幽荘へようこそ
——幽荘へようこそ。
都会部からガタガタと荒れた道をトラックで進む事三時間は経った。
景色はもう一面に広がる田んぼに畑に山の風景。
のどかと言うか野生味の方が強く感じる。
「熊と鹿と猪とその他野生動物注意」
見たくない看板が見えた気もする。
目的地に向かう軽トラックを運転しながら、男は親を恨めいていた。
「二十歳でニートしてるお前には、アパート管理人となってもらう!」
「ううっ!縁ちゃん頑張ってね……」
両親の演技くさい涙と宣告により、家を追い出されたような形であった。
紬 縁二十歳、浪人であるが親からはニート扱いの為、家庭内地位は飼い犬より下で金魚よりは上であった。
「しかしどれだけ遠くにアパートなんか持ってたんだよ……管理してこいも何も管理人居るって話じゃねーか」
縁は悪態をつきながらも山道を走っていく。
そうこうしてると、ようやく目的地である地域まで来たようだ。
(幽導村……この辺りか)
自然の一言で全て表現してしまえる目の前の景色。
コンビニはおろか寂れた個人商店すら期待出来ない、と言うか民家も無い。
「何考えてアパートなんか建てたんだよ」
しばらく道を進むと見えてくる遠目で古いとわかるアパートらしき建物。
(あれか……)
長旅を終え、辿り着いたアパートはなかなかの古さを漂わせている。
まず、木造であるのは一目でわかり塗装されていたであろう部分は剥げてる。
建ってるのが奇跡かと思えるほど古い。
(確か親父は明治か大正あたりに経ったとか言ってたな)
ボロボロの柱にボロボロの掘られた字が見える。
「幽荘」
歴史あると趣を感じるのは手入れされた古さに対してであり、野晒しの古さ程怖さを感じる物は無い。
とりあえず管理人を探すかと、縁は共用玄関っぽいアーチをくぐり一〇一号室のインターホンを鳴らす。
カチッ
カチッカチッ
(壊れてるのか?)
「何もんじゃお主」
突然背後から声を掛けられ飛び跳ねてしまった。
「あ、すいません今日からこちらでお世話……」
振り向きながら言おうとした言葉が詰まる。
(うお、凄い美人)
少し吊り上がった目尻に通る鼻筋、日焼けを知らなそうな白いきめ細やかな肌に一番目を惹くのは長く黄味がかったサラサラの白髪?金髪?だろう。
「あ、すいません父から紹介でこちらで管理人としてきました、紬 縁です」
「おお!手紙で聞いておるぞ!そなたが縁か!」
「ハイ、宜しくお願いします……と言ってもここに行けとしか言われてなくてわからない事だらけで……」
「ふむふむ、任せい!ならば案内してやるわ」
(ズバズバ豪気な人だな……ん?)
前を歩き出した女性のお尻から何か伸びてる?
一歩歩く度ふりふり揺れて可愛い、こんな場所でもなんかオシャレはするんだな。
呑気に思いながら女性の後を付いていく。
「まずここじゃな、お主の部屋二〇二号室じゃ」
なかなかの風合い……と言うかドア外れそうだが大丈夫なのか?
「なーにボロっちくても中は普通じゃホレ」
鍵を渡され開けてみる。
中は畳張りのワンルーム、トイレはあるが調理場は共用だそうだ。
「あの?お風呂は?」
「ふっふっふ共用風呂じゃが自慢の風呂があるわい」
また外に連れられアパートの裏側へ移動する。
そこには湯気立ち上り簡素だが壁が作られた温泉があるではないか。
「おお、凄い!」
「じゃろ?ここは入りたい放題の温泉じゃ、でも脱衣所は無いからそのへんの茂みでの」
温泉は立派だけど脱衣所は無いのか、女性は良いのかそれ?と縁は思う。
「ふむ、まだ昼過ぎだから住人は紹介出来んな、主の荷物入れといたらどうじゃ」
「あ、じゃあそうします」
「ワシは部屋に居る、何かあったら聞きにこい縁よ」
「ありがとうございます」
とりあえず荷物を運ぶ事にする。
(あ、管理人さんの名前聞き忘れたな……まあ後にしよう)
黙々と荷物を運び出す。
……?
ふと何か見られているような感覚、視線が注がれていたような気がした。
(気のせいか……?)
続けて荷物を運び入れ、最後の荷物を部屋に置き息を吐く。
「ふーっ、一人分と言えど量があったな〜……」
ぐるっと家から持ち出した荷物の山を見回していく。
(あれは布団、あれは服、あれはミニラック、あれは顔、あれは勉強道具、あれは……え?)
パッと顔を動かすが荷物の間から見える壁しか無い。
(……疲れてるのか?)
一瞬見ては行けないモノを見た気はするが何も無い。
縁は僅かな不安が芽生えてきていた。




