アーティストと狩人お姉さん
不気味な現象も気になりながら、狐音に連れられ来たのは一〇二号室。
縁の真下の部屋だった。
「ここにはちょっと奇抜な奴が住んでおっての、アーティスト目指しとるんじゃがスランプと言って引き篭もっとるんじゃ」
また引き篭りなのか……縁は頭を抱える。
「おーい、若い男連れて来たぞい!」
ドンドンドアを叩く、やはりインターホンは壊れてるのか。
やがてドアが開いていく。
「男?若いの?」
出て来たのはこの場所に似つかわしく無い繁華街に居そうなギャルメイクで武装されたおねーさんであった。
「こやつはヘビメじゃ、アートに打ち込んどるのだが波が激しくての、丁度若い男を探してたんじゃよ」
「あ、上に越して来ました管理人の紬縁です」
「……うーん、まあまあ、入って」
一瞬見るだけじゃなく何かを測られたような……
狐音を見ると「ダメ元じゃ」と背中を押される。
「……失礼しま……なんだこれは」
部屋一杯に作品が詰まってる、絵画から造形物までどれも確かにアーティスティックと言うか前衛的な物ばかりだ。
作品に目移りしてるとヘビメは声を掛けてきた。
「脱いで」
「……え?」
「脱いで」
間違いなく服を脱げの意味だ、いや女性の前でいきなりそれは覚悟が……
「縁よ、脱ぐのじゃ」
えぇ、狐音まで言い出した……
「いや、ちょっといきなりすぎません?」
ヘビメは構わず言った。
「脱いで」
この人やべぇ……目が座ってると言うかロックオンされてる。
(これは……逃してくれない……ええいままよ!)
ヤケクソ気味に服を脱ぎ始めた。
「もういい」
「え?」
「着ていいよ」
ヘビメは上半身だけを見てストップをかけた。
「ふむ、合わなんだか」
「狐音、この子野生が無い」
「まあ今日来たばかりの都会っ子じゃからのう、まだまだ肉も無いしのう」
脱がされただけでなく散々な事言われてる……泣きそうだ。
ここで狐音がヘビメに耳打ちをする、なんだか嫌な予感しかしない。
「一理ある」
「決まりじゃな、長い目で見ていこうかの」
「あの狐音さん……何を?」
「簡単なことじゃよ、これからここでヘビメ好みに育てていく、それもまたアート作りじゃないかと提案したんじゃ」
「毎日筋トレ頑張って」
肉体作りが仕事の管理人なんて聞いた事ないぞ……管理人なのに管理される側になってる……
「アタシヘビメ、週一でチェックするからよろしく」
「……はい、宜しくお願いします」
「うむ、解決に向けて頼むぞ縁!」
部屋を後にしたが強制トレーニングが待つ事に先が思いやられる。
対照的に狐音は上機嫌だ。
「いやー皆の気持ちが晴れてくれるのは良い事じゃ、助かるわい」
この様子だと残る二部屋も覚悟しといた方が良いだろう。
ヘビメと別れてどっと疲れも出てくる。
(そういえば朝から運転して幽荘着いてから動きっぱなしだな)
なんだかんだ初日からハードである。
そんな縁の様子を見た狐音からお誘いがあった。
「なんじゃ疲れとるの、まだ飯を食っておらんのか?」
「あぁハイ、移動もあったんで……あ、そういえば調理場聞いておきたいんですが」
「ふむ、まだ案内しとらんかったの〜何かつまむ物用意してやろう」
おいでおいでと手招きされ、温泉に向かった側と反対のアパートの裏手へ連れて行かれる。
「ほれここじゃ、なかなか立派じゃろ?」
胸を張り指し示す場所は、ここで見た何よりも管理されてる頑丈そうな丸太小屋。
外柵がついているのは野生動物の侵入を阻む為か?
牛の牧場柵みたいな頑丈の物で覆われている。
「猪や熊がでるからのう、気を付けるんじゃぞ」
やっぱ出るんだ……
「ほれ、中入るぞ」
狐音は軽やかに入っていき後をついて行く。
意外に中は広く三.四人くらいで調理しても余裕あるスペースだった、コンロもガスコンロが六口も有りキャンプで使うような釜戸も2つ、調理器具も数多く揃っており下手したら敷地内で一番充実した場所じゃないだろうか。
「冷蔵庫デカ!冷凍庫も更に別にあるしレンジやオーブンに何か分からない機械まである……」
なんだか飲食店のキッチンみたいな設備だ。
「ほれ、ワシの分けてやるから食って回復せい」
渡されたのは市販の冷凍パスタ、レンジだけで出来る簡単な物だ。
「お主料理はするのか?」
不意に聞かれた。
縁は特別料理をするわけでは無いが、特に不得手でもなく普通の食べる物をレシピ通り作るくらいなら出来る。
「得意って訳じゃないですが、食べる分なら作りますよ」
「おお!ならここを存分に使ってくれ!一人を除いて幽荘の住人は料理からっきしでの」
こんな立派な調理場があるのに……?勿体無くない……?
「一人料理にのめり込んでおるんじゃが納得出来ないと出さない気質での〜」
頑固親父みたいなのが居るんだろうか。
そう話していた時だった。
調理場の入り口が開いて誰か入って来た。
「おお丁度良い所に来たの、おーいスズメー」
スズメと呼ばれ入って来たのはなんとも綺麗なお姉さんであった。
清楚な雰囲気と少しミステリアスな空気を纏い目が鋭い。
「あら狐音さんこんにちは、そちらの方は?」
「あ、今日から管理人としてお世話になります二〇二号室の紬縁です!宜しくお願いします」
「あらあら縁さんね、狐音さんから話聞いてましたよ〜宜しくお願いします」
とても綺麗にお辞儀をされ見惚れてしまう、良かったまともそうな人も住んでるんだ。
「スズメ、主は狩りに行っておったのか?」
「うふふ、猪が獲れたので皆で頂きましょうか〜すぐ解体しますからね〜」
……やっぱり何かちょっと変な人ばかりかもしれない。
「私、スズメは一〇三号室に住んでいますが日中狩りに出かける事が多く御用の際はこちらをお使い下さい」
「これは……?」
「色付き狼煙玉です」
……うーん、ワイルドレディ。
「では私は早速解体を始めちゃいますので、血と臓物が苦手なら避けられた方が宜しいですよ」
「全く、縁もここを使う事になるから程々にの、それじゃあ最後の住人紹介しに行こうかの」
最後の住人、お隣の二〇三号室になる。
「ほれ血を見る前に行くぞ行くぞ」
狐音さんに背中を押されながらチラ見したスズメさんは、笑顔で猪の首に大きな包丁を突き立てようとしながらヒラヒラ手を振ってくれていた……
「あの、狐音さん思ったんですけど…ここって皆女性の方しか住んでないのですか?」
「おおそうじゃよ、だから縁のような男手は重宝されるし良かったのう!モテモテじゃ」
クセの強い方々ばかりで自分が無個性と思える、そう縁は感じていた。
「ほれ、二〇三号室最後の住人の部屋じゃ」
そうこうする内に部屋の前へ立ち止まる。
コンコンコンコン
やっぱりインターホンは壊れてるのだな。
「おーいユウメ」
……反応が無い。
「留守なんじゃないですか?」
「……いや、中から見とるじゃろユウメ」
どういう事だ?
その時カチャリとドアが開いた。
「さすが狐音姉さん、欺けませんわね」
出て来たのはモデルかと見紛う普通の人とは違うオーラを放ち、長髪ブロンドに素晴らしいボディスタイルをお持ちの美女がキラキラしながら出て来た。
見惚れてしまうまま言葉も失う。
「ホレ、ボーッとしとらんで挨拶せんかい」
狐音に促され我に返る。
「あっ、隣に越して来ましたえに…」
「縁さんですわね?今日一日見ておりましたよ、お優しい方で嬉しゅうございます、私はユウメ」
…見てた?どこで?
「ユウメも相変わらずじゃのう、まあええその内わかる事じゃ」
「そうそう、その内わかりますので今日はご挨拶だけにしとかないと縁さんが混乱してしまいますわ」
既に混乱の一日なんだが……
「……とりあえず宜しくお願いします?」
「はい、お隣同士ですし管理人として頼らせて頂きますので」
うふふ失礼しますね、と艶やかに笑いまた部屋に戻ってしまった。
「よし、これで全員と顔合わせたの〜ま、わからん事あれば儂に聞いてこい」
カラカラと笑いながら狐音も部屋に戻ってしまった。
とりあえず自室に戻るかと部屋を開けた。
縁は今日会った一人一人を思い出していた。
・一〇一号室元々の管理人の狐音
・一〇二号室のギャルアーティストのヘビメ
・一〇三号室の狩り美女のスズメ
・二〇一号室のヘッドフォン少女のネコメ
・二〇三号室の金髪モデルみたいなユウメ
一人一人思い出し縁は悟った。
「クセしか無い、女性しかいない」
この先大丈夫なのか自分と頭を抱える。
とりあえず温泉がある、温泉に入ろう疲れた、と入浴の為部屋を出て行った。
出て行く縁を見つめる視線に気付かずに……




