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幽荘物語  作者: かずや


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少女ネコメ



 今日から共同生活が始まる。

 一つ屋根の下、アパート管理人業が本格的にスタートだ。そのはずだが、全くもって業務の説明は受けていない。

 狐音さんは飄々としたままだったし、他の住人はどこか皆癖が強い。

 どうしたものかと思いながら、縁はアパートを観察してみる。結構な寂れ具合に、放置は危険じゃないかと思えるような扉のガタ付きや外壁のヒビ。

「何故皆平気なんだろう…」

 特別な資格は持って無いが日曜大工ぐらいは出来るはず。優先順位が高いとすれば、扉だろう。力を込めれば間違いなく外れてしまう。

 幸い蝶番の部分が劣化して錆てるだけで変えれば直せる。

 しかし、どうしようにも資材が無い。

 調達しようにも土地勘が無いし、そもそもこの田舎の山に店等あるのだろうか?

「狐音さんに聞いてみるか」

 一〇一号室を訪ねてみる、狐音さんが一応もう一人の管理人なのだから一番知ってるであろう。

 コンコン

 インターホンは全滅なのでノックしかない。それもどうかと思うが、電気が絡む事は手が出しにくい。業者を呼ぶとかだがこんな僻地に来てくれる業者はいるのだろうか?

 しばらく考えてるとドアが鈍い音をして開いた。

「なんじゃお主、なんか用かえ?」

「あ、狐音さ…」

 縁は固まった。

 見事なお身体を際立たせるキャミソールとショートパンツ姿で出てきたのだ。

「ちょ、狐音さん大丈夫なんですか!?」

「なんじゃこのぐらいで、お主ウブじゃのー」

 全く気にしてない美人の姿にラッキーと思うのが健全かも知れないが、こんな男一人のアパートで女性陣に後ろ指指されようもんなら生きていけない。

「とりあえず何か羽織ってください!」

「なんじゃなんじゃ自分から来たくせにのう……」

 ブツブツ言われながら狐音は奥に引っ込み出てきた。結局透けた薄いカーディガンが選ばれたようだが、もう良いと縁は諦めた。

「狐音さん、とりあえずですが玄関ドアを直そうと思ってるんですよ」

「ほう!直せるのか?」

「蝶番を交換しなきゃですが、その為の資材や工具を調達したいんです」

「ふむ、確かにワシも少しだけ放置しておったからのう」

 ……少し?縁は信じられない顔をしたがすぐ戻す。

「それで買い物が出来る街に行きたいんですが、近くってどこかありますか?」

「なるほど、一番近いのはホレそこの前の山越えたら街じゃよ」

 指指された山の方に一本道路が走っている、どうやらあれを辿れば街に行けるようだ。

「ちなみに時間掛かります?」

「お主の軽トラじゃろ?一時間も掛からんよ、ワシらは歩いて行くから泊まりだったりするがの」

 江戸時代みたいな生活してるのかここの住人は。

「今は便利な世の中じゃから通販に頼りきりじゃけどの」

 思ったよりも現代の生活していた。届くのか通販。

 通販届くなら資材買いに行かなくても良さそうだが、何かある時の為に自分で場所や経路確認はしておきたい。

「じゃあとりあえず今日は僕行ってみますね」

「うむ、気を付けての……ってどうしたネコメ?」

 (ネコメ……?)

 後ろを振り返るとちょこんと可愛らしく座っているヘッドフォン少女のネコメが居た。話を聞いていたのだろうかいつの間に。

「……たい」

「ん?」

「私もお兄ちゃんと街行きたい」

「ほう、ネコメが珍しい」

 ルーターの件から懐いてくれたのか友好的で嬉しい限りだ。

「縁よ、ネコメも連れて行ってやってくれるか?」

「構いませんよ、ネコメちゃん行こっか?」

 可愛らしく頷き手を握られる、なんだこの可愛らしい生き物。

「あー管理人として使う物は経費じゃからの領収書切るのと、ホレ」

 狐音さんからカードを渡された。真っ黒なカードだが……

「主の管理人給料入るまで要り用じゃろ、食料品とかも買って良いからコレを使え」

 ありがたい申し出に頭を下げる、しかし……どう見ても見た事ないカード……ブラックカードってやつじゃないのか……?

 狐音さんが何者かについて今は深く考えず、ネコメと待ち合わせの時間を決めて部屋で準備する事にした。


 必要そうな物をリストアップして部屋を出ると、ネコメが部屋前にちょこんと居た。

「おわ!ネコメちゃん来てたの?」

 こくりと頷き準備は出来ていたようだ。ヘッドフォンを首から掛けてキャップを被り、なんだかカッコいい雰囲気を出している。

「行こっか」

 縁の言葉に笑顔を見せて手を繋いでくる。こんなところは可愛らしい少女である。

 引っ越してきた軽トラは元々自宅ので、父から「無いと無理」と言われていた。確かに車が無いと街には行けないだろう。

 (狐音さんは歩いて一泊とか言ってたが……)

 通販来るとは言え、若い女性だらけでどんな生活してたのかは気になった。横に座るネコメなんか見た感じ十代中盤である。

 色々聞いてみるかと車を動かしながら話しかけた。

「ネコメちゃんは街で何か見たかったの?」

「うん、新しいキーボード」

 好きな物がパソコン関連やガジェットなんだろうか?今時の子にして今時じゃないアパートに住んでるが……

「ネコメちゃんの部屋凄いパソコンあったけど、自分で調べて買ったの?あそこに持ち込んで接続は大変だったんじゃ……」

「ユウメ姉さんに手伝ってもらった、人が一杯来てすぐだったよ」

 ユウメ……あのモデルみたいな金髪お姉さんか。

「皆は仲良いの?」

「うん、たまに皆で温泉入ってる」

 良かった、これで住人同士険悪だったらどうしようかと思う。皆、クセはあるが悪い人でも無さそうだ。

「お兄ちゃん」

 ふとネコメに呼ばれる。

「お兄ちゃんは何で幽荘に来れたの?」

 来れた?聞き方に違和感を感じるが……

「お兄ちゃんはね……父さんと母さんに紹介されて来たんだよ」

「お父さんお母さん?」

「うん、ネコメちゃんは?」

「居ない」

 聞くべきでなかったかも知れない、縁は後悔をしたが……

「皆居るから幽荘楽しいよ」

 屈託ない笑顔で返してくれる、少し気が楽になった。

 そうこうしていると、道が開け市街地と言った雰囲気に変わってきた。山一つ分だが街自体はそう遠くないみたいだ。どうやら縁が引っ越しルートに選んだ道が険しかっただけのようで買い出しには困らないだろう。

 郊外にあるホームセンターを見つけたので入る、大きな電気店も中に入っておりネコメも見たい物が見つかるだろう。

 車を止めて店の中に入る。

 ネコメはあまり経験が無いのか圧倒された様子だ。

「こういうとこあまり来ない?」

「うん、あまり外出ない」

「そっか、あっちパソコン関係あるよ」

 ネコメは活き活きと小走りで向かって行く、こういうところは子供らしい。

 一緒に見て回るがふと気になった。

 (ネコメちゃんお金あるのか?)

 親は居ないと言ったしあまり外にも出ない、まだ成人もしてなさそうなこの子がどうやって高いパソコン関連の物を揃えたのか?

「うん、コレにする」

「え?それ買うの?即決?」

 大して迷う様子も無くキーボードを抱き抱えているが……それなりに良いお値段する良いキーボードだ。

「あ、お金は大丈夫」

「え?」

「私、お金あるから」

 サラッと言われて混乱する。実はお金持ちの子供?

 謎ばかり深まるが、お金の事に深入りは禁物だ。

 よし、わかったとだけ言って今度は自分の必要な物を見に行く。

 (そう言えば狐音さんからのブラックカードも謎なんだよな……)

 ブラックカード、限度額の無いセレブに許されたカード……本当に使えるんだろか。

 少し不安はあるがモノは試しだ、今日は大きな買い物でも無いし問題無いだろう。

「お兄ちゃん、何買うの?」

「ん?蝶番……ドアを直す部品だよ」

「ドア直るの?」

「やってみなくちゃだけど頑張るよ」

「応援する」

 二人で話しつつ蝶番とネジ、工具を集めてく。

「こんなもんか」

「お兄ちゃんあれ」

 袖を引っ張って指差すネコメはソフトクリームの店に釘付けだ、あれぐらいならと手を引き店の前に行く。

「何が良い?」

「え?良いの?」

 数種類ある味にキーボードより悩んでるネコメが可愛い、妹ってこんな感じかなと思える。

「イチゴ」

「よし、バニラとイチゴをお願いします」

 それぞれ受け取り店の前にあるベンチで休憩がてらソフトクリームを食べる。一口一口を感激しながら食べてるネコメが本当に可愛らしい。

「お兄ちゃん、ありがとう外出て良かった」

「あまり出ないって言ったもんね、また来よう」

「うん」

 口数は少ないけど感情は割と出るネコメと距離が近くなった気がした。

 ソフトクリームを食べ終え、レジに向かう。さあカードが使えるか……

 ピッピッとスキャンされてく商品を見届け「カードで」と店員に渡す。ドキドキしてくる、悪い事してないのに。

 ピッとカードが通り、手渡された。

「ありがとうございました〜」

 通った、ちゃんとカードは通ったのだ。当たり前なのだが……

 無事に買い物を終える事が出来て安心していたが、ネコメは自分で払うと後に並んでいた。まだ安心出来ない。

 すぐ動けるように様子を見ていたが、ネコメの動きは軽やかにスッとスマホをかざして電子決済をした。

 (スマホ持ってたのか)

 ホッと一安心をして合流する。

「ネコメちゃんスマホあったんだ?」

「うん、狐音さんが持っとけって」

 割としっかりしてるんだな狐音さん。ちょっと失礼な事を思いながらも買い物が終わり帰るだけだ。

 そこでモジモジと何かを言いたげなネコメに気付いた、トイレかな?と思ったら……

「お兄ちゃん、番号交換しよ……」

 ネコメはスマホを持ち上目遣いでおずおずと聞いてくる、これは断れない可愛さ。

「う、うんえっと……どうするんだったかな……」

「これをここ押して……あ!登録された!」

「おーありがとう、ごめんねお兄ちゃんあまり友達が居なくてね」

「ネコメと一緒、同じだね!」

 これで友達だね、と可愛らしく言われてドキッとしてしまう。

「よ、よーし、それじゃあ帰ろうか!」

「おー」

 荷物を持ち込み車を動かす。数分する内に……

 (ネコメちゃん寝ちゃったな、キーボード抱えたまま)

 あどけない寝顔で、今日の買い物に疲れたのかスヤスヤ眠っている。

「おやすみ、ネコメちゃん」

 そっとおやすみと投げかけて、揺れが無いよう安全運転で幽荘へと帰っていった。


 ――その夜温泉で。

 

「おやネコメ珍しいの一人で温泉とは」

「あ、狐音さん」

「今日は楽しかったかの?」

「すっごい楽しかった!」

「良い事じゃ、また楽しい事あるじゃろ」

「うん!」


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