?」
ガチャ
「おはようございますですわ〜あら?スズメさんどうされましたの〜」
寝起き全開モードだ、それでも美人なのが凄い。
「ユウメさん〜確か車持ってはいるんでしたよね?あの速いってやつ。実は——」
「なるほどですわ〜私、車の事すっかり忘れてましたわ、アレ動くのかしら」
「縁さんに確認がてら乗って貰いましょうよ〜」
「良いですわね〜鍵探してきます〜」
なんだかほわほわした二人のペースに入れず、話が進む。と言うか忘れてたとか動くかと物騒な事言ってる車に乗りたいと思わないのが正直なところである。
「管理人さーん、何かして時間潰してて下さいな〜」
鍵探しに手間取ると言う事だろう、ユウメなら無くしたまであり得る。
とりあえず日課の温泉掃除をして待つかと、道具を持ち縁は温泉に向かった。
温泉の湯船を抜いてブラシで擦る、コレが一番大変だ。しかし今日は援軍が来た。
「お兄ちゃん手伝う」
ちょこんとブラシを持ちやる気になった、ネコメが参加する。オンライン授業が無い時や時間の空いた時に手伝うようになったのだ。
「ありがとうネコメちゃん、助かるよ」
ネコメは少し頬を染めながら一生懸命温泉を掃除する。
二人でやるとあっという間に綺麗になり、次は温泉の施設をチェックしていく。
テントサウナは狭いながら好評で、時折りチェックしないと中の高温の石がそのままで危なかったりする。
「よし、お兄ちゃん消えてる」
「ありがとう、次は男子脱衣所からバルコニーに抜けて女子脱衣所だね」
男子脱衣所は縁しか使わないので、サッと拭き上げるくらいだ。問題はバルコニーと女子脱衣所だ。
バルコニーに出た、一見綺麗に見えるが……
「あっ!ここシミになってるよお兄ちゃん」
「やっぱり……昨日も飲んで溢したな?」
バルコニーが出来てから毎日誰かがここに居る。
一つ目の問題はチェアやテーブルがまだ無い為、板床に直置きで酔った狐音かユウメがよく溢すのだ。
温泉前の飲酒は禁止にしたが温泉後は難しい。
牛乳やアイス組は綺麗に飲食すると言うのに飲んだくれ組は本当に……
雑巾で拭き上げ現状復帰し、ゴミ箱をリセットして第二の問題が起きやすい女子脱衣所へ。
まず、入ってすぐに脱衣棚を見る癖が付いた。
狐音の下着忘れ騒動から鹿の剥製を戒めとして置いており、誰か忘れ物に気付いたら鹿に被せる事にしたのだ。
「さて、きょ……」
すぐに見つかる忘れ物だ。
「わぁ、メロンサイズだね」
「ネコメちゃんも忘れちゃダメだよ?こうされるから」
もはや縁も慣れたように鹿の剥製にブラとパンツを被せていく、問題行動と言われようがもう忘れるのが悪いの精神で無になっている。
「そもそも上下の下着忘れるってどうなってんの?」
「皆基本的に着けないから」
「そうか……それは……マズイね」
ネコメの純粋な答えに縁は頭を抱える。
「管理人さーん、あ!居た」
バタバタとユウメが入ってくる、先に聞いておこう。
「ユウメさん……その前にコレはユウメさんの?」
鹿に被せた下着を見てもらう。
「あら!やだ昨日忘れて帰っちゃいましたわね〜」
「ユウメさん、おっぱい大きい」
「ネコメちゃんもすぐ大きくなるわよ、こうやってマッサージを……」
「ストーップ!後でお願いします!鍵ありました?」
バストアップマッサージ講座を切り、本題であろう鍵を聞いてみる。
「あ、そうですわ〜実は思い出してしまいましたの」
「思い出す?何をです?」
縁は嫌な予感がする
「多分いつだったか前回鍵挿しっぱなしで帰ったんじゃないかって〜」
それはかなり大事なんではないか?
「ユウメさん、それはかなりヤバいんじゃないですか?」
「やっぱり〜?」
あまり気にしてなさそうなのが、また怖いとこだ。
しかし、車を持っているらしいが車はどこにあるのか?少なくとも幽荘内に整備された駐車場は無い。
縁の軽トラも置いているのは敷地内の適当な青空スペースだ。
「あら、そう言えば……どこに置いたのかしら」
(そこからか……)
「お兄ちゃん、ユウメさん困ってる」
「ネコメちゃん、困ってるのは俺なんだよね」
でもこのまま、ユウメの思い出し待ちより探す方が確実かもしれない。
「じゃあ……探しに行きますか……心当たりとかあります?」
「うーん、服の保管場所のビルどこかとは思うのですが、街側に三つある内のどこかだと思うんですけど〜」
モデルとはそんなスケールで生きてる世界なんだろうか、規模が一般人では無い。
以前孤児院に向かう際に行ったビルの地下がセキリュティしっかりした駐車場ではあった、おそらくあの規模のビルだろう。
「前行ったビルから後二つは近いんですか?」
「ええ、車なら三十分範囲にありますわね〜その車が無いんですけど〜」
「その車を探しに行きますよ、ほら準備して下さい」
「あぁん、今から行きますの〜ネコメちゃんは〜?」
「私、今から授業」
「ネコメちゃん頑張ってね、ユウメさん行きましょうか」
日が昇り切る前に把握したい、だらけモードのユウメを諭しながら軽トラへと向かう。
「ん?なんじゃお主らどこ行くんじゃ」
狐音がガサガサしている縁とユウメを見かけ近づいてきた。
「ああ、狐音さん。今から車探しに」
「狐音姐さん〜私の車を知りませんか〜?」
「知るわけないじゃろう、無くしたのか?そう言えばユウメ持っておったの」
「お盆中はレンタル一杯で確保難しいみたいで……そしたらユウメさんが持ってると聞いたので」
「あーもう少し早く動くべきじゃったかの」
「ええ、軽トラで三人送迎は現実的じゃないですから」
「まあ気を付けての〜出来たら狐火酒造で何か買ってきておくれ」
「余裕があればですが……」
「ホッホッホ、頼んだぞ〜」




