ショータイムカウントダウン
朝日が眩しく田舎の朝は空気がより綺麗に感じる、縁は軽トラ前でストレッチをしながらユウメを待つ。
「こんなオンボロ軽トラに冴えない服の浪人が洒落た場所に行っていいんかな?」
正直な思いを吐露する。
「管理人さーん、早いですわね〜」
部屋から出て来たユウメは昨日みたいなセクシーな格好ではなく、ピシッと大人のかっこいいお姉さんと言えるスーツを着ている。ますます自分大丈夫かと不安になる。
「おはようございます〜少し時間早いですがよろしくお願い致します!」
予定よりも早い出発になったが誤差の範囲だ、街に向かういつもの山の細道を抜けて行く。
「ユウメさん今日は一段とかっこいいですね」
「ふふふ、ありがとうございます。流石にショーの日は服選びますわよ〜」
「そんな中で僕大丈夫なんですか……」
「いえいえ、むしろバッチリですよ。きっと管理人さんも人気になります」
「いや、ショーには出ませんよね?」
「出て頂けるなら最高のコーディネート致しますわよ〜」
「……遠慮しときます、緊張で潰れちゃいます」
軽くやり取りをしながら郊外付近にまで来た、今回ナビはユウメが担当してくれている。幽荘を出て一時間も掛からず、一つ目の目的地である貸しクローゼットがあるビルに着いた。
ユウメは「そのビルですわ、地下に駐車場がございますのでそちらへ〜」
指示されるままに車を入れるが、入って大丈夫なのか不安になる。ゲートが設置されているのだ、助手席から降りたユウメは何に手をかざしゲートをオープンした。
車を空き場所に停めて二人は近くの階段から上に上がった。
照明が眩しい、そして涼しい。
「……地下駐車場付き、指紋認証オートロック、防犯カメラ、空調付き綺麗なエントランス」
「どうされました?」
「あ、いえ幽荘より遥かに立派でセキュリティ凄いなっと……」
間違いなく幽荘のボロアパートよりセキュリティや設備は上である。恐ろしい事に人が住むのでなく、服を置く為だけの場所なのだ。
「近年では郊外にも貸し収納が増えてますからね〜付加価値を高めないとユーザーの取り合いになります事よ」
急にユウメが賢く見えた、スーツに髪を纏めてるのあって出来る秘書みたいな気がする。
「ささ、こちらですよ管理人さん」
ビルエントランスを抜けエレベーターで行き着いたのは最上階、と言っても小さなビルなので四階までだが驚きはそこではなかった。
「え?……エレベーター降りたら部屋の中?ドアは?」
縁はビルの中がいくつか区画分けされていて、マンションのような入り方をすると思い込んでいた。しかし現実は飛び越えてきたもので、四階に入ればもうモデル衣装置き場だったのだ。
「なん……だ、服の数が凄い……」
「管理人さんお気を付け下さいね〜今ちょっと迷路みたいになっちゃってて、視界が悪くなります〜」
既にユウメは奥に行きながらで見失ってしまった縁は、窓が見えたのでそこを目指した。
窓、つまりフロアの端に立って改めて衣装の数々に圧倒される。この感じだとワンフロア全て服が並んでるのだろう、人間こんなに服を着る生き物だったかと縁は首を捻る。
壁側に沿ったスペースもきっちり埋まっており、アクセサリーや帽子等の小物類も充実している。
「管理人さーん、大丈夫でございますかー!」
見えない所からユウメが叫ぶ、服のせいで姿が見えないのは中々である。
「ユウメさーん、どこですかー?」
「天井を見てくださいまし〜」
(天井?……あっ)
そこには小さな吊り看板があり、ウサギの絵が描いてある。どこかで見たような絵柄だが……ヘビメが描いたのだろうか?
「天井の看板のしまうまエリアをお探し下さい〜」
言われるがままに看板を見つつ、服の壁を倒さないよう慎重に進む。天井にしまうまの描かれた看板を見つけユウメを呼ぶ。
「ユウメさん来れました……あ、居た」
そこではユウメがダンボールを引き摺り出していた。
「ああ、良かった管理人さん。このダンボール四箱を持って行きたいのです」
少し大きめのダンボールだが中身は服なのだろう、重さはそこまででは無い。台車もあるのだが並ぶ服に当たりそうなので抱える事にした、二箱が持てる限界か。
「二回に分けますね、他あります?」
「私が着る分を数着選びたいのですが、お任せしても宜しいですか?」
「はい!では持って……エレベーターどっちだ?」
方向感覚を失い、エレベーターも見失う。
「うふふ、ちょっと今物が多いですからね〜その壁に沿って真っ直ぐです。エレベーターは地下まで行けますから」
「かしこまりました」
縁はまず二箱のダンボールを抱えて、壁に沿いながらエレベーターに辿り着く。そのまま地下駐車場まで降りて行く。
とりあえず軽トラの荷台にダンボール二箱置いて、また四階へ。
(あれ?ユウメさん自分の着る服選ぶって、じゃああのダンボールはなんだ?)
一人で着るには多すぎる量だ、ファッションショーとはそんなに道具が要るのだろうかと縁はぼんやり考える。
四階に再度着いた時に、ユウメがダンボールを運んでくれてエレベーター前に来ていた。
「ありがとうございます、これで全てですから会場へ向かえますわ〜」
荷物とユウメが乗って、再び軽トラに乗せる。飛ばない様に固定してショー会場に出発である。
厳重なセキュリティゲートをくぐり、ユウメのナビで目的地へと向かう途中で縁は気になる事を聞いてみた。
「ユウメさん、結局四箱も服着るもんなんですか?だいぶ多いような……」
「ああ、あれはショー出演者への贈り物でございます。私が着る予定はこれだけです〜」
ユウメが手に持つ服は二〜三着程だ。
「多いなと思いましたが贈り物なら納得です、ファッションショーってそんなに人多いんですね」
「ん〜そうですね〜皆が主役なのですが、皆可愛いですわよ?」
まあショーに出るぐらいなのだから綺麗だったり可愛かったりするのだろう、しかし縁から見ればユウメはその中で更に目立つのだろうと思っていた。
しばらく車を走らせユウメが「会場はあそこでございます」と指した。
「ん?ここって……ここに入るんですか?」
「お間違いございませんよ〜本日のショーはここですので」
中の駐車場に車を停め、建物を見る。程良く年季の入った建物があり庭には少しだけ遊具が置いてある。
「……ここって」
縁は入り口にあった大きな建物名が彫られた柱を読んだ。
幽導孤児院
「ユウメさん、ここは……」
「そうです、孤児院なんですよ。定期的に皆でファッションショーを楽しむ会をしております」
「ユウメ姉ちゃんー!」
「あ!来た!来たよ!院長来たよー!」
庭の遊具で遊んでいた子達がユウメに気付いて走り寄る、何人かは人を呼びに行ったようだ。
「あらあら、皆様元気にしてますか?」
「ユウメ姉ちゃん今日も凄い綺麗だなぁ!」
「私にメイク教えてー!」
「すぐショーやるの!?」
ユウメがあっという間に囲まれてワイワイとしている、凄い人気だ。
ガシッと足に重みが掛かる、見れば小学生低学年くらいの小さな男の子が縁にしがみつき見上げている。
「……おまえ誰?」
「おまえ……俺は縁、今日はよろしくな」
「ふーん、おまえもヒラヒラ履くのか?」
「ひ、ヒラヒラは履かないかなぁ……」
おそらくスカートだろう、幽荘でヘビメのセミヌードモデルはやったがスカートは履かない。さすがに大衆の前で履けない。
縁が少し困っていた時だった、ゴチンと男の子の頭が小突かれた。
「コラ!トラメ!お客さんにおまえって言うなと言ってるでしょう!」
トラメと呼ばれた男の子は頭を押さえて走り去ってしまった。
「ごめんなさいねお客さん!ユウメちゃんのお連れさんでしょう?アタシはこの幽導孤児院の院長、リュウメと言います」
リュウメと名乗る院長、五十代くらいだろか、優しくも厳しく真っ直ぐな皆のお母さんって感じがする。
「紬 縁と申します、ユウメさんの住む幽荘って所で管理人やらせて貰ってます」
リュウメは一瞬目を見開き笑みを浮かべた。
「紬……そうか貴方が管理人になったか、アタシも歳取るわね!アハハ!」
「幽荘を知ってるんですか?」
「アタシもあそこ住んでたの、貴方の両親の隆二と里子と子供の頃遊んでたさ」
縁は驚きを隠せなかった、両親の子供時代の友達なのかと。
「院長〜助けて下さいまし〜」
情けない助けを求める声の方を見ると、ユウメが沢山の子供達に呑み込まれている。
リュウメは笑いつつ塊に歩いていきながら、縁に言う。
「まあ昔話はいずれ、アタシの事は院長って呼んでくださいな!」
縁も笑いながら「ハイ」と返事をしてユウメを助けに行った。
「いや〜皆元気でなによりですね、ね?院長」
「ユウメちゃんはスターだからね、荷物は集会所で良いかい?」
「はい〜先に着替えてから準備しますね」
「あ、じゃあ僕も荷物持ちます」
「助かるね〜それじゃあ半分こで、こっちにおいで」
院長の案内で孤児院の中にお邪魔する、集団生活が基盤なんだろう。様々な所が広く多人数に配慮した造りになっている。
「皆〜服と道具が届いたよーよろしくね!」
集会所と書かれた札の部屋には数十席のパイプ椅子が並び、職員さんが六人程準備に取り掛かっているのが見えた。
それぞれに挨拶を済ませて院長から説明を受けた。
「ユウメちゃんが用意してくれた服を子供達に着せていくんだけど、まあ一番大変なのよコレが。皆テンション上がって暴れるから!」
「おおぅ、皆元気ですもんね……僕も着替え手伝いますか?」
「ありがたい申し出なんだけどね、今のご時世男が女の子の着替えも許されない時代でねぇ……」
「あ、そうですよね……」
孤児院にもコンプライアンスの波が届いているのだなと、配慮に配慮する世の中なんだなと縁は実感した。
「だから悪いんだけど子供達の相手を引き受けてくれないかい?集団引きつけてる内に、アタシらが一人ずつ剥がして仕上げていくから」
子供の相手、縁は子供が嫌いではないが集団を相手にした事は無い。果たして務まるのかが心配であった。
「なーに心配要らないよ!若い男ってだけでウチの子らは新鮮だから、すぐに馴染むよ!」
院長が笑いながら「ついておいで」と縁を連れて来たのは、広さのあるプレイルームのような場所だった。子供二〜三十人くらいなら余裕で収容できそうだ。
「しかし、院長。孤児院広いですね……」
縁の中の孤児院と言う場所が失礼ながら少し寂れていたり、設備が古かったり狭かったりのイメージがあった。
だが、この幽導孤児院は古さはそこそこあれど清潔で広い印象である。下手すれば新しい小学校くらいのポテンシャルが見える。
「そうだね、実はここ狐音ちゃんとユウメちゃんが手厚い支援してくれてるのよ」
「え?二人が?」
「あ、やっぱり言ってなかったか〜アタシが口滑らしたのは内緒よ?あの二人には本当に感謝しきれない程、助けられているの」
初耳だったし、更に狐音とユウメは何者なんだと思ってしまう。なぜなら幽荘では大体酔っ払いなのだから。
「ありがた過ぎるね……さあさあ、お喋りの時間は無いよ!紬君、頼むわよ!」
「え?あ、は、はい?」
「皆ー今日はショーの日です!準備の間、こちらのお兄さんが遊んでくれますよ!」
何人か集まっていた子供達が「ほんとに!?」と目を輝かせ押し寄せてくる。
想像以上に激しいし、人数が凄まじい。
「わ、わ、ちょっ、皆激しい……!」
あっという間に、囲まれ呑まれもみくちゃにされていく……
遠くで院内放送が流れた。
(現在プレイルームにてお兄さんが皆と遊んでくれます、皆プレイルームに集まりましょう)
更に遠くから「わー!」と声が聞こえてくる。
縁は人生で一番子供に潰された日になると確信した。
——縁がもみくちゃにされている頃
「ユウメちゃん今回もありがとうね……本当にありがとう」
「院長泣かないで下さいな、まだ始まってないですよ〜」
「子供達の晴れ舞台を用意してくれるユウメちゃんや狐音ちゃん、それに今の幽荘メンバー……やっぱり感謝しちゃうのよ」
「うふふ、それじゃあその晴れ舞台を最高のショーにしましょうね?今日は管理人さんも初参加ですから!」
「ふふ、そうだね。しかし隆二と里子の子も二十歳で、まさか管理人させられたなんてね。あの二人も想いは変わらないみたいだねぇ」
「きっかけはなんだってよろしいのですよ、噛み合ったのが今ってだけでございます」
「それもそうだね、さて職員の皆〜一人ずつ回収しておめかししていこうー!」
「はーい!」
——プレイルーム
縁は孤児院の中でも歳上組に助けられて、なんとか集団をコントロールしつつあった。
「何人かお兄さんお姉さん来てくれて助かった……下手したら俺よりしっかりしてるし」
礼儀正しくも元気にやんちゃだったりおとなしかったり、様々な子供が居て一人一人違うのだと実感する。
手分けして鬼ごっこやスポンジボール当て等、団体が分かれ端から職員や院長が捕獲していってる。
そんな中、孤児院で初めに会ったトラメと呼ばれていた男の子にしがみつかれる。
「なーおまえ名前は?」
先程拳骨を喰らったが懲りて無いようだ、このぐらいの男の子は逞しい。
「俺は縁だよ、よろしくなトラメ君」
名前を呼んだら驚いて逃げてしまい壁から顔を出して、様子を見てくる。
ちょいちょいと手招きしてボールをパスしてあげると、笑顔が戻りキャッチボールが始まった。
「えにしにいちゃん」
トラメに初めて名前を呼ばれた。
「お、なんだトラメ君」
「ユウメ姉ちゃんの彼氏か?」
縁は予想外の球を喰らってボールを受け損ねる。
「違うぞ、俺はお姉ちゃんが住んでる所の管理人だ。わかるか管理人?」
「院長?」
合っているような違うような……いや、違うだろう。
「ちょっと違うけどユウメお姉ちゃんや他の人のお手伝いをしてるな」
「ふーん」
トラメは分かってるのかどうなのか判断に迷うリアクションだ、その時ガバッと職員がトラメをロックした。
「トラちゃん次ねー、ありがとうございます紬さん!」
「やだ!まだ遊びたい!」
バタバタとトラメが暴れてる、この年頃は遊びに対するガッツがある。
縁も説得しようとした時。
「今ユウメお姉ちゃんが服着せてくれるよ?」
職員がボソッと吹き込んだらトラメはピタリと止まり、大人しく職員に連れられて行った。
「さすがだな……扱い方がプロすぎる」
職員の鮮やかないなし方は子供によって変えてるのだろう、トラメの場合はユウメがキーワードなんだなと察する。
「紬君、助かったわ!さすが男の子ね!」
院長が誉めながら歩いてくる、どうやら順調に回収が進み後は歳上組か大人しい系の子が数人だけだ。
「いやぁ毎回ショーの時は大忙しだけど引きつけ役で人が取られるからね、ちなみに前回はネコメちゃんが引き受けてくれたんだよ」
「ええ!?あのネコメちゃんがあの凄まじい勢いの集団を?」
縁は信じ難かった。ネコメの大人しい性格では太刀打ち出来るイメージが湧かない。
「ふふ、子供達はちゃんと人を見てるのよ。ネコメちゃんは皆を集めて、特に女子や小さな子とお話会だったわね」
男である縁には皆で体力勝負が選ばれたのだろう、これを毎日は正直身体が壊れそうだ。
「さ、後は少しだから紬君は客席で見ていきな」
「良いんですか?」
「もちろん、大トリはユウメちゃんだしモデルのユウメちゃん見た事無いんでしょう?しっかり目に焼き付けると良いわ」
ほらほらと院長に背中を押されて、プレイルームを追い出されてしまった縁は集会所へと向かった。
(うお!ショーの舞台だ!)
さっきまでとは違う集会所の様子に驚く。
暗幕で舞台正面が照明で浮き上がり僅かな飾り付けだが、それがモデルを引き立てるようになっている。
どうやら近隣住民の方を招いてるようで立ち見が出る程会場に人が居る。
(遊んでいる間に、こんな事になっていたなんてな)
正直なところ、目の前の子供達で精一杯だった。
縁は少し端の空いた所を見つけて、ショーの始まりを待ち望んだ。




