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幽荘物語  作者: かずや


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11/47

改修計画に向けて


 幽荘の住人との距離が縮まり縁は次を考えていた。幽荘に来て早くも数週間経つ。縁は様々な住人と様々なアクシデントも含めて交流を深めていた。

 そして一つの乗り越えるべき壁を見据えた。

「……決めた!」

 縁はこれまでで一番の気合いを入れて狐音の元へと向かった。

 コンコン

「狐音さーん、お願いをしに参りました」

 ガチャ

「なんじゃ朝っぱらからお主……アタタ」

「また飲み散らかしてたんですか……そんなことよりです」

「そんな事ってお主、二日酔いに響くから優しく言っとくれ」

「温泉に脱衣所を作りましょう」

 縁は幽荘に来てこれまでで最も困るのが温泉であったのだ、既に三人のお姉さん方と意図せず混浴している。

 嬉しくない訳では無いが困惑の方が強いのだ、しかも入ってくる女性陣は気にした事かとちょっかいまで掛ける始末。数日前にも酔った狐音とユウメに挟まれのぼせた上に素っ裸で二人に運ばれたのだ。

「いつか僕が温泉で死にます」

「なんじゃそら……まあ欲しいなら構わんが作るのか?お主が?」

「いえ、自分ではさすがに無理なんで業者を探したいです」

「むー、業者の〜資格持ちを当たるかのぅ」

 以前も言っていたが資格とはなんなのか?ともあれ何とかしないと人生の最期が温泉混浴死になってしまう。

「お主あれじゃな、女の耐性が無さすぎじゃの」

「ぐっ」

 かなり心に刺さるナイフを突き立てられたが、仕方ない。これまでお付き合いの経験等無い純真な男で生きてきたのだから。

「とりあえずわかったわかった、儂の方で探してみるから今は寝かせてくれ……アタタ」

 狐音は頭を抑えながら部屋に帰って行った……ユウメが幽荘に帰ってる間は二日酔いがデフォルトらしい。

 対してユウメは何事も無くケロッとして毎晩狐音宅に押し掛けていく、飲みに誘われたがついていける自信は無い。

 とにかく要望は出したがあれでまともに動いてくれるのか心配だ……

 別の手も考えた方が良いかもしれない。

 縁は温泉周りを眺めてイメージを膨らませていた。

 商業施設でも温泉宿でもない、ただ簡素な目隠しを添えて形にしているだけの温泉。こんな周りに民家も何も無い所だから出来る形だが女性陣だけしか居ない中で、よく許容されているなと頭を抱えてしまう。

 本当ならしっかり温泉自体を囲って外から見えないようにもしたいし、男女別で脱衣所も欲しい。

 だが、どう考えても工事のレベルで個人でやるには知識も技術も及ばなさ過ぎる。

「何してるのアンタ」

 ふと呼び掛けられ振り向けばヘビメが立っていた、幸い服は着ているので助かった。

「いやヘビメさん、実は——」

「ふーん、脱衣所と壁ね……」

 事の顛末を話してみたが意外にも考え込んでいる、ヘビメはアート以外に興味無さそうなのだが……

「それってデザイン出来るの?」

「へ?いやまだ建てれるかもわからないですよ?」

「建築出来たら良いんでしょ?ツテがあるわよ」

 何だと?ヘビメから繋がるツテ?

「でも建物になっちゃうんで資格がどうとか狐音さんが言ってましたし……」

「狐音が言う資格はアンタにわからないわよ、ちょっと待ってなさい話してくる」

「え、え?」

 スタスタと行ってしまった、わからない資格って何だ?話って狐音とだろうが……

 五分程でヘビメが帰ってきた。

「了承取ったわよ、アタシのツテに建築出来るのが居るから依頼してデザインはアタシがするわ」

「え!?いくら掛かるとか時間とかは……」

「大丈夫、お金は狐音が出すからアンタとアタシで工程確認するわよ」

 こんなにあっさりと進むとは……結構お金掛かりそうだが、やはり狐音はお金持ちなんだろうか?

 しかし考えても今更だ、むしろ要望が通った事に感謝しよう。

「ウチに来なさい、ざっくりアンタがしたい案まとめるわよ」

「はい!ヘビメさん!」

 まさかの展開になってるが、やれるなら全力でやろう。縁は気合いを入れた。

 打ち合わせは本格的なものとなった。

 ヘビメ主導の元、温泉周りの土台となれるスペースの計測から壁の現在の高さから理想の高さまでの差異。

 とにかくまずは素人ながら測れる所を測り出し完成イメージを詰めていく。

 脱衣所は近くに欲しいと要望を出したら「材質は?」と聞かれて、そこまでするのかと思ってしまった。

 なんとなく「調理場みたいな丸太小屋」と答えておいたが「考える」で返される。

 ヘビメは大きな紙にスケールを使い線を引いていく、更に温泉の上から見た図も軽やかに描いていく様は芸術家と言うより職人である。

「あの、ヘビメさんすごいですね……空間を把握してると言うか図面に起こす能力と言うか」

「昔親に仕込まれたのよ、絵や彫刻でも活きてるわ」

 喋りながらスラスラ描き進めて雛形が完成したようだ。唸る程に見やすく綺麗だし細部に縮尺の数字も沢山入ってる。

「さて、後は送るわ」

 送る?コレを?どこで?

「ネコメの家行くわよ」

「ネコメちゃんの?」

 なぜと聞く前にもう動き出しているヘビメを追いかけネコメ宅へ。

 コンコン

「ネコメ、スキャナーとパソコン貸しなさい」

 ……凄い暴君感

「あれ?ヘビメちゃんにお兄ちゃん」

「幽荘温泉改造計画の始まりよ」

「ふえ?」

 ぽわぽわと何の事かわからないネコメには後で説明しよう、構わず部屋に入ってるヘビメは書き上げた図面をスキャナーに通しパソコンを触ってる。

 少しカタカタキーボードを叩いたと思ったら「よし」と一息吐いた。

「あの、何をしたんですか?」

「ん?業者にデータ送って見積もり取るのよ」

 仕事が早い……管理人の自分出る幕が無さすぎる。

「返事は夜までに来るわね、アタシデザイン考えるから」

 そう言って自宅に戻ってしまった、ネコメは不思議な顔で見てくる。

「ネコメちゃん実はね——」

「へ〜温泉改造なんだ、プールも欲しいな」

「あー……それはまた相談してからね」

 とりあえずは脱衣所が出来れば良い、皆の要望を聞き出したらえらい事になりそうだ。

 一応計画の進みを狐音に報告しておこう、二日酔いでフラフラだったが……

 コンコン

「狐音さん動けますか?」

 ガチャと開いたドアから割と元気そうな狐音が姿を見せる、色々見えそうな危うい姿だが慣れてきてしまった。

「おお、ヘビメから聞いたぞ!確かにヘビメのツテがあったのを忘れておったわい!」

「そのツテが僕わかりませんが図面も引いて見積もりまで取ってましたよ」

「なーに心配いらんよ、調理場の丸太小屋に柵まで付けてくれた立派な職人じゃ」

 あの幽荘で一番立派な建物建てたとこなのか、期待しても良さそうだ。

「ウチに来る資格もあるし何で忘れ取ったんかの〜」

 多分二日酔いのせいです、とは言えないのでただ笑っておいた。

「しかしヘビメが動くとは珍しいの、お主気に入られてるようじゃな」

 そうなんだろうか?割と冷たい気もするが……

「滅多に無い男じゃからの、ありがたく思うが良い」「普通は女性だけのコミュニティに男来たら警戒するんじゃないですかね?」

「お主弱そうじゃからな、無害なんじゃろ」

「ぐっ」

 狐音は的確に痛いとこを突いてくる、否定出来ないのが悲しい。

 とにかく道が見えたのでヘビメと共に作った図面を見せ改修案を見てもらう。

 狐音は細かな要望(酒飲みスペース)を出して来たが、ほぼ通りそうである。いつ業者が入るかになるが連絡受け次第教えてくれるらしい。

「しかし改修中は温泉使えんのか、ちと不便になるの」

「どれぐらいの時間かかるかにもよりますよね」

「うーむ……あ!そうじゃ縁よ山におるスズメ呼んどくれ」

 スズメを呼ぶ?山の中の?結構骨が折れそうなのだが

「ほれ、狼煙玉持っとるじゃろ?」

 ああ、初めに貰った色付き狼煙玉がある。本当に気付くのだろうか心配ではあるが……

 家に戻り掌サイズの小さな玉を持って幽荘の開けたとこに行く。

「これに火を付けたら良いのかな?」

 玉から飛び出した紐の先に火を付けるとみるみる火が玉の中へ、程なくピンクや緑、青と言った様々な色の煙が立ち昇る。

「派手な色だけど気付けるもんなのかな?」

 スズメと山に入った時は慣れない環境で足下確保が精一杯だったが、スズメほど慣れてるなら察知するのか少し楽しみである。

「よーし、あとはスズメが帰ったら話すかの。儂もう一眠りしてくるから帰ったら起こしとくれ」

 狐音は基本ぐうたらであるが抑えるべきポイントは抑えてる……はずと思いたい。

 スズメが帰るまで時間もありそうなので自室に戻って受験勉強進めようと振り返った時だった。

「管理人さーん〜」

 パタパタと見事なお体を揺らしブロンドを靡かせユウメが走ってくる。

「な、どうしたんですかユウメさん!?」

「ハァハァ管理人さん、私……!」

 なんだこの真剣な表情、何を決意したんだ?

「私……温泉に牛乳の冷蔵庫とアイスの冷凍庫が欲しい!」

 ……皆、欲望を上乗せするのを辞めて欲しい

 ユウメを宥めて家に帰してから自宅で勉強を進め一時間程だった、コンコンとノックされる。

「縁さーんお呼びですか〜」

 本当に山からスズメが帰ってきた、凄い!わかるんだあの煙。

「スズメさん、ありがとうございます!実は狐音さんが呼んでまして」

「あら?なんでしょう?行ってみますか」

 二人で一〇一号室前に来たのだが……グーグーといびきが漏れ聞こえる、マジで寝てたのか。

「ん〜狐音さんを起こすのはコツが要るんですよ〜」

 そう言うとスズメは躊躇無く部屋に入り。

「あ、縁さんはここで」

「え?」

「ちょっと刺激が強いですから〜」

 パタンと扉を閉めてしまった、少しすると「ひゃっ!ああんコラ!そこはダメじゃ!」中からバタバタ音と何かいかがわしい声が聞こえてくる。

 静かになり笑顔で出て来たスズメと顔が赤い狐音、何が起きていたのかはわからない……

「全く……なんじゃスズメ突然!」

「突然も何も狐音さんが呼んでくれって言いましたよ?」

「……む、そうじゃったな、スズメと縁に頼みたい事があるんじゃ」

 改まって何を頼まれるのだろうか?

「ドラム缶風呂を作って欲しいのじゃ、ほれ温泉改修の間必要じゃろ!」

「温泉改修するんですか〜?私シャワーが欲しいです〜」

 (後で住人が要望する温泉に欲しいものまとめるか……)

 とりあえずはドラム缶風呂か、確かに温泉改修がいつまで掛かるかわからないし、作っておいた方が慌てなくて済むだろう。

「確か私の狩猟納屋にドラム缶あったような、見てきますね〜」

「でもドラム缶風呂って土台にかまど要りますよね?火焚いて良いんですか?」

「なーにこの辺り一帯幽荘の私有地じゃし、温泉掘ってある時点でやりたい放題じゃろ今更」

「いやまあそうなんですが……」

 とにかくドラム缶風呂とその土台のかまど作りをスズメとすれば良いのだな、漫画とかで見た事はあるが実物を作るなんて初めてだ。

 ゴロゴロと遠くから音がしてくる、どうやらスズメはドラム缶を確保したようだ。

「で、デカい」

 人一人すっぽり入れる大きさのドラム缶、こんなもの何に使って残してたのかの方が気になる。

「しっかりしてるしお掃除すれば使えそうですよ〜」

 横倒しで転がしていたドラム缶をフワッと立て置きにした、あまりに簡単な動作に見えたがスズメは涼しい顔である。

「しかし作るとなるとこれだけじゃあ危ないですね〜土台用にコンクリートブロック積まないと倒れちゃいます」

 確かにドラム缶が倒れないようにするのが一番のポイントだろう、水も人も溜まり中で人が動く事になれば転がってしまう。

「それじゃあ買いに行ってきますよ」

「では私は設計しますね〜必要な物があれば連絡出来るように……ハイ」

 スズメが差し出したのはスマホであった、スマホを持つイメージが無かった為面食らう。

「そう言えば連絡先交換しとらんかったの、縁よほれ」

 続いて狐音もスマホを出してくる、皆持ってるのか?

 ともあれ二人と連絡先を交換して縁はホームセンターへ向かう事にした。


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