令嬢part2 ダンジョン
「えーでは、本日は事前に通知していた通りダンジョン実習を行う!
各自事前に作っておいた班に分かれよ!」
監督の声に従い、私たちはダンジョンの前で班に分かれる。今から行われるダンジョン実習はゲームにおける最初の難所。もちろん彼女らがそれを知ることはないが。
ともかくジョゼフィーヌにとっては愛するエメリと共に活動できる機会でもあり、恋敵のヒロミとの共闘を余儀なくされる行事でもあった。
「よし、じゃあ気を付けて行こうヒロミ!」
「うん、王子も気を付けてね」
仲睦まじげに話す二人をジョゼフィーヌは物持ちならないという目で見つめていたものの、その感情は監督官の『警告』の声に搔き消された。
「揃ったな?ではそれぞれの班でダンジョンに潜ってもらう!
目標は一人一体以上の魔生物の討伐、証拠品となる角や牙などを回収すること。討伐数が多いほど加点される。
なお、地下3階より下には絶対に潜らず、何かあればこの通信の魔道具で連絡しろ!以上!」
その言葉をきっかけに、私たちは薄暗いダンジョンに入り始めた。
だが、気づかなかった。
「……チッ!」
私たちに敵意を向けてくるものが、魔生物だけでは無いということを。
*
王都ダンジョン、地下3階。
「ウォーター・マジック!」
声とともに空中に三つの水球が浮かび、軌跡を描きながらオオカミ型の魔生物──ワーウルフに飛び掛かる。
その水球を間一髪の形でワーウルフは潜り抜けるが、
「遅い!」
目の前には自らに向けられた拳──エメリの剛拳が迫ってくる。
「ガッ!?」
オオカミの脇腹に拳が突き刺さり、そのまま石壁まで吹き飛ばされる。
叩きつけられたオオカミは立ち上がるが、明らかに動きが悪い。どこか骨が折れたのだろう。
「今だ!ヒロミ!」
オオカミが叩きつけられた壁、その真正面。
気づいたときにはもう遅い。
「『フレイムスラッシュ』!」
瞬間、ヒロミの烈火の如きスキルにより、オオカミは胴体から両断。
彼女らの完勝であった。
「……よしっ!やったな二人とも!」
エメリが二人に声をかける。
鎖帷子に、鉄のガントレット、そして小型の盾がそれぞれのガントレットに装着されている。
『王家の人間は、成人まで刃物を持つべからず。』彼は王家に伝わるその教えを忠実に守っていた。
格闘スキルは騎士団長に習ったらしい。
「そうやね!私たちの勝利!」
対照的にエメリに話しかけたヒロミの装備は、まさに重装備。
今右手に持っているロングソードと左手のショートソード。
背中には、メイスに杖に盾、様々な武器が装着されている。
なんでも、ヒロミのスキルは『ありとあらゆるスキルを習得できる適正』らしい。
今は通りの商人から教わった『インベントリ』、そして騎士団の面々から教わったスキルを使っているのだとか。
ちなみにこのスキルを知っているのは私とエメットだけ。本人の希望でそうして欲しいらしい。
まあそれも当然。なんでも習得できるスキルなんて、権力者から見れば垂涎ものだろう。
「さあ、早速牙を回収しよう」
エメリは死体に近づき手を伸ばす。
その様子を遠巻きに見ている間、ヒロミが私に話しかけてきた。
「しっかし、ジョゼフィーヌもたいしたもんよね。あんな魔法そうそう学生にできるもんやないで」
「……ええ。ありがとう」
当たり前だ。私はエメットに並び立つため、この『ウォーター・マジック』……水を操るスキルを強化してきた。それなのに、エメットはあまり私を頼ってくれない。
……やはり私も、近接武器で前衛をやった方が良かったのかしら。
「にしても、すごい場所よねこのダンジョンってのは」
ヒロミの言葉に、私は我に返った。
「え、ええ。なんでもこのダンジョンは五百年前、魔の大陸の魔族が作った前哨基地の跡地と聞きましたわ。もっとも今は魔生物の巣になってるみたいですけど」
「『兵どもが夢のあと』か……」
「?何ですのそれ」
私は聞いたことのない慣用句に対し、そう尋ねた
「二人とも!牙の回収終わったぞ!」
「あ!今行く!」
そのままヒロミは私の質問に答えないまま走り去った。
「何だよあいつら……これでもう五体目だぜ?」
柱の陰から見ていた男子生徒……サエリはそう呟く。
「どうしますサエリさん。こっちはまだ二体目ですよ?」
チームの一人が尋ねる。サエリの取り巻きの一人だ。
「……地下4階に向かう」
「え!?う、嘘でしょ!?」
その言葉に、取り巻きの二人が声を同じくした。
「……地下4階にパッと行って、すぐに魔生物を倒して帰る。それならいいだろ?それに……」
「それに?」
「俺は、あいつにだけは負けられねえ。
エメリ・シーランにだけは、負けられないんだよ」
その眼には闘志の炎と、嫉妬の炎が燃えていた。
*
「さて、あいつらはどうなっているかな……」
ダンジョンの外に張られたテント。今回の実習の監督官、現王都騎士団長マーシス・ウィリーはそう呟く。
(本来ならダンジョン実習は二年生から……『予言』や『黒傘』の件もあり早めに行うことになったが、何が起こるか分からん。せめていつでも行けるように待機しておかねばな……)
「隊長!隊長!!」
テントの外から声が響く。
「早速トラブルか!おい、何があった!?」
テントの幕を左手で挙げる。
「う、うう……」
目の前に血塗れの兵士。息も絶え絶えで、一目見ただけで重傷と分かる。
よくよく見れば、今回の実習に向けてダンジョン内に配備していた兵士の一人だ。
「!?おい、どうした!何があった!?」
「4階に……4階に
変異種が現れました……!」
その言葉で、周りがどよめく。
変異種──文字通り、異常な魔生物。
「……よく伝えてくれた。救護班!担架を持ってきて治療に当たれ!
警護班は俺とともにダンジョンに潜れ!生徒の安全を第一だ!」
「「「了解!」」」
(無事でいてくれよ……!)
マーシスは、そう思いながら鎧を身に着け、ダンジョンに急行する。
*
ダンジョン地下4階。
「だ……大丈夫だよな?」
サエリの取り巻きの一人はそう呟く。
「大丈夫だ。ここはまだ入り口。本当に強いのは出ないと親父から聞いている。それより……あれはなんだ?」
サエリが指さした方向を、二人は見つめる。
そこは別の部屋への入り口だった。
「ん?あれは……宝箱、ですかね?」
三人はその部屋に入る。
その部屋はサッカーコートほどの広いドーム状であり、地下だというのにどこからか光が差し込んでいる。しかし空間には何も──魔物の巣や、虫一匹さえいない。
ただ、その部屋の真ん中には二つの宝箱があり、埃一つ被っていない。それどころか、金や銀で装飾が施されていた。
「もしかして……これって魔族の遺産なんじゃないですか?」
「マジか!?だとしたら凄い価値だぞ!?」
取り巻き二人が騒ぎ立てる。
(これさえあればあいつを……!)
サエリは欲に駆られ宝箱に手を伸ばした。
「サワルナッ!!」
「!?」
不意に入り口側から大声。空気が震えた。
「……誰だ?」
サエリたちはゆっくりと振り返る。
そこに立っていたのは、一人の男だった。
年は自分たちと同じ位であろうか。ただ、その服はボロボロで、ところどころ破れている。
そして何よりも目を引いたのは、その右手で引き摺っている『第三の宝箱』だった。
「フレルナ……!
父サント母サンカラ、ハナレロッ!!」




