男女混合温泉
ザザザザ……
湯が溜まっていく様を眺めながら縁は考えていた。
この地域、幽導村と幽荘。
ユウメとジャノメの話から鑑みるに、昔から孤児が多い地域であったのだろう。都会で暮らしていた縁にはピンとこない部分もある、だが幽導孤児院に居た大勢の子供達は身寄り無い孤児だからこそ孤児院に居るのだ。
幽荘に住むネコメも孤児だ、昔ならともかく現代では珍しい扱いされてしまう。
縁の両親はこの地域から駆け落ちして抜け出した、詳細は知らないがそれ程離れたかったのだろう。
そんな場所にぶらぶらしていたとは言え息子を送り込んだ、何かしらの意図がありそうである。
「一度帰って聞くべきだろうな」
縁は波打つ温泉を眺めながら呟いていた。
程良く水位を確保でき、湯温もちょうど良く感じられる。
「そう言えば温泉って湧き出してるって聞いたが……こんなに都合の良い状態になるもんなのか?」
縁は不思議がる、何かしら機械とかで調整を加えて人が入れるような温泉になるのではないかと。
「お、良い感じに温泉が復活したの」
現れたのは狐音だった、湯に触れ状態を確認している。丁度良いと縁は聞いてみた。
「狐音さん、この温泉って自然に湧き出してるだけの天然物なんですか?」
「ん?そうじゃよ?」
「いや、あまりにも人に合わせられてるもんで」
「あぁ、確かにそう思うかもの。景観こそ手は加えておるが、湯自体は間違いなく天然なんじゃ」
「へ〜……何だか奇跡ですね」
「奇跡……まあ奇跡じゃのう、っとお主呼びに来たんじゃスズメが夕食用意してくれたぞ」
温泉を始動させてる間にありがたい。
狐音と共に、調理場へ向かう。
「あ、来ましたわね〜管理人さん温泉はどうでしたか?」
ユウメが酒を飲みながら聞いてくる、既に飲んでるのか……
「ばっちり改修後も湯が出ました、もう入れますが……先にご飯ですね。スズメさんありがとうございます!」
「いえいえ、ネコメちゃんヘビメさんも手伝ってくれましたから〜」
「私が野菜切ったよ」
「アタシは玉子をひたすら焼いたわ」
玉子を焼いたと言うヘビメ、テーブルを見ると黄色く目立つ皿が並び一つ一つに真っ赤なソースをネコメが掛けていっている。
「おお!凄い綺麗なオムライスだ」
「ネコメちゃんのリクエストですよ〜この間食べたって聞いてましたが、そう言えば幽荘で出した事無かったなって」
スズメに頭を撫でられ嬉しそうなネコメだ、よっぽどオムライスが気に入ったんだろう。
それにしても玉子が綺麗に出来ている、しっかり皆の分だ。
「ヘビメさん凄い玉子焼くの上手いんですね」
「アタシ料理はしないけど玉子は食べるから」
ギャルの見た目らしからぬスキルを持っていたヘビメに驚きだ、褒められて照れてるのが可愛らしい。
冷めぬ内にとテーブルを囲み、皆で頂く。
「……美味しい!」
ネコメが目を見開いて喜び、皆が微笑ましく見る。
縁も食べ始める。
「おぉ、しっかり半熟玉子でトマトソースも濃い」
トマトはスズメの菜園の物で、しっかり仕込まれたソースになっている。
「久しぶりに食べたが美味いのコレ」
サクサク口に入れていく狐音と、いつの間にかワインを片手にユウメは優雅に食べている。
「我ながら上出来」
「ヘビメさんの玉子本当に凄いですね〜今度私にも教えて下さい〜」
各々がリアクション取りながらオムライスを食べていく、手間や技術は要るが満足度の高い料理である。
皆あっという間に食べ終え片付けを分担し、いよいよ温泉……なのだが。
「良いではないか〜どこまでウブなんじゃお主は」
「私達は気にしません事よ?管理人さんも大浴場で入りましょうよ〜」
おそらく夕食前から飲んでる酔っぱらいの狐音とユウメ二人に絡まれ、大浴場で混浴させようとしてくるのだ。
「何の為の改修したんですか……ダメです!僕は小浴場なんです!」
スズメもネコメもヘビメも「仕方ないな」と苦笑いしている、三人居れば酔っぱらいの二人が温泉に入っても危険は無いだろうが、縁はやはり温泉前の飲酒禁止にすべきか悩む。
なんとか酔っ払いの二人を引き離し、先に脱衣所に入る縁。さっさと入っておこうと入浴準備を始めてると壁越しに声が聞こえてくる。
どうやら女性陣も脱衣所に入ったようだ、一応五人まとめて入れる広さなはずだが……
「広いね」
「うん、バッチリスペースある」
ネコメとヘビメだろうか、問題無さそうである。
縁は盗み聞きになるのも悪いだろうと、温泉に一足早く向かう。
公共の温泉と違い危険行為じゃなければルールは緩くなる。だがマナーは守る事で多くの人にメリットがある。
例えば共同の温泉入浴前には体を洗ってから、それは自身の汚れを落とす事も出来て周りが不快にならない行為だ。衛生的に良いし温泉の水質にも影響があるだろう。
実はドラム缶風呂ではなかなか身体を洗うスペースが取れず、苦労をしていた。珍しい浴槽のドラム缶に浸かって星を見るのは良かったが、やはり機能性は難しい問題だった。
ジャノメは温泉本体の周りに簡素な湯浴び場とパイプに湯を通し穴をいくつか開けた、原始的な作りのシャワーを用意してくれていた、
縁が居る小浴場、いわば男湯になるが一人なら何も問題は無い。むしろ自然の中でこんな開放的な風呂等良いのだろうかと。
縁は身体を先に洗い切り、いざ一番風呂!……ドバーン!
大浴場側、つまり女性風呂から聞こえた何が落ちた音。もう予想は付いてる、テンションが上がった主が飛び込んだのだろう。
「何だか飛び込んで足伸ばせるは久しぶりじゃのう!」
「あらズルい狐音姐さん!私も〜」
バシャーン!
やはり狐音ユウメの大人組が最初から暴れてる、「ネコメネコメ!滑り台あるぞよ!」
縁は気配を消しつつ声だけで状況を想像した。次は新設の滑り台をネコメが滑るようだが……ザバッ!
笑い声が上がっている、どうやら滑ったようだ。
「小さいけど面白い」
そんな言葉が聞こえた後「私も滑りたいですわ〜……えい!」…………?
向こう側の時が止まってる?何かあったか?と耳を傾けていると、「狐音姐さん〜皆〜お尻が挟まって動けないですよ〜」とユウメの助けを求める、あまりにも情け無い声が聞こえてる。
「全く世話が焼けるわね」
「せーので引っ張りますよ〜」
「痛くしないでね〜」
「ユウメお姉ちゃん頑張って!」
「プププ!し、尻が挟まるとは……ぷくくっ!ユウメよダイエットじゃな!」
ユウメ救出作業と狐音のバカ笑いを聴きながら星空を見る、湯に浸かりながらの星空は格別だ。
そして改修前までは真っ暗な温泉とその周りは間接照明が灯りぼんやり暖かく明るくなった、夜の姿が一番変わっただろう。
「ん〜……わっ!」バシャーン!
ハハハハハ……!
隣ではユウメが救出された様子で何よりだが、突然衝立がバンと音が鳴る。
「縁おるんか!?静かだが大丈夫か?行くかの?」
静かに浸かっていた縁をターゲットにした狐音は、こちらにこようとする。
「狐音さん!大丈夫だから!皆の声きいてますから!」
「なぬ?声聞いとるのか?ふむ……ならば!」
バシャバシャ動く音が聞こえるのだが、静かに浸かって欲しい物だ……
ならばと言って少ししたら、またバシャバシャが大きくなる。衝立側に来たのだろう。
「ほう〜お主また大きくなっとりゃせんか?」
「きゃっ!もう狐音さん〜」
「縁よ、スズメのスズメが凄いんじゃ、コレ凄いんじゃぞ!」
「きゃあ!そんないきなり揉んじゃだめですよ〜」
「おおすまん、では優しく……」
ザバッ!!「狐音姐さんだって凄いのあるじゃないですか〜」
「わっ!ユウメやめんか!揉みしだくな〜!」
「ネコメ、あれは羨ましいか?」
「え?ん〜三人大きくて綺麗だし良いなって思うよ」
「アタシのアートになり得る素材、三人の絡みを描くのも良い」
「ヘビメちゃんなら色っぽく、でも肉感的に描けそう」
大浴場、女子風呂はカオスだ。唯一の男、縁は存在感を消すしか無い程女子の裸の付き合いに追いつける気がしなかった。
「しばらく騒がしいぞこりゃ……」
酒持ち込みまではやってないが、その前に飲んだ二人を中心にやりたい放題だ。実際見えないが聞こえる音や声で簡単に想像付く、しかもいかがわしい寄りのわざとやっているような感じの事。
このままでは、いずれ男女の壁を突破してしまうだろう。浸かり出して時間も頃合いだ、縁は女性陣に向けて声を掛けた。
「皆さーん、そろそろ上がって脱衣所バルコニーに行きませんか?」
「あ、牛乳飲みたいですわ〜」
「私、アイス買ったの」
「今なら湯冷ましがてら星を見れるでしょうね〜」
「スケッチブック持ってきたら良かった」
各々の風呂上がり誘惑に誘導成功したようだ、上がっていく音がする。一人を除いて……
「狐音さん、まだ居るでしょ?」
衝立越しに呼んでみた、すぐに笑い声が聞こえてくる。
「お主も大変じゃのう〜皆をまとめていくのは慣れたかの?」
「お酒飲みの二人が大変なんですよ」
「ホッ、言うようになったわい」
それから少し湯を楽しみつつ狐音と話す。
「ユウメさん、ジャノメさんにリュウメ院長から少しこの幽荘と幽導村について聞けました」
「ふむ、してお主はどう考える?」
「僕は直接何も出来ませんが、皆が笑って力と経験を蓄える場所を管理人として管理するだけです。……今は」
「そうさの……孤児が生まれる根絶は難しいのう、この地域は特に風習として根付いてしもうた。それこそ遥か昔からの風習としてな」
「でも今は変わってきたんじゃないのかと思うんです」
「……ほう?」
「現代の環境進化や整備で田舎は減った分、子供らが夢を持ち外に向かいやすくなったのかと。幽荘来て浅い僕が言えるもんじゃないですが……」
「いいや……間違っとらんよ」
「え?」
「お主は現代の子、更にこのしがらみある田舎では無い人生選べる都会から来た。それはお主にしかわからん感覚なんじゃよ」
「選べる……ですか」
「うむ、儂も幽荘と幽導村に関わりどのくらいになったか……そんな儂でも答えはまだ無いんじゃ。でも僅か数ヶ月でお主は変えるきっかけを作った」
縁は手探りながら今浸かってる温泉を見渡し、幽荘住人との交流と所縁ある人々との出会い。
幽荘に来て二ヶ月を過ぎようとしている中で、何を成せたかはっきりは出なくとも人と場の雰囲気は変わってきたと縁は感じている。
「お主の両親、隆二と里子の思惑もあるじゃろう。だが縛られんでええ。お主はお主なんじゃからの」
衝立の向こうでバシャバシャと音が遠ざかる、狐音も脱衣所に向かったようだ。
縁も温まった身体を引き上げ脱衣所に行き、着替えてバルコニーに出た。
「おぉ、予想以上にリラックススペースですね」
先に上がっていたユウメにスズメ、ネコメとヘビメ。
各々牛乳やアイスを食しながら暗闇に光る星空を見たり、目の前の自然から送られる風に当たったりとまったりだ。
「管理人さん〜そこのドリンクやアイスは好きに食べて下さいませ〜ユウメからのプレゼントですから〜」
「はは、ありがたい!では遠慮なく……頂きます!」
縁はパックの牛乳を貰い皆と乾杯の動きをしてから飲んだ。
(あ、うま。温泉上がりで牛乳片手に、こんな素敵バルコニーで休憩は贅沢だな)
設計から建築まで追加してくれたジャノメさん達に感謝だ。
「ふぃ〜脱衣所にドライヤーとは便利じゃの」
いつもよりサラサラな髪に温泉上がりの色気を漂わせ狐音も合流した。
「儂の要望は飲めるスペースじゃったが、今度椅子とか買いに行きたいのう。板間のままじゃ少し痛いじゃろうに」
確かにバルコニーに椅子を入れるのは良い案だ。
「良いですね、ここもまた変えていきましょう」
「うむ、今日は皆で座りながらじゃがそれもまた良い」
カシュ!
狐はドリンク冷蔵庫からビールを出していた、まだ飲むか。
「お酒は二十歳からだよね?」
「え?そうだけど……ネコメちゃんはまだじゃないかな……」
「うーん……まだダメかな」
何を悩む必要があったのか、縁は突然酒に興味を抱いたネコメに驚く。
「ネコメや、もう少し見た目が成長してからじゃの。誤解を招く」
狐音が宥める、てっきり勧めるのかと思ったが倫理観は正常のようだ。
ふとヘビメが不思議な動きをしているのが気になった、構図を探るような手でフレームを作りポイントを探している。
「ヘビメさんどうしたんですか?」
「ん、ここアトリエに良さそう」
「ここで絵を描くんで?なんかそれがもう絵になりそう……」
「縁、椅子買う時はついて行くから」
「え、あ、はいわかりました」
こだわりがありそうだ、家具屋を調べておこう。
「うふふ、縁さん街行く時は私も行きたいですね〜」
「スズメさんも何かカスタムしたい感じですか?」
「ええ、サウナを頂いたでしょ?調べたらサウナの入り方があるみたいで、幸い側に川もあるしベットになる椅子が欲しいんですよ〜」
そう言えば今日はサウナ使わずだったが、今後楽しめるだろう。縁は覚えておく事にする。
パッと動いてる影を見る、狐音とユウメが真剣な顔でバルコニーの一角にイメージをしているようだ。
「ユウメよ氷も必要にならんか?」
「うーんグラスも足りませんわね〜そもそも洗い場用シンクと水道が無いですから……」
「ジャノメをまた呼ぶかのぅ……しかし流石に怒りそうじゃのう」
「二人して何やってるんですか?」
「管理人さん〜この一角が良いスペースなんでバーカウンターが欲しいなって〜」
真剣に妄想していたって事だな……
「まあそれは難しいでしょ……」
「ですよね〜」
「まず休める椅子かソファかの、買い物する時は儂も行くぞ!」
椅子の買い物は構わないが軽トラは二人しか乗れない、一応荷台に荷物があって荷台番としてなら追加乗りは出来るが……
「まあまあ、お二人共少しずつ揃えましょうよ」
温泉上がり、今後の憩いの場となるバルコニーを皆で想像しながら夜が更けていった。




