脱衣所の忘れ物
翌日、縁は温泉の掃除に勤しんでいる。改修前に比べると掃除の範囲が広がり大変ではある、だがすぐに慣れるだろう。
そんな事を思いながら温泉の床を掃除し、サウナテントをチェックし男子脱衣所を掃除しバルコニーに抜けて女子脱衣所で事件が起きる。
「まだ初日だったし皆綺麗に使って……」
縁は脱衣所の棚で止まり頭を抱えた、可能性がなくは無いと心のどこかで思っていた事が早くも現実になったのだ。
「……どうしたら良いんだ」
縁の前の棚には立派な刺繍が施された下着が置かれている。
あまり考察するのはよろしくないが、サイズ的には狐音、ユウメ、スズメの三人誰かの物だろう。
縁の中で可能性のある者を絞る。
「スズメさんは天然なとこあるがしっかりしてる、となると酒が入っていた二人……最後に出たのが……狐音さんか」
狐音の可能性が一番高いと判断する……が、下着を持って幽荘まで歩き本人に聞けるかは別である。
もし狐音じゃなければユウメ、スズメも訪れなければならない……
「俺には無理だ……」
縁はどうするか悩みまくる、脱衣所の真ん中に「忘れ物」として置くのが一番確実だろう。
幸いこの温泉は幽荘住人専用なのだから。
「……一応狐音さんに確認と承諾を得とくか」
掃除中に縁が見つけ、女性陣のリーダーに確認を取った。この行動事実が無いと怖い世の中だ、それだけやっても訴えられる世の中なんだから……
縁は下着をそのままに、狐音の下へ向かった。
コンコン
一〇一号室狐音部屋をノックする
……
…………出ない。
「嘘だろ……どっか行ってるのか?」
辺りを見回しても人の気配が無い、温泉改修中は工事音と人の往来で賑やかだった。だが、この静かさが本来の幽荘である。
「参ったな……いっそ見なかった事にするか?」
「アンタ何してんの?」
横からの声にビクつく縁は、隣の部屋から顔を出してるヘビメにオロオロしてしまう。
「何で挙動不審?」
「いや、やましい事は……」
ジッとヘビメに見つめられ、縁は顔を逸らす。悪い事はしてないはずなのだが、何故か居心地が悪くなる。
「んー?まあいい、温泉掃除終わったの?入っていい?」
「え!?今ですか!?」
入りたい放題の温泉が再開したのだ、止める理由も無い。だが下着を置きっぱなしである。
「何よ、縁何か変」
ヘビメが疑いの目で更に見てくる……
「あら〜お二人でどうしたんですか?」
間の悪い事にスズメも出てきた。
「スズメ、縁が何か隠してる」
ヘビメが感じ取った事をスズメに共有している、そのままヒソヒソと話し出してしまった。
縁はもうどうにでもなれと糸が切れた。
「や!待ってください!実はですね——」
縁とヘビメとスズメの三人は脱衣所に来ていた。
「こんなのでオロオロして情けない」
「うふふ、でも男性ですし縁さんはウブなお方ですから」
好き放題言われてるが、いまとなってはもう良い。
問題は今後も同じ事が出てくる可能性があり、再発防止をしたいのだ。縁が管理人として清掃する以上、女子スペースに入る事があるのだから。
「とりあえずもうこの脱衣所の真ん中に置いとけば皆気付きますよね?」
「まあ普通はね、でも狐音とユウメは怪しい」
「ん〜そうですね〜お酒入ったらどう動くか予想付きませんし」
やっぱり温泉前の酒は禁止にしよう、縁は心に決めた。
「ルールに追加するとして、今のコレはどうしましょうか?」
縁は下着を指してアドバイスを伺う。
「アンタがもっときなさいよ」
「いやいや、ダメでしょそれは……」
「そうですよねぇ、あ!じゃあ少し待ってて下さい……」
その夜、縁は温泉に浸かり様子を伺っていた、すると女子脱衣所から声が響いてくる。
「な、何じゃコイツ!儂の下着を上下着けとるぞ!」
「やだぁ〜凄いセクシーな鹿の剥製ですわよ〜アハハハ!」
今日も酔ったままで来た狐音とユウメが騒いでいる。
スズメが取った行動は予想外のものだった。
自宅にある鹿の剥製を持ってきて、忘れられていたブラとパンツを装着させて今に至る。
ちなみにヘビメが更に鹿の剥製にアクセサリーに見立てた小物を作り、セクシーな印象が強めな鹿の剥製に仕立てたのだ。
「ちょうど私の部屋が狭くなっていたので助かりましたわ〜剥製は捨てるのも躊躇いますし〜」
「なかなか新しいアート、面白い」
協力してくれたスズメとヘビメに感謝だ。
大浴場側で「アレは何だ?」と、不思議がりながら温泉に入った狐音とユウメに衝立越しに縁は言う。
「お二人温泉前の飲酒はダメですよ〜じゃないと下着の忘れ物で鹿の剥製がレベルアップしますからね〜」
「ぬ!お主か!全く!」
「あらアレは管理人さんが作ったの?はーい、気をつけます〜」
今後少しは減るかなぁ……縁はもうこりごりだぞと星を眺めて湯を楽しんだ。




