山賊其の陸 問答
重々しい岩の戸が開かれ、俺は広間に入った。
椅子に座っている男と視線がぶつかる。防衛班リーダー、ジェームズ。
「……フッ……フフフ……アーハッハッハ!」
「ア、アニキどうしたんだ!?」
突如としてジェームズが甲高い笑い声を挙げ、それに対してゲットが狼狽する。
「くっ……ふふふ……いや、な?」
ジェームズは腹を抑えつつ、包帯を巻かれた俺を嘲笑うかのように指さしてくる。
「一体どんな奴が来るかと思ってたが……まさかこんな怪我人のガキとはな」
「これ!団長に対し無礼であるぞ!!」
ジェームズの言葉にチヅ婆が憤慨する。
まるでそれは自分の主人を守る従者のようだった。
が、ジェームズはチヅ婆を冷ややかな視線で一瞥した。
「あ?チヅ婆さんよ……別に俺たちはこいつを新しいリーダーと認めたつもりはねえよ」
そう言うと、ジェームズは音もなくスーッとこちらに距離を詰め──
「!何をしている!!」
「……!!」
俺の喉元に、鉤爪を押し当てた。
「おい、ガキ。一つ質問だ。
おまえはこの盗賊団を、どうしたいんだ?」
*
この世界には、人の住む大陸は一つしかなく、また国もシーラン王国のみである。
その数少ない港を襲撃していたのが、「海賊」と呼ばれた男、ジェームズであった。
その卓越した操舵技術、指揮能力は衰退した騎士団の海軍には太刀打ちできなかった。
しかし、ある日その栄光は粉々に打ち砕かれた。
「お前が話題の海賊か?」
海賊船の甲板上。いきなり飛び乗り部下2名を殺害した男はそう言った。
「ああそうだ……貴様、何者だ?」
ジェームズが問う。その利き手の左手には、愛用のカトラスが握られている。
周りで見ている船員たちが固唾をのんで見守る。
「俺は大陸の方で山賊をやってんだがよぉ、仲間が少なくて困ってんだ。
お前、強いんだろ?俺の仲間になれ」
「ふざけるなよ……俺はこの船の船長だ。貴様なんぞの部下になるわけがないだろう?
それにッ!」
ジェームズが空中に跳躍する。その高さおよそ3mといったところか。
そのまま帆柱を蹴り、落下のスピードを活かしたままカトラスを構える。
「貴様は私の部下を殺した!よって死で贖ってもらおう!」
空中で回転しつつ、そのカトラスで相手を突き刺す。
かつての剣士が得意とした技、名付けて秘儀・飛魚。
ジェームズの得意技の一つだ。
「ガッ……!?」
相手が山賊王アラグでなければ、だが。
「せ、船長!!」
あの飛び掛かった一瞬。
アラグは棍棒を片手で振った。
それだけのことでジェームズは吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
後に分かったことだが、アラグは事前に山賊行動をして自らのステータスを底上げしていたらしい。
(クソ……私の誇りが……こんな奴に……)
「この程度か。海賊ってのも大した事ねえなぁ……まあいい。
負けは負けだ。俺の部下になってもらうぜ……野郎ども!」
アラグの合図とともに、山賊たちが甲板に上がる。
「や……やめろ……!」
薄れゆく意識の中。
最後に目に映ったのは、解体されていく愛船と、千切れ飛んだ左手だった。
*
(チッ……嫌なことを思い出したな。それもこれもこいつがあの野郎の血を継いでいるせいだ)
ジェームズは頭に浮かんだその屈辱を消し去ろうとし、再度ナナシに問う。
「もう一度聞くぜ?お前は、この盗賊団を、どうしたいんだ?」
「……!」
「やめろジェームズ!無礼であるぞ!」
「おっと動くなよ婆さん。こいつの生殺与奪は俺が握ってんだぜ?」
さらに鉤爪を近づける。
それは、「返答を間違えたら殺す」という意思表示でもあった。
(さあどう答える?自分一人のためか?それとも政治的な思想か?
どちらにしろ、ぶっ殺してやることには変わりないがな)
「オイラは……」
さあ、言え。
「お、オイラは……!」
次に口から出た言葉がお前の遺言だ……!
「オイラは、この盗賊団を使って好きな人を助けるでゲス」
「………………………………はぁ?」
*
ジェームズの鉤爪が、自分の喉元に向けられている。
「おい、ガキ。一つ質問だ。
おまえはこの盗賊団を、どうしたいんだ?」
命の危機を感じ、心臓の鼓動が早鐘を打つ。
どう答えればいい?どう答えれば命を繋ぎ、さらに認められることができる?
脳内電気が迸り、生きるためのシミュレーションを始める。
「オイラは、この盗賊団のリーダーになって父の後を継ぐでゲス」
駄目だ。ただでさえ父に反感を買っていた奴に父の後を継ぐなんて言ってみろ。その瞬間に敵と見なされるのがオチだ。
「オイラは、リーダーにならないのでジェームズさんになってほしいでゲス」
これも駄目だ。ジェームズの立場になって考えてみれば分かる。ここを切り抜けられたとしても、後から潔く諦めたことを疑われて始末されるのが関の山だろう。
どうする?いったいどうすればいい?
そうこうしているうちに、更に鉤爪が迫ってくる。
ひんやりとした金属の冷たさをすぐ近くに感じる。
「もう一度聞くぜ?お前は、この盗賊団を、どうしたいんだ?」
不味い。このままじゃ2回目の死を迎えてしまう。
それは駄目だ。まだ俺は何もこの世界でできていない!
「オイラは……」
思考が加速する。生き残るための手段を導きだそうとする。
「お、オイラは……!」
頼む!なんでもいい!この状況を解決する一手を思いついてくれ!
「オイラは、この山賊団を使って好きな人を助けるでゲス」
終わった。
思いつかなさ過ぎて、思ったことをそのまま口に出してしまった。
ああ、ごめんジョゼフィーヌ。
せっかくこの世界に転生したってのに、こんなところで終わりだなんて……。
「………………………………はぁ?」
しかし、ジェームズから帰ってきたのは、俺に対する怒りでも、俺を殺せる喜びでもなく。
「……は?このタイミングでな、なに言ってんだ?お前……?
このタイミングで好きな人がいる宣言とか……頭おかしいんじゃねーの?」
ただただ純粋な、困惑だった。




