第2話 新訳赤ずきん
演劇部が発足して1か月。
練習を重ね、ついに初公演の日を迎えた。
時間になるとブザーが鳴る。
ちらほら話し声が聞こえていた会場の観客も話すのをやめた。
こうして経徳寺高校演劇部の第一回公演が始まったのである。
ナレ「昔、昔。とある森の近くに、小さな女の子とおかあさんが暮らしていました。女の子は、赤いずきんをいつもかぶっていて、みんなから赤ずきんちゃんと呼ばれていました」
ナレ「ある日、おかあさんが赤ずきんに言いました」
「森の外れのおばあさんのところに行って欲しいの」と赤ずきんちゃんのお母さん役の黒逸が言う。
ナレ「お母さん役は人がいないので男の人がやっていますが、お客様の目は正常です。そして赤ずきんは笑顔で頷きます」
「なんで男の俺がお母さん役なんだ」とお母さん役の黒逸。
客席から笑いが起こる。
「うん。おばあさんのところに行ってくる」と赤ずきん役のまひな。
ナレ「おばあさんの家は、大きな森のむこうにあります」
「寄り道をしないでいってらっしゃい」とお母さん役の黒逸が言う。
ナレ「すると、森のなかでおおかみに出会いました」
「やあ! 赤いずきんがとっても素敵だね。どこへ行くんだい?」とおおかみ役の康太が言う。
「森のむこうのおばあさんの家へ行くの」と赤ずきん。
「そうなんだ! それなら、近くの花畑で花を摘んでいくといいよ」とおおかみが言う。
「お花を持って行ったら、おばあさんきっと喜んでくれるわ! 教えてくれてありがとう!」と赤ずきん。
ナレ「おかあさんとした、寄り道をしないという約束を忘れて、お花摘みにすっかり夢中になってしまいました。おおかみは、その間におばあさんの家へ先回りします」
「ここがおばあさんの家か。悪いな、赤ずきん」とニヤリとしながらおおかみが言う。
ナレ「そこに赤ずきんがやってきます。おばあさんの家に入るとおおかみが横たわっていました」
「遅かったな、赤ずきん」とおばあさん役の杏奈が言う。
「おおかみ程度じゃこの程度か」と赤ずきん。
「この俺が瞬殺だと……」とおおかみ。
「当たり前だ。私を倒せるものなどこの世にいない」とおばあさん。
「何を言ってやがる。わたしがあんたを倒す」と赤ずきん。
「私の蹴りを受けてみな」とおばあさん。
「甘い。蹴りってのはこうやるのさ」とお返しにハイキックをする赤ずきん。
ナレ「蹴りを皮切りに二人は激突した。お互い拳法の使い手。一進一退の攻防が続きます」
客席がどよめく。
「やるな、赤ずきん」
「あんたもね」
ナレ「なお、お客様にはスローモーションで格闘しているように見えますが、これは演出です」
「てやあ」と突きをするおばあさん。
「とりゃあ」と肘打ちをする赤ずきん。
ナレ「勝負は持久戦になります。そして若さに勝る赤ずきんが勝利した」
「もはやこれまでか」とおばあさん。
「お覚悟!」と赤ずきん。
ナレ「こうしておばあさんに勝利した。赤ずきんがおかあさんのもとに戻って来た」
「遅くなってごめんなさい!でもしっかりしとめて来ました」と赤ずきん。
ナレ「おかあさんは赤ずきんのことをぎゅっと抱きしめると、しかることはありませんでした。おしまい」
客席から拍手が起こる。
一方母と娘という役柄だが、演じているのはイケメンの黒逸と美人のまひな。
抱きしめる場面では男子生徒からブーイングが飛ぶ。
女子生徒からはキャーという声がする。
そして演者たちは成功を確信し、自然と笑みがこぼれた。
ナレ「赤ずきん役、まひな。おばあさん役、杏奈。おおかみ役、康太。お母さん役、黒逸でした」
みんなが紹介されるとお辞儀をする。
客席から、再び大きな拍手が起こり幕が閉じる。
こうして第一回公演が終わったのである。




