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山賊其の漆 義賊

「つまりこういうことか?偶然町で見た女の子に一目惚れして、その子が貴族の子だということが分かった。で、この前の襲撃でその子が狙われていることが分かったから、助けたいと」


ゲットがまとめた言葉に、俺は首を縦に振る。

この世界がゲームの世界で、俺が転生してきたから未来を知っている……とはあまりに荒唐無稽すぎて言えなかったので、適当にはぐらかして伝えたのだが、案外うまくいったようだ。

あの砦のことを知っているのは生き残った俺だけだという事実が、嘘を補強していた。


「はぁ~……」


ジェームズが呆れたと言いたげにため息をつく。

それもそうだろう。殺そうと思っていた相手から、「好きな人を助けたい」などヒーロー然とした願望を言われては、毒気も抜かれるというものだ。


「おい……お前自分の立場分かってんのか?山賊だぞ?

山賊が人助けだなんて聞いたこともねえぞ……」


ジェームズがさらにため息をつく。本当に理解できない、そう言った困惑の感情が息となって出ていくようだ。


「私も理解できんね……」


チヅ婆も口を開く。


「そこのジェームズの言う通り、私らは山賊じゃ。惚れた晴れたは結構だし、一目ぼれした相手を助けたいというのは私もわかるよ。私にもそんな覚えがあるからね。じゃが……」


「だが?」


「もし、その計画を阻止できたとして、私たちに何かメリットはあるのかい?

リーダーになるのなら、無思慮ではいられないよ」


「おい!俺はまだ認めたわけじゃ」


「黙っとれジェームズ!」


チヅ婆の言うとおりだ。

俺にとっては前世から恋焦がれた相手だが、チヅ婆たちにとっては知らない家の子供。

よっぽどのメリットがなければ、人数が少なくなった組織とはいえ簡単には動かせない。


「それだけのメリットがあるのかい?」


チヅ婆に問われる。

無論ある。さっきわざと伝えなかった情報、「切り札」だ。


「その子供は、ノート家のご令嬢ジョゼフィーヌ・ノート嬢でゲス」





「なっ……!?」


俺含め三人が驚愕する。

ノート家。この言葉は俺たちみたいな山賊の落ちこぼれでも知ってる。

このシーラン王国で王家に次ぐ権威を持つ大貴族の一族だ。

ジョゼフィーヌってったらその一人娘じゃねえか!


「今から十年後、彼らは襲撃されるでゲス。誰に襲われるかはわからないでゲスが……」


「証拠はあるのかい?」


チヅ婆が問う。確かに、言葉なら幾らでも言えるからな。


「……砦で、暗号?のようなものを見たでゲス」


「少し書いてもらえるかい?私のスキルなら解読できるかもしれない」


チヅ婆に紙を貰ったナナシは、線を書き始めた。

丸みを帯びたような、角ばったような、跳ねたような字。少なくとも俺は見たことがない。


「これは……呪術文字だね、どれどれ」


チヅ婆の目が光る。

スキル『アイリス』。目で見たものを鑑定するスキル。


「『十年後、馬車、ノート家、爆破』……間違いないみたいだね。

呪術文字をその年で覚えてるわけもないし、目で見て覚えていたんだろう?」


「う、うん。目で見て覚えたでゲス」


ナナシの言葉を横目に、俺は考えを巡らせる。

ただの貴族ならこっちにはマイナスだ。弱体化した海軍や弱点のある砦ならともかく、普通の貴族なら王国最強の騎士団が動き出す。そうなりゃ俺たちに勝ち目は無い。

だが、大貴族の命を救ったなら話は別だ。そこからそいつを人質にして金を請求するのもありだし、公爵家に恩を売るのだってありだ。


「ど、どうするアニキ?」


「当然乗るさ」


耳打ちしてきたゲットに対して、ナナシたちに聞こえない程度の声で耳打ちする。


「想像してもみろ……俺たちはそこから貴族にコネを作ることだってできるし金も手に入るんだぞ?

そりゃあ乗るだろ」


「なるほど!さすがアニキ!」


(最悪リーダーのこいつに全部押し付けて金だけ持ち逃げしてもいいわけだしな)


ジェームズは野心に目を輝かせた。





何とかうまくいったらしい。

証拠を求められたときは内心冷や汗をかかされたが、表情を繕い破れかぶれで書いた日本語がなぜか呪術の文字に見なされた。

本当にラッキーだ。


「でも、どうするんだ?」


ゲットが口を開く。


「俺たちは山賊なんだろう?助けるって言ったって、俺たちが犯人だって思われたら何にもならないじゃないか」


確かに、一理ある。ジョゼフィーヌのことを助けたいと思っていたとしても、相手からすればただの山賊だ。

それに、ジョゼフィーヌをボスにする以上、人殺しの山賊団のままではいられない。いくらジョゼフィーヌを助けるためとしても、血生臭い人殺しのリーダーになったジョゼフィーヌは見たくない。

結局自分のエゴなのだが、ここだけは譲りたくない。ジョゼフィーヌのキャラクターはできるだけ歪めたくないのだ。

だからこそ、この世界に転生してから考えていたことがある。


「これからオイラたちの山賊団は、『義賊』に生まれ変わるでゲス」


「『義賊』?」


ジェームズが聞き返す。この世界にその概念はなかったか?

サブクエストで出てきたような気がするが、知らないということはまだいないのか。


「義賊っていうのは、悪党から奪ったものを貧しい人に配ったり、悪人を成敗するような、『正義の悪党』でゲス」


自分なりに説明をしてみる。イメージはロビンフッドや石川五右衛門の様な在り方だ。


「正義の悪党?そんなの……」


「私は賛成だよ。これまでのやり方じゃやっていけないことは目に見えてるからね」


ゲットの言葉をチヅ婆が遮る。


「俺たちも賛成だぜ。なあゲット?」


「あ、アニキ……」


ためらうゲットにジェームズが耳打ちする。


「義賊大いに結構じゃねえか。どうせ襲う相手が変わるだけなんだ……だったら乗れるだけ乗って利用しやろうぜ?」


その言葉に、ゲットは渋々ながら頷く。


「よし!じゃあ全員賛成だな。

で、名前はどうするんだ?」


「名前?」


「おいおいこれからその義賊?ってのをやるんだろ?じゃあ悪名高い『アラグ盗賊団』じゃあ不味いだろ」


確かに。このままの名前では駄目だ。人殺しの山賊団からはできるだけ決別しなければ。

その視点は無かった……どんな名前が良いだろうか。

義賊……盗み……怪盗?


「……アルセーヌ」


「?」


「アルセーヌ盗賊団。それが、新しいオイラたちの名前でゲス」





以上が、10年前の話である。

現在、皇歴505年4月。

ジョゼフィーヌ襲撃は、明日に迫っている。

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