女の子
とりあえず荷物は部屋に放り込めた、荷解きは後にしようかと縁は息を吐く。
(親父とお袋はここになんの繋がりがあるんだろう?)
どう考えても昔から、それも数年どころではない間この辺りは野山でしか無いのは明らかだ。
両親の出身は東京都心の都会育ちとか聞いたことあるが、それも怪しくなってきた。
息子の縁から見ても適当なところが多い両親だ。
まあその両親から産まれた自分は二十のニートなのだが。
自分を嘆くのは後にして一〇一の管理人さんの部屋へ向かう。
名前も聞きそびれたし今後の流れを確認しておきたい。
「よし!」
気合いを入れて部屋を出る。
管理人さんの部屋に来たがインターホン壊れてたんだよな……
先程鳴らなかったインターホンを見て優しくノックする
コンコン
……
「あれ?部屋に居るって言ってたんだが……」
コンコン
もう一度ノックするも反応が無い、しばらく考えてると。
「主どうしたんじゃ?」
また背後から声を掛けられ身体が飛び跳ねる。
(この人気配無さすぎだろ……)
恨めしく振り返ると管理人さんの顔が火照りなんだか色気が漂っている。
「あ、もしかして温泉でしたか申し訳ない」
間違いなく湯上がりであろう姿、目線に困るが管理人は笑い飛ばした。
「気にするな気にするな!なんならもっと見てもええんじゃぞ!」
揶揄うようにパタパタと上着を動かす。
少なくとも初日でセクハラ男の烙印を押されたくは無い。
理性を保ちながらも目線はアワアワしながら言葉を振り絞る。
「そ、その管理人さんのお名前聞いてなかったなって!それに今後どうするのか予定とか聞きたくて!」
縁は頑張って言葉を振り絞った。
しかし管理人さんの揶揄いは止まらない。
近寄った気配がした時には艶やかな唇が耳元にあり囁かれた。
「ワシの名は狐の音と書いて狐音じゃよ」
「うわわぁ!」
「ホッホ可愛い反応するのお主」
縁の反応が面白かったのか笑いが止まらない狐音さんを見ながら力が抜ける。
「狐音さん…勘弁してくださいよ…」
「すまぬすまぬ、そういや荷物は運び終えたのかえ?」
「はい、荷解きはまだですが寝食は出来ます」
「うむ、ではここの管理についてじゃが……先に着替えても良いかのう?」
配慮が足りなかったと頭を抱える。
「すいません!」
「構わんよ、ワシが主の部屋行くから荷解きしながら待っとれ」
とりあえず一区切り付けた形だが、この先が思いやられる。
(一応二十歳の男なんだけど小学生みたいな扱いされてるよな……)
少し男としての自信を無くした縁はトボトボと自室へ戻るのであった。
縁は部屋で荷解きを進めているとノックの音がした。
(もしかしてここもインターホン壊れてんのか)
返事をしながらドアを開けると、目の前に着物を着た狐音さんが居た。
「え?普段着着物?」
「基本ワシはこの姿じゃよ、ラフな姿もするがの」
これはこれで狐音さんの雰囲気に合う姿だが……ともあれ来て頂いたので中にお通しする。
「すいません散らかってまして」
「気にするな気にするな、時間掛けて整理するがよい」
まだお茶も出せないが、とりあえず当面の話を伺う事にする。
「それで俺はここで何をすれば良いんですかね?親からここに住めとしか言われてなくて…」
「ふむ、隆二と里子はよーく知っとるよ、あやつらも変わらんの」
隆二と里子、父親と母親の名を知ってると言う事はますますこの場所との繋がりがわからない。
「まああやつらの話はいずれな、取り急ぎやって貰いたい事があるんじゃ」
「できる事なら何でも」
「良い返事じゃの、この部屋の隣二〇一号室の住人なんじゃが……部屋を改造した際にこれまで使えとった機械が使えなくなったようで不貞腐れて引き篭もっとるのじゃ」
「えぇ……」
「主若いから機械いけるじゃろ?手助けしてやって欲しいんじゃ」
「えぇ……」
まさかの依頼に同じ事しか言えなくなる。
若い=機械に詳しいはお年寄りの発想なんですが……
とりあえず見てみないことにはわからない、直せるかは別としてやってみる事に。
狐音と共に二〇一号室へとやって来た。
コンコンコン
「ネコメー!出てこい〜機械直せるかも知れんぞー」
狐音が呼び掛けながらノックを連打する。
インターホンどこも壊れてんのか。
しばらくするとドアが少しだけ、ほんの少しだけ開いて隙間から目が見えた。
「ネコメ、ほら機械見てくれるんじゃよ出といで」
「直せるの?」
幼なげある声が聞こえてくる。
「見てみんとわからんから入れておくれ」
「うん」
やっとドアが開いた。
そこに見えたのは小柄な少女、大きなヘッドホンを首に掛けてカラフルなシャツにハーフパンツと言ったボーイッシュ系な女の子だった。
「ほれ、まずはこちら新しい管理人でネコメの隣に越して来た縁じゃ」
「紬縁です、よろしくねネコメさん?」
小さな子だし出来る限り優しく接してみたが、どうにも人馴れしてないというか狐音の袖に捕まり見つめてくる。
「ほれほれ、ネコメ挨拶せんといかんじゃろ」
「……私ネコメ、よろしく」
片言だけどネコメさんはなんとか挨拶をしてくれた。
挨拶なのか……?
とりあえず何が起きてるかを聞きたい。
「あのネコメさん?何が起きたの?」
「…きれたの」
「ん?」
「ネットが、切れたの」
「……とりあえずちょっとだけ見せてくれる?」
コクリと頷いて部屋に上げてもらえた。
「おぉ……」
カーテンの閉め切られた暗い部屋にモニターの明かりだけが部屋を照らしている、必要最低限の生活空間よりパソコンとモニターのスペースの方がデカい。
「凄い部屋だ……」
思わず声を出してしまい、しまったとネコメを見たが何でか照れている。
ツボがわからん……
「えっと、ルーターは……あっ!……よし」
「……!!」
繋がった、ただ線が抜けてただけである。
(こんだけパソコン設備充実させてるのに線抜けに気付かなかったの……なぜ?)
呆気ない解決を経てネットが繋がる、みるみる内にネコメの顔が明るくなる。
「ありがとう!ありがとう!!」
ぴょんぴょん跳ね全身で喜びを表すネコメを見て狐音と共に微笑む。
子供らしい無邪気な笑い方をしながらネコメは抱きついてきた。
「お兄ちゃんありがとう!」
頭を擦り付けて強すぎるぐらいの愛情表現に出会った時の人見知りはどこにいったのか。
「良かった良かった、改めて隣に住む縁ですよろしくね」
「うんネコメです!よろしくです!」
「うむ、大活躍じゃ縁!ネコメお主は数日引き篭もっておったじゃろ?風呂じゃ!入れてやるからの!」
狐音さんに担がれ行ってしまった……
なんとか初仕事成功……?なのか?
とりあえず部屋へ戻るかと動き出した時、ふとネコメ部屋が気になった。
(一人で住んでるのか?こんなとこであんな少女が?)
縁は湧き上がる疑問に今は蓋をした。
一度部屋に戻り荷解きを再開する。
今ネコメを狐音が温泉で洗ってるからまた来るだろう、せめてお茶ぐらい出せるように……
(そういえば調理場は別って……どこだ?)
部屋には勿論無いがパッと外を見渡しても山しかない。
カセットコンロ持ってくるべきだったか、どうするかと悩んでた時だった。
(ふふ、やるわねぇ)
「え?」
不意に部屋内に声が響いた、部屋には一人のはずだが……
背筋がゾクゾクしてきたが、まだ昼過ぎの太陽照りつける時間である。
(なんだ?さっきから視線も感じるような……ヤバくないかここ?)
不安を感じながら部屋を見渡すも荷物しか無い。
なんだなんだとソワソワしてるとドアが勢いよく開けられた。
「ネコメの問題片付いたの!お主なにやってるんじゃ?」
いきなり開いたドアに驚き腰を抜かす情けない二十歳、成人男性が生まれた。
「狐音さん、ノックして……」
「まあええわい、ホレ次の問題じゃ」
(不気味な出来事は後で聞くか……)




