令嬢part1 レディ ジョゼフィーヌ
皇歴504年、10月。
「という経緯があり──」
教室に教師の声が響く。サフラン王立学園は夏休みなどを終え、実に新入生の入学から半年が経過していた。すでに多くの派閥も誕生して、実に貴族の学園という様相だった。
「──以上が、魔の大陸の概要です」
その日の授業は創世神話の授業。
教師は一通り黒板を書き終えると、生徒たちに向き直る。
「ではこの問題を……ジョゼフィーヌさん、お答えなさい」
生徒たちの目が一点に集中する。
そこには名指しされた生徒、ジョゼフィーヌ・ノートがいた。
「初代皇帝と四人の英傑が魔の大陸を封印し、厄災を封じ込めたとされています。またその後彼らは多くのものを人々に伝授しました。効率の良い麦の育て方、占星術……珍しいものでは、クリスマス等が挙げられます」
すらすらと答えを口にするジョゼフィーヌに、他の生徒から感嘆の声が漏れた。
「すばらしい!よく予習してきているようですね。
では今回はここまで、次回は──」
*
昼休み。
多くの生徒は教室を出て、雑談、読書、昼食──思い思いの時間を過ごしていた。
食堂の喧騒の中を、私は堂々と通り抜ける。
「ねぇちょっとあれ…ジョゼフィーヌ様じゃない?」
女生徒が振り返る。
「ほんとだ。昼ご飯かな?」
「えー?でもいつもは専属料理人が自室に届けてくれるんじゃなかったっけ?」
いや、さすがに専属シェフとか雇ってませんからね?
そう思いながら、私は席に着き、弁当の封を開けた。
ある程度は支援するが、できる限り金銭面は自分で工面しろ……それが、父の教え。
だから、いつも弁当を自作しているのだ。なぜか専属シェフの噂は立っているが。
「おや?食堂で昼食とは珍しいね」
不意に声を掛けられた。
耳に響く聞きなれた心地の良い声。この声は……
「あらエメット。ええ、今日は教室でいただこうと思って」
「へえ。僕も一緒していいかな?」
当然承諾した。
学校の貴重な時間をエメットと過ごせる。そう思うだけで、心がときめく。
「ちょっと!エメリ王子も一緒に食べるみたい!」
「あの二人婚約者同士なんでしょ?仲が良くて羨ましいわ……」
「あの二人って本当にお似合いだよね!」
聞こえてないつもりかもしれませんが聞こえてますわよ。
でもいいですわ!もっと私とエメットを祝福してもよろしくてよ!
「それは良かった!ちょうどヒロミも誘ってたんだけど、いいかな?」
……ヒロミ?
「ちょっとエメット、どこいくん?……って」
げ。
「ちょっとジョゼフィーヌ、今露骨に嫌な顔せんかった?」
「……いえ?何も?」
私は目をとっさに逸らす。
「そう?まあええよ」
今私の目の前に立っているピンク髪のこの女。
クマザワ・ヒロミ……地方地族の出身で、高等部からの編入生である。
それだけなら、まだいい。それだけなら。
「ああヒロミ!ちょうどよかった!
今日は珍しくジョゼフィーヌが食堂で昼食を取るみたいだから、一緒にどうかと思ってね」
「へえそうなん?じゃあ遠慮なくお邪魔させてもらうわ」
ヒロミは私の前の席──エメリの隣に座る。
そのままエメリはヒロミと談笑を始める……のだが、ジョゼフィーヌはその光景に、並々ならぬ思いを感じていた。
私のエメット。私だけのエメット。
思えばいつからだろうか、彼への恋慕を覚えたのは。
パーティーでは着飾って彼にアピールした。父に嘆願して(家柄の都合も大きいだろうが)婚約者にもなった。だというのに!
「?なんかうちの顔に付いとる?」
この田舎娘!
高等部に進学してからというものの、エメットはこの田舎娘にベッタリ!
私がお茶会に誘っても、「ごめん、今日はヒロミとの先約があるから」なんて!
私が先に好きだったのに!
「あっそうだジョゼフィーヌ!こないだうちにくれた錆びた武器あるでしょ?あれ修理して使えるようになったんよ、ありがとね」
「……それは良かったですわね!」
そして、もう一つ苦手な理由。
この女、嫌がらせを嫌がらせと思っていない。
その錆びた武具だって、家のガラクタ処理を体よく押し付けただけなのに「贈り物」だなんて。
しかも毎回感謝を伝えてくるもんですから、毒気を抜かれてしまいますわ……
「……そういえば、今度の実習どうするんだい?」
気まずい空気が流れた後、エメリが提案する。
「実習?」
「ほら、この前の授業で先生が言ってただろう?『来週ダンジョン実習を行うから、グループを作っておくように』って」
ダンジョン実習。この学園で毎年数回行われている実習であり、学長の理念の『貴族は戦える強きものであるべし』という理念に従ったものなのだとか。
「うちはまだグループ作ってないよ。二人は?」
「私もまだですわ。なかなか組んでくれる人がいなくって」
その二人の言葉を聞き、エメリはにやりと笑った。
「ちょうどよかった!実は僕もまだなんだ、どうだい?この三人でチームってのは」
私は面食らった。
チーム?私と、この女が?
「ええよ。うちもエメットやジョゼフィーヌと組めるならやりやすいけん、よろしく頼むよ」
「よし!これで一人確保だ!ジョゼフィーヌ、君はどうする?」
その言葉で、私は我に返る。
この女と組むのは、正直あまり気が進まない。
なにせ恋敵。連携なんて、できるわけがない。
……だが、エメットがいるなら話は別だ。
「……はあ、分かりましたわ。私もチームに入ります」
その言葉を聞いたエメリは、さらに笑顔になり勝ち誇ったような顔になった。
「よし!じゃあ『次期王ナイツズ』今日のところは解散!」
「……何?」
エメリの頓珍漢な言葉に、私は聞き返す。
「何って、チーム名だけど?」
「……それはなしで……」
初めて、この女と意見が一致した。




