第9話 新訳わらしべ長者
時間になるとブザーが鳴る。
ブザーの音とともに会場が静かになる。
こうして経徳寺高校演劇部の第四回公演が始まったのである。
ナレ「ある村に、たいそう貧しくても正直な若者がいました。その若者は観音様にお願いをしました」
「どうか少しでも良い運がいただけますように」と若者役の黒逸。
ナレ「若者が祈っていると、どこからか不思議な声がしました。「ここを出る時、最初に手にしたものを大切にしなさい。それがお前を幸せに導くであろう」その後外へ出ると、つまずいて思わず地面の藁を1本掴んでしまいました」
「これが最初に手にしたもの?こんな藁1本で幸せになれるのか?」と若者が言う。
ナレ「そう思いながらも藁を大切に手に持ち、道を歩き出しました」
「なんか結ぶものがないかのう」と老人役の信也。
ナレ「老人は若者の藁を見つめました」
「その藁をくれんかのう。代わりにこれと交換でどうじゃ」と茄子を差し出す老人。
「いいんですか?」と若者。
「もちろんじゃ」と老人。
ナレ「若者は藁と茄子を交換しました。しばらく歩くと、女性がいました」
「夫に茄子を食べさせてあげたい」と女性役のさおりさん。
ナレ「女性は若者の茄子を見ました」
「その茄子と日本酒を交換してくれませんか?」
「はい。わかりました。どうぞ」と交換する若者。
ナレ「今度はくたびれた牛を連れた女性が通りました。そして若者の日本酒を見ると」
「この牛とお酒を交換してくれないか」と牛を連れた女性役の杏奈。
「めっちゃくたびれていますが」と若者。
「お願いします。なんなら血統書も付けますので」と女性が言う。
「そこまでいうのなら」と若者は言い交換をした。
ナレ「このくたびれた牛はブランド牛だった。若者は水と草を牛に与えて元気にした。そこへ地主が通りかかった」
「その牛は有名な牛じゃないか。私の土地と交換してくれないか」と地主役で兼役の信也。
「その土地、僻地じゃないですか。田も耕せない」と若者。
「でも結構広いぞ。それにここに急に大型ショッピングモールを作る話が来たら大儲けだぞ」と地主。
客席がクスっとした。
ナレ「若者は僻地の土地を手に入れました。するとその土地からショッピングモールの話は来なかったが、代わりにレアアースが大量に発見されました」
「その土地とこの会社の権利を交換して」とやり手の女性役のさおりさん。
「でも今大儲けしているので」と若者
「私の会社の商品は、なんとかセレクト5年連続金賞受賞商品もあるわよ」
「その賞って価値あるんですかねえ」
客席から笑い声が上がる。
「じゃあ子会社のIT会社も付けちゃう」
ナレ「若者はついに食料品とIT会社を手に入れました。そのIT会社が急成長をします」
「その会社と私の経営するサッカークラブを交換して下さい」と女性会長役の杏奈が言う。
「なんでサッカークラブと交換しないといけないんです」
客席の一部から笑い声が。
「このクラブ世界規模ですよ。放映権でウハウハです」
ナレ「世界的名門クラブリアルユナイテッドの会長になりました」
「ついに世界的なクラブの会長に」と若者役の黒逸。
ナレ「しかし、主力選手の相次ぐ怪我にトレードで獲得した選手の不調でクラブは経営難に。会長は選手の補強をしなければなりません」
「待ってろ。今、藁を探してくる」と若者。
客席から大きな笑い声が。
ナレ「こうして若者は藁を探しに行ったのでした。おしまい」
この反応に京志郎は満足気である。
ナレ「若者役、黒逸。交換役に信也、さおり、杏奈でした」
みんなが紹介されるとお辞儀をする。
客席から、再び大きな拍手が起こり幕が閉じる。
尚今回はナレーションが多いので僕がナレーションだけになり、康太が照明をやってくれた。
こうして第四回公演が終わったのである。




