山賊其の捌 誤算
ジダルダン新聞 皇歴505年 4月1週号
【ノート公爵 横領及び反逆により追放か】
今月の初めに開催された公会議において、ノート公爵、及びノート家の弾劾が行われた。当会議において公爵は先日起こった宝剣盗難事件の容疑を追及された。公爵は当初容疑を否定していたものの、ドミトリー伯爵が提出した魔道画(画像右)が徹底的な証拠となり、爵位剝奪及び自領謹慎の処分が下された。
ドミトリー伯爵は当情報を各社に提供した後、宝剣捜索に名乗りを上げ王はこれを了承。捜索部隊『幽霊騎士団』が結成され、宝剣捜索が開始される形となる。(エミーナ・ジダルダン)
【義賊アルセーヌ団 またも貴族襲撃】
今月4日、エドワード卿の輸送馬車が襲撃された。当初エドワード卿は襲撃に対し「許されることではない。すぐに騎士団に申し出、報復をする」とコメントしたものの、騎士団に数人の孤児が証言したことで状況は一変。逆に孤児の人身売買を行っていたとして糾弾されている。
なお、現場にはアルセーヌ団のマークが残されており、彼らの犯行であると予想される。10年前、流星のごとく現れたアルセーヌ団。これまで多くの貴族の不正や盗賊の暴虐に対しての反逆で多くの市民から好感を持たれている。彼らのこれからの動向に注目が集まっている。(パトリック・サオトメ)
【バーナムサーカス団 公演迫る】
王都近郊で話題沸騰中の──
*
ついにやってきた!
王都近郊の街道付近の茂みで、俺は無意識に微笑んだ。
今日は皇歴505年4月14日。
ゲーム内の日付において『ジョゼフィーヌが殺された』日である。
思えばここまで長かった。
10年前のあの日。
前世の命が幕を落とし、記憶を思いだし、謎の人物に襲撃され。
そして10年間俺がリーダーとして『義賊』をやって来た。
悪徳貴族の成敗に奴隷商人の摘発、それに他の山賊への襲撃。
それもこれも、ジョゼフィーヌを救うためである。
そもそもゲーム内において、ジョゼフィーヌの死は次のように説明された。
「ジョゼフィーヌ・ノート及び一家の死体が南の街道で発見された。
傷口は鋭利な刃物であり、夜盗に襲われたのだろう」と。
だからこそ、このように南の街道で待ち伏せしている。
……して、いるのだが。
夜盗どもは貴族狙いの野蛮人なのだろうが、サブクエストや設定集でも一切語られなかった。
だが、よくよく考えれば、ゲーム内でもここでもノート公爵の悪い噂はてんで聞かなかった。
ゲーム内はモブキャラであったから無いのはともかくとして、ここ数か月、悪い噂が急に立ち続けている。
本当に考えなしの夜盗の仕業なのだろうか?
「きな臭いよなぁ……」
きな臭い。
この事件、ゲームでは語られなかった陰謀めいたものがあるのか?
例えば、他の貴族が地位や財産を狙って──
「……い!……おい!」
「ん……あぁジェームズさんでゲスか。もしかしてもう来たんでゲスか?」
目の前には息を切らしたジェームズが立っている。
そういえば、彼もよくここまで協力してくれたものだ。
最初は俺を殺しにかかろうとしてきたというのに、義賊になってからは最前線で活躍してくれている。
お陰で人々の間には「正義の鉤爪男」として……
「呑気してる場合か!いいか、よく聞け!
目的の女は南の街道じゃねえ!西のロキア山中だ!
そして狙ってるのはただのゴロツキじゃねえ!
『幽霊騎士団』だ!!」
ゲーム知識が正しいという思い込みは、時に大きなミスをもたらす。
……やられた!
*
「チッ……一体あいつはどうする気なんだ?」
王都周辺の森の中。ノート公爵領へ続く道を見張っていたジェームズはそう独り言ちる。
彼が不満を垂らすのも無理はない。事の始まりは数日前。
彼らのリーダー・ナナシがリーダーを降りると表明したことだった。
「けどよおアニキ。もう少しで貴族の娘が手に入るってのに何を考えてるんだ?」
ノート公爵の追放。それはこの山賊団……いや、盗賊団にも風の噂で伝わってきた。
そして追放されたノート公爵一家はここを通り、襲撃されると。
なるほど10年前の予言じみた話はこういうことだったのか。
「俺がそんなこと知るかよ……ったく、次のリーダーはもう決まってるって、いったい誰のことを言ってんだ?」
「きっとアニキのことだよ!他に強い人知らないし……」
ゲットが気の抜けた声でジェームズに返す。
客観的に見れば、次のリーダーは次に強い俺だろう。
だが。
『オイラは、この盗賊団を使って好きな人を助けるでゲス』
10年前のあの時、あんな突飛なことを言い出したあいつがそんな単純なことをするか?
「……だと、いいがな……っと」
不意にジェームズが立ち上がり、持ち場を離れる。
「?アニキどこ行くんだ?」
「催してきたんだよ。ついてくんじゃねえぞ!」
ジェームズは自らの排泄に着いてこようとしたゲットを静かに右手で制しながら、茂みに入っていった。
周りに人がいないことを確認した後、ズボンを下ろし──
「ちょっと待て。そこにいるのは誰だ?」
「……!」
背後に感じた気配。ゲットではない。
おそらく、20代くらいの若者……ナナシか?
……カマをかけてみるか。
「合言葉!山!」
「えっ?う、海?」
瞬間、後ろの男の視界からジェームズが消える。
「なっど、どこだ?どこに消えた!?」
男は腰の剣──華美な装飾がされている──に手をかけ、警戒の姿勢を取る。
だが、しょせん若造の男と20年以上の経験を積んだベテランでは、格が違いすぎる。
「ぐっ……!?」
すぐに剣は蹴り飛ばされ、喉元には相手の鉤爪が迫る。
まさに窮地といったところ。
「合言葉なんてねぇよ……どうせゲットは覚えられねぇし
誰だお前は?」
「ま……待って!私は味方です!!
『幽霊騎士団』見習い、アギレー・カール!ここロキア山のノート家襲撃作戦の仲間です!」
「なっ……!?」
何故こんなところに正規軍がいる!?
『幽霊騎士団』といったらこないだ結成された宝剣捜索のための正規軍のチーム。
しかもロキア山の中だと!?方向が違うじゃねえか!
「ね、ねぇ分かりましたよね?はやくこの拘束をがっ!?」
とりあえず咽喉を掻っ切って殺しとくが、急がねえと!
早く伝えねえとせっかく行儀よくしてたこの10年がパーだ!!
*
「……首尾は?」
王城内。
重厚な石壁に囲まれた玉座の間で、厳格な男の声が響く。
「はっ。現在我が『幽霊騎士団』の実力者たちが暗殺を進めています」
厳格な声の男は言葉を発さず、髭を撫でる。
(は~あめんどくさ。とっとと帰って眠りたいわ)
あくびを噛み殺しながら心の中で女は呟いた。
せっかく新組織のリーダーになったのに最初が暗殺任務なんて。
萎えるわ~。
「ですが、宜しいので?ノート公爵は陛下のご友人では?」
気になったので私は問う。その質問に対し、
「……だから?とっとと殺せ。それともこう言うべきか?
我が王権を持って命じる。我がシーラン王家に逆らうもの、害をなすもの。皆悉く、遍く死を与えよ」
慈悲王、シーランⅥ世は、そうお命じになった。




