ショータイム!!
——ショー開演時間。
小さく流れていた音楽が止まり、照明が落ちる。
(お、始まるか?)
アップテンポのBGMが掛かり舞台がライトアップされた。
観客の盛大な拍手と共にトップバッターが舞台袖から現れた。
「っ!」
トップを飾ったのはユウメであった。
モデルオーラが凄まじく一気に惹き寄せられる。
孤児院に来た時のスーツでは無く、鮮やかに輝くツヤのある真紅のドレスを着ている。花道の無い舞台だが横の移動だけで観客を魅了しているのが伺える。
「……あんな顔するのか」
ユウメがモデルとして魅せる顔に、縁は鳥肌が立つ。
綺麗さ可愛さ美しさ強さと、どれもを持つ顔立ちだ。
ユウメはそのまま舞台中央でお辞儀をし、マイクを持って宣言した。
「お集まりの皆様、本日は幽導孤児院ファッションショーにお越し頂きありがとうございます。僅かな間ですがお付き合い下さいませ」
お辞儀をもう一度して舞台から捌ける、間髪入れずに次のモデルが登壇した。
二番手はトラメだった、やんちゃぶりはどこへやら。
ピッタリと合ったシルバースーツを着こなし堂々としているではないか。
舞台中央でポーズを取る……拍手と微笑ましい笑いが起きた。ポーズがヒーローポーズで年相応の可愛らしさがいきなり出たのだから無理はない。
それからは同様に、しかし一人一人子供とは思えない程見事に着こなしたドレスやスーツを存分に見せつけてはポーズを取る。カッコいい可愛いが入り混じるポーズシーンが孤児院ファッションショーの醍醐味なんだろう。
観客の唸りや歓声、笑いも混じって非常に面白いショーである。
会場が温まってきた中盤、ユウメがもう一度登場する。歓声と拍手が会場に巻き起こる、応える様にユウメは笑顔を振り撒いて舞台中央へ。
ユウメは衣装チェンジして、先程とは違う真っ白な飾りの無いシンプル過ぎる印象のドレスだった。その理由はすぐに判明した。
舞台中央で両手をバッと広げたと思ったら、舞台照明が青を基調に急転換しユウメは鮮やかなブルードレスを纏うようになっていた。
「すっご……え、綺麗だ……」
照明を利用したドレスチェンジを見せて、広げた両手をゆっくり身体の前で重ねる。
祈りのポーズ、そういう神様がそこに居るように見えた。大歓声と共に凄まじい拍手が起こる、縁も拍手が自然と出ている。
ユウメは一礼後に左腕を真っ直ぐ上げて下ろす動作をした、腕の動きに合わせて照明がブルーから元の白色へと変化する。
そのまま左腕を舞台袖に勢い良く振れば子供達が複数楽しそうに腕組みしながら登場、ユウメと入れ替わりで観客からの拍手と歓声を引き出している。
縁は移り変わるショーに興奮しながら思う。
撤回こそしていたがユウメはモデルを辞めるつもりだったと聞いた、これだけ感動させられるのに何故だと。
自分を魅せる事で子供達も引き立ててる、こんな事が出来る人なんてそうそう居ないだろうに。
会場の熱気が最高潮の中、モデルが途絶え音楽が静かで壮大なバラードに変わった。
照明も少しずつ色が動くような変化を見せる。
フッと照明が消えバラードのサビに合わせたように復活した、眩しさに目を細め慣れた時に見えたのは金色装飾が施されたゴージャスと言える白地スーツ身を包んだユウメが舞台に立っていた。
マイクを持ち観客にお辞儀をしている、皆総立ちだ。
「皆様短い間でしたがショーは如何でしたか?」
ユウメのその言葉に拍手で皆が応える。
「それではクライマックスを皆様拍手でお迎え下さい!」
そう言い放つと同時に子供達が両袖からどんどん出てくる、皆手を振ったり身体を揺らしたりモデルじゃ無い本来の子供のままで。
観客席に降りて子供達は皆に会釈や手を振ったりしながら練り歩き、小学校の卒業式の様に会場を後にしていく。
拍手が最後の子供の姿が見えなくなるまで鳴り止まず、タイミング良いところで院長のアナウンスが入る。
「幽導孤児院ファッションショーの閉幕と致します、皆様本日はお越し頂き——」
縁は一旦観客に合わせて外に出る事にした、舞台を見てもユウメが居ない。
人の流れに合わせて玄関に向かうと「ありがとうございました!」と子供達の声が聞こえてくる。
そこには子供達で花道を作り観客に感謝を述べる姿があった、子供に混じりユウメも居る。
流れを止める訳にはいかないので花道を通る、バシバシ子供達に叩かれてる。やっぱり子供だ、ユウメと目が合うとウィンクされた。
この破壊力はヤバい、顔が赤いまま一度玄関を出てクールダウンも兼ねて外で待った。
「如何でしたか?」
「いや……もうずっと鳥肌が立ってましたよ!」
ファッションショーも終わり、来場者も皆帰った孤児院で片付けを手伝いながらユウメと話す。
忖度なしに圧巻の一言であった。
「楽しんで頂けた様で何よりでございます〜」
ユウメは微笑み、自分の衣装を片付ける。
「そう言えば四箱持ってきたのは子供達用ですよね?贈り物って言ってましたが……」
「そうですよ、皆にプレゼントです」
ユウメはサラッと言うが、素人目で見ても一着一着それなりに良い物だと思えた。それを大量に。
「正確には孤児院への寄付になります、院長とのお付き合い長いですし信頼出来ますからね〜。変な事に使われる心配はしなくとも良いでしょう」
確かに寄付と言うのは、寄付した側された側の善意や正しい倫理観の下で成り立つシステムだ。
やはり寄付金や物の流れは透明さが必要である、実際寄付された物の着服や不透明な流れで悪事の隠れ蓑や資金源にされたりもある。
「ユウメさんはこの活動をずっと?」
「本業の合間にしか出来ませんけどね〜幽荘の皆が後押ししてくれてるから続けれてます」
「ユウメちゃんに紬君、ハイありがとうね」
院長がお茶を渡して来て横に座る。
「今日も本当に良かったわ……アナウンス中に泣くのよく堪えたと思うわ」
「院長〜泣きすぎですわよ〜」
「だってねぇ?あんなに凄い事を子供達に経験させて貰えるのよ?」
確かにユウメは凄いが子供達も凄いのである、縁自身が舞台に立つのは考えられない。子供の純粋さがあって出来るショーでもあった。
「うふふ、褒めても何もでませんわよ〜」
少し顔を赤らめたユウメは「さあ、帰りますわよ」と縁の手を引いた。
片付けも終え、孤児院の皆と別れの時がきた。
皆別れを惜しむように玄関に詰めかけ、泣いている子も何人か居る。
「あ!そうですわ、管理人さんだけタイミング無かったからこちらで……」
カチカチとセルフィー棒をスマホに取り付け、ユウメにギュッと腕を組まれる。
孤児院の皆とユウメと縁、皆が入った一枚を写真に残す。
「うふふ!良い写真ですわよ!データは孤児院にも送りますからね〜」
わーい!と歓喜する子供達を優しく見守る院長と職員達。
「縁兄ちゃん」
ふと袖を引っ張ったのはトラメだった。
「また来る?」
不安気な目をしながら言うトラメの頭を撫で、縁は言う。
「また来るよ」
嬉しそうな顔に変わり走って行ったトラメは遠くから大きなバイバイをしている。
縁も振り返し、軽トラに乗る。シートベルトをしながらユウメが言った。
「トラちゃんはいつか幽荘に来るかもですね〜」
「へ?」
「女の勘ですよ〜」
なんか当たりそうで怖いと縁は思ったが、実際訪れたのは孤児院である。
言わば、何かしらの理由で子供だけになってしまった子の集まる場所だ。
皆明るく、今日のファッションショーを非常に楽しみにしていたのが伝わった。そして最大限楽しんだ事も。
それはあの子達の寂しさの反動があるのかも知れない。
軽トラを動かし帰路に着く間、ユウメは語り出す。
「あそこは名前の通り幽荘のある地域、幽導村と関わり深くて幽荘も関わりがあります」
「それは何となくですが感じてました」
「幸せかどうかは抜きにして、あの孤児院は恵まれています。今日ショー観に来た地域住民の方々からも支援を受けれていますし、遥か昔からこの地域の子供の拠り所になっていました」
確かに一孤児院のイベントにしては盛大であり、設備も充実。孤児院自体しっかり運営されてる印象だ。
「支援が手厚い、つまり子を手放す事がしやすい場所にもなってしまうのです」
縁は言葉を失う、何かしらの理由があり存命だが親が子を孤児院に預けやすい面に気付いたからだ。
「両親を失い親戚にも受け入れられずに行き着いたならまだしも、親の意思で子を手放しに来る。……捨てに来ると言う事になり、あそこが捨てても良い場所に変わる事が怖い事なのです」
「幽導孤児院は……実際にそうされた過去が?」
「現在も事例は減ったとは言えあります、もちろん大半は回避しようが無い理由の子達ですが……歴代院長含め職員さん達の尽力でそんな面を見せない様にしている事、本当に凄い事だと思いますわ」
縁は院長と話した事を思い返す、ユウメと狐音の二人がその尽力を更に支えているのだと。
「私に出来るのはあの子達が一瞬を輝かせるだけ、微力ですねぇ」
「そうは思わないですよ」
「え?」
縁は今日のイベントを通じて、決して一瞬では無いと確信していた。
「僕は少なくとも一生もんの体験でした、きっと孤児院の子達は経験した事を人生の柱にすると信じられます」
嘘偽りの無い本音を吐き出した、ユウメがやってきた事が微力な訳が無い。むしろユウメだからこそ道標を子供達に建ててあげれてる。
「確かに何かの理由で手放しやすくなるかも知れません、でもそれは親の問題で子には全く関係ないですよ。そんな子供達にユウメさんが魅せる姿、絶対に糧になり外に翔ける大人になると思います!」
「管理人さん……ふふ」
「ユウメさん?」
「自己満足だと卑下しすぎて弱気になってましたわね、ありがとうございます」
「いや……僕は今日観た事から感じるままに言っただけで……」
「あら、赤くなって可愛いですわね〜今日お付き合い頂いたお礼にお背中流しますわよ〜」
「ダメですよ!何の為に壁作ったと思ってるんですか……」
「まあ、そんな管理人さんもウブで可愛いですわね」
ここからは幽荘に着くまで可愛いの嵐で、縁はまともにユウメを見る事が出来なくなった……
——チャプン
「……全く、ユウメや縁を揶揄いすぎじゃぞ」
「うふふ、管理人さん可愛いんですもの〜」
縁は帰宅早々に狐音にユウメを風呂に入れる様頼み、自室に篭ってしまった。
「今日、皆元気じゃったか?」
「ええ、皆輝いていました」
「儂も行きたいとこじゃが、立て込んでてのぅ」
「仕方ありませんわよ、狐音姐さんは守神ですもの」
「なんじゃ藪から棒に、懐かしい呼びしよって」
「管理人さんと孤児院の話をしていたら懐かしくなりまして〜」
「ふむ、どうやら踏ん切り付いたようで何よりじゃ」
「幽導村、やっと時代が変わりましたね」
「……そうじゃな、縁が来て楔が断ち切れるかもな」
「私は私の出来る事を致します、だから狐音姐さんも」
「ふふ、心配には及ばんよ。何年やって来たと思うとる?」
「そうですわね、でも……だからこそです」
「わかっておるよ、ありがとうのユウメ」




