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幽荘物語  作者: かずや


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ドラム缶風呂


 ドラム缶風呂を設置して数日、狐音とヘビメが揃って家に来た。

「図面が通って見通し立ったぞい」

「来週頭から工事期間二週間ちょいかかる」

 二週間、長く感じてしまうが図面通りなら仕方ない。脱衣所は基礎工事からするらしいし、今回を機に温泉のメンテナンスも入れるらしい。

 とは言え大きな装置を使ってるわけじゃないので、必要であれば現代の機械を入れるのかは応相談との事。

「しかし狐音さんが資格が〜って言ってましたけど、温泉ってやっぱ特殊な工事資格なんですか?」

「ん〜普通の業者じゃ入る事ができんのじゃよ、まあ色々とな」

「今回受けてくれた業者はアタシのパパ」

「え?ヘビメさんのお父さんが工事業者?」

「そうじゃよ、何度か世話になっておって温泉改修は初めてじゃが快く引き受けてくれたんじゃ」

 なるほど、それで諸々通りやすかったのか……ヘビメさん自身はアーティストでお父さんは建築家って事か?

 図面を引いていたのも頷ける。

「そうだ、来週から温泉使えないならドラム缶風呂使い出してみませんか?一度使って不具合無いか試さないと」

「ふむそうじゃの、じゃあ儂入る役〜」

「アタシは見てるわ火が入ったビジュアルチェックしたいし」

「じゃあ誰か薪役を頼みに……」

「なんでじゃ?お主おるじゃろうに」

「は?いや狐音さん入るんでしょ?」

「なんじゃお主まだ恥ずかしがっとるのか、こないだの宴で全てひん剥かれたくせに」

 覚えがない……

「いやいやいやいやマズイですって!ねぇヘビメさん!?」

「別に男女の裸なんて見飽きてる、やるならさっさとやる」

 ここの住人の貞操観念がわからない……仕方ない、なるべく火に集中して風呂を覗かないようにするしかない……

 やると決まればすぐ動くのが幽荘の住人達である。

 普段は動かないのに……

 薪を用意し、ドラム缶に水を張る。これがなかなかに時間がかかる、ドラム缶と言えど一般の家庭にある浴槽と変わらない容量なのだろうか?

 ホース繋いで水を入れてる狐音が明らかに退屈そうな顔をされている。

 とは言え入るのは狐音なので大人しくやってもらおう、ヘビメは色んな角度から写真を撮っては何かイメージをしているようだ。アーティストモードになると集中していて周りが見えない。

 となれば動き回って薪を集めるのは縁になる、山からそれなりに木は集まるが乾いた太い木は中々見当たらないものだ。もしかしたらしばらく薪割りと乾燥なんて事が仕事になるかもしれない。

 とりあえず試し分の木を集め、水も溜まったのは三十分程要した。

 二人が見守る中土台に木を組み火を付ける、温度の調整は薪の焚べ方でやらねばならないが感覚を掴むのは一苦労しそうだ。

 更に三十分程掛かりようやくドラム缶が湯気を出してくる、これで入って貰えれば良いのだが……

「もう良いかの!?」

 遮る物の無い野っ原で狐音が我慢できないと脱いでしまった。

 なるべく見ないように火を眺め続ける、修行僧の気分だ。

「入るぞ〜!……お、おお、おおぅ」

「狐音さん変な声止めてください」

「うむ、なかなか開放的で面白いの!温泉とはまた違った感じじゃわい!」

「外観少し焦げたけど許容範囲、イラスト良い感じ」

 ヘビメも納得した出来の様だ、しかし薪の焚べ方に気を付けないと温度が安定しない。

「うーむ夜空の下で入るのが気持ち良さそうじゃの」

 呑気な事を言う狐音だが、縁は薪での火加減に苦戦を強いられている。

「あ!狐音さん終わりです!薪が無いです!」

「なぬ?結構消費するもんじゃのう……仕方あるまい出るか」

 ザバっといきなり上がらないで欲しいものだ、思い切り見えそうになる。

 (もしかしなくても自分入る時はどうすりゃ良いんだこれ?)

 女性陣は皆で回せるが縁は唯一の男である、手伝いしてくれると言われてるが……

「ふーむ、しかし湯加減は良かったが持続させるには薪の量が心配じゃの」

 タオルで身体を拭きながら言う狐音にヘビメが口を開く。

「建築や解体で出た廃棄木材をパパから貰おう」

 なるほど、要らない木材を引き受ける事が出来れば凌げるかもしれない。

「スズメも山に入りがてら薪を見繕ってくれるとは言え、獲物仕留めたら手も足りないじゃろう」

「そうですね、出来るだけ僕も薪集めします」

 ドラム缶風呂の試し運転をして正解だったが、解決してない問題をどうするか?縁が入れないんじゃ問題は先送りのまま、とりあえず解散となった。


 ——ドラム缶風呂試運転の夜、まだ浸かれる内に浸かっておこうと縁は温泉で星を見ながら考えていた。

 (やっぱり簡単なカーテンみたいなので見えないようにするか?でも燃えたりするの怖いしな……)

 このままではさすがに良くないだろうと考えはするが、具体的に思い付かない。自身で火の番をやってみたが結構風向きや薪の置き方で火が変わるのだ。

「温泉あるって偉大だなぁ……」

「そうですわよねぇ〜」

 いつまで経っても慣れない誰かが側にこっそり来てる混浴シチュエーション。今回もユウメだった。

「ゆ、ユウメさんダメだって言ったでしょ!」

「えー私も管理人さんと一緒にドラム缶にも入りたいですわ〜」

「誰とも入ってないですから!」

 昼間どこかで見ていたのか狐音に聞いたか、今日のドラム缶風呂について必要以上に身体を密着して聞いてくる。

 物凄く肌触り良く柔らかな身体をくっ付けてくる中でお酒の匂いもする、どうやら出来上がったまま温泉に来た様だ。

「ユウメさん酔って温泉は危ないって言ってるでしょ!」

「管理人さんが居てたから大丈夫だな〜って思いましたのよウフフ」

 だいぶ上機嫌なユウメだが、こんな彼女を湯船に放置するのも危険だ。出来る限り後ろを向いてやり過ごすしか無いだろう。

 ツンツン背中を指で押してきたりして遊びながらユウメは呟きだした。

「管理人さんのような優しい方で良かったと思ってますのよ」

「え?」

 声のトーンが少し下がり酔ってる勢いなのかわからないがユウメは話をしだした。

「私はハーフですからどこに行っても珍しい目で見られておりましたもの、でも管理人さんは最初驚きはされてましたが幽荘の皆を想い動くのが見れて嬉しいのです」

 確かに凄い美人が居るとは思ったがアパートの一人一人がクセのある、でも皆いい人だと知ってからは気にならなくなった。しかし混浴するのは別なのだが。

「ここで生活をする皆の為に動く管理人さん、とても眩しいですわ」

「あ、ありがとうございます……」

 ハッキリと言われたら少し照れてしまう。

「私も長く生きてますから、人の善し悪しを自然と感じてしまうものです。モデルのお仕事も味方ばかりではありませんからね」

 やはりモデルとは光り輝く下で陰になる部分から何かされてしまうものなんだろうかと縁は思った。

「実はモデルを辞めようと思ってた所に管理人さんが来たのです」

「え?辞める?」

「はい、でももう少し頑張ろうと思わせてくれた管理人さんに感謝なんですよ」

 チュッ

 不意に頬を柔らかい物が押し込まれ、そのままそれは耳元で囁く。

「優しい管理人さんありがとう……」

 背中がゾワゾワしてさすがに振り向いた、ユウメさんそれはやり過ぎです!と言いかけた時だった。

 ぶくぶく……

「な!?ユウメさーん!!」

「全く、お主ら温泉で何やっとったんじゃ?」

 パタパタ団扇で煽がれ身体にタオル一枚掛けられて、ノビてるユウメを狐音と縁で介抱している。

 湯当たりしてのぼせたユウメを見た縁の叫び声が、たまたま近くにいた狐音に届いて事なきを得たのだ。

 自分は悪くないと思うが言い出せない縁であった。

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