準備の後は歓迎会
山を抜け道を走りいつものホームセンターに到着する、スズメのドラム缶風呂土台の設計は進んだのだろうか?早速交換したての番号に掛ける。
「あ、縁さん〜ちょうど良かった、コンクリートブロック十二個必要です〜」
「十二個……結構要りますね、他大丈夫ですか?」
「あとすのこと一メートル四方の鉄板二枚あれば嬉しいですね〜」
結構な物を要求されてるような気がする、ドラム缶風呂って作るの大変なんだな……
縁は少し気が重くなるが、それ以上に重たい物を探しにホームセンターへと入って行った。
郊外の広い店舗である為か品揃えは良い、しかしコンクリートブロックはともかく鉄板なんて売ってるのだろうか?そして誰が買うのだろうか?あ、自分か。
そんな事を思いながら店員に尋ねる。
「すいません、鉄板を探してるんですけどありますかね……?」
「ハイ!ございますよ!」
あるんだ。
サラッと言われ案内されたのは外の駐車場に併設された業者用資材、備品が置かれた大きなスペース。一般の買い物客はなかなか来ないだろう。
そこに見つけたサイズ様々な鉄板の陳列棚。
「売ってるもんなんだなぁ……」
一メートル四方を二枚、鉄板だけあって相当な重さだが台車を借りて運べるようだ。
他必要なコンクリートブロック十二個とすのこを合わせて軽トラに積み込む、後輪がちょっと沈んでいる。
用事は済ませたのでスズメに帰る旨のメッセージを送り車に乗り込む。
「お気を付けてお帰り下さいね」の店員さんの言葉がちょっと嬉しい。
安全運転で幽荘へと戻って行く。
幽荘に戻ってきたら狐音とスズメ、それにネコメとユウメまで庭先に集まって何かをしている。
「あれ?皆どうしたんですか?」
「おお縁帰ったか、いやドラム缶風呂に皆興味津々での〜手伝いしてくれてるんじゃ」
「あら管理人さん〜ユウメは穴掘ってますわよ」
「お兄ちゃん、私ドラム缶磨いてる」
「皆お手伝い頂いて捗りましたわ〜さ、縁さんブロックと鉄板設置しましょ」
スズメはこっちこっちと手招きをしている、整地された地面に穴が3方開いている。
「ここにブロックを一段はめて鉄板で地面をガード、更にブロックを積んで鉄板を乗せてドラム缶を置く寸法です」
出来上がりイメージが湧いてきた、もう一踏ん張りだな。スズメ指揮の元計算通りに、そして水平を確保するように調整しながら皆で積み上げていく。
そして最後のドラム缶を置いて……完成である!
「おお……出来上がると凄いな」
「うむ、儂の閃きのおかげじゃの!」
「温泉も良いけどコレも風情がありますわね〜」
「お兄ちゃん、コレ入りたい」
「上手くいきましたね〜あとは水を入れて火を焚べるのですが、基本二人一組または多人数で入らないと危ないですからね?」
「そうだよな〜基本多人数……えっ?じゃあ僕は?」
女性陣は皆ニヤついて縁を見る。
「勿論お主は誰かにお願いせんとな?」
「お兄ちゃん、入れてあげる」
「私はいつでも管理人さんのお背中流しますわよ」
「うふふ〜恥ずかしがらないで言って下さいね〜」
作る事に集中し過ぎて入る時を考えてなかった、どうしようか……
悩む縁を他所に女性陣はキャッキャッしてる、とりあえず後で考えるか。
「あら、出来たの?じゃあ仕上げはアタシね」
ツナギを着たギャル、ヘビメがペンキを持ちずんずん向かってくる。
「ヘビメちゃんが仕上げにコーティングしてイラスト入れてくれるんですよ〜」
「ヘビメちゃんは素材を保護するところから始めるから、本物のアーティストですわよ」
スズメとユウメが和かに作業を始めたヘビメを見守る。パッと狐音を見た時ネコメが何か耳打ちをしている。
「ふむ、ふむ、良いではないか!ネコメは優しいのう!」
カラカラ笑いだす狐音、照れて赤いネコメ。
「よーし!幽荘の皆の者!」
いきなり拳を上げ狐音が宣言しだした。
「今日は皆で協力した記念日じゃ!ついでにまだやってなかった全員参加の縁幽荘入居祝いも兼ねて宴をするぞ!」
それを聞いた皆がおー!っと拳を上げ笑っている。
「今夜は逃さんぞ縁よ」
肩を組まれ狐音に囁かれる、騒がしく楽しい夜になりそうだ……
——朝の日差しが眩しい……鳥がチュンチュン鳴いてる……横に幼い顔立ちの少女がスヤスヤ寝息を立てている……
(寝息を……立てている?)
ハッと覚醒した縁は跳ね起き色々確認をした。
服着てない……ネコメはちゃんと服を着ている。
だが!だが!……これはやらかしたのか!?
ラインを超えたのか?何があった!?
何故こんな状況なのか、頭が痛む。
(昨日ドラム缶風呂完成して、共同作業と自分のちゃんとした歓迎会って事になって……あぁ狐音さんユウメさんスズメさんにしこたま飲まされたんだ)
徐々に思い出してきた、割と派手な宴となり飲んで騒ぐ酒好き女性陣を見ていたんだ。それが少しずつ忍び寄り捕まったのだろう。
だがまあそこまでは覚えている、じゃあこの横で可愛らしく寝ているネコメは何してるんだ?
(部屋に戻ったのか投げ込まれたのかもわからないが、ネコメは酒を飲んで無かったはずだ)
何かしてしまったかと頭を抱えて悶える縁に起きたのかモゾモゾしだしたネコメはむにゃむにゃしながら縁を見て微笑み「おはようお兄ちゃん」と挨拶をする。
(この子は本当に可愛らしい子だ)
そんな感想が浮かぶが今はそうじゃない。
「お、おはようネコメちゃん、何でここに?」
「昨日お兄ちゃんが酔い潰れたからスズメさんが運んだんだよ、で寂しくないように横で一緒に寝てあげてって言われたの」
どうやらこの朝の犯人はスズメだったようだ、やりたい放題の大人組だったが今後気を付けないとどんな目に遭うか想像が付かない。
「あ、ありがとうねスズメちゃん、もう家に帰って大丈夫だからね……」
ニコッと笑って応えてくれるこの子は良い子だ。
二日酔いの頭の痛みを抱えながら外に出る、朝と言うより昼近い太陽の昇り方をしている。
少し離れたとこに昨日完成したドラム缶風呂が鎮座しており、存在感が凄い。綺麗に塗られ細かなイラストまで施されている、ヘビメの筆が動き続けた成果である。
まだ温泉改修までは使わないが一度試し焚きしたほうが良いかもと思いつつ、昨夜騒ぎ倒していた調理場の丸太小屋を見る。
「片付けたほうが良いかな」
縁は呟き調理場に入っていく、すると中に人影が。
「あら縁さんおはようございます〜」
今朝のネコメを横に寝かせた犯人のスズメが何やら作っている、優しい香りがする。
「おはようございますスズメさん、何作ってるんですか?」
「あ〜これはおじやですよ、狐音さんもユウメさんも飲み過ぎて二日酔いみたいなんで、ふふふ」
自分は何も無いかのように良い笑顔でおじやを作っている。スズメはどうも異常に酒が強いようだ、狐音とユウメのコンビも相当強いはずだが……
「ハイ、どうぞ今朝のお詫びです〜」
コトっとおじや入りのお椀が置かれスズメを見る。
「ネコメさんは縁さんに懐いてますね〜」
それだけ言い残し鼻歌歌いながらアパートへ鍋を持って行ったスズメ、イタズラ好きなお姉さんだが一番しっかりしてるのかもしれないな。
「美味っ」
頂いたおじやがこの上なく優しい味だが、それが良い。
スズメに感謝しながらゆっくり味わった。
頂いたおじやにご馳走様と言い辺りを見渡す、綺麗に掃除されており昨日の荒らし様が無かったかのようだ。おそらくだが先程居たスズメのおかげだろう、皆が入り騒げるくらいの空間も今は静かに自然の音と木の香りがする落ち着いた丸太小屋になっている。
(……楽しかったな)
縁は昨夜の幽荘の皆が集まれた宴は初めての経験であった(ユウメが参加出来なかった初回食事会はあったが)
「何というか浪人になって目標しか見てなかったなぁ……」
椅子に深く腰掛け深呼吸をする、縁は春前の自分を振り返っていた。
二浪目が確定した時の自分は無価値だと思い引き篭もり何もしなかったのだ、もしかしたら幽荘管理人はそんな魂抜けた縁を見兼ねた両親からのアシストだったのかもしれない。
子供の頃から特に遊びはせずに勉強を優先してきた珍しい子供だったとは思う、かといって人付き合いは大事だと思う事で頭でっかちの勉強面は賢いが、コミュニケーションが取れない人間にはならないようにと持ち続けていた。
親は特に進学については口を出さず、結果だけを受け入れうるさく言う事は無かった。笑って生きてれば良い、それが両親から長く言われてきた言葉だったのだ。
「幽荘行きを言われた時は下手な芝居してたな、あれも元気付けの一つだったんだろうが……」
縁はこの幽荘に来て色んな人に会い答えは出ていた。
「まあ……来て良かったよ父さん母さん」
誰も居ない空間に響いた小さな声を恥ずかしくて消すよう、勢い良く立ち上がり温泉に入ろうと歩き出した。




