表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/152

34回目 その2

 温泉街の夕暮れは、昼間の喧騒が嘘みたいに静かだった。

 雪を照らす街灯がぽつりぽつりと灯り、

 俺たちは旅館の玄関に戻ってきた。


「はぁ~……お風呂、気持ちよかったぁ♡」

「ふわりちゃん、のぼせてない?」

「だいじょ~ぶ~♡ ふわり、湯上がりプリンも食べたし~♡」

「また食ってるのか……」


 部屋に戻ると、こたつとみかん、そしてお菓子が山積み。

 まさに“旅行の夜”という空気だ。


「……さて!」

 杏奈がこたつの上に紙くじを置いた。

「このために持ってきたのですっ♡」

「出たな、悪魔の遊び」

「悪魔じゃなくて、愛のゲーム♡」

「どっちにしろ危険だろ」


「じゃあいくよ~!」

 三人がいつもの掛け声を合わせる。

「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 くじを引いた瞬間――

 俺の棒の先に赤い印。


「おぉ、出たっ! 逆転ルールですっ!」

「き、きましたね、れー君ターン!」

「おおぉ……久々だな……俺が命令する番か」


「どんな命令出すの~?♡」

「ふわり、ドキドキ~♡」

「鈴音、心の準備がっ……まだできてません!」

「……お前ら、毎回言ってる気がするぞ」


「じゃあ……そうだな」

 俺は少し考えてから、口を開いた。

「“王様をとびっきり癒やせ”」

「癒やせ?」

「そう。マッサージでも耳かきでも、甘い言葉でも――癒やせたら成功だ」


「うわぁ、なんか大人っぽい~♡」

「ふわり得意そう!」

「れー君、それは誰から順番に?」

「そうだな……杏奈からいこうか」


「よっしゃ任せて!」

 杏奈は袖をまくって膝立ちになり、

 俺の後ろに回り込む。


「はいっ、杏奈式肩もみ♡」

「ちょ、けっこう力強いな……!」

「我慢しなさい王様♡」

「お前、癒やしって言葉の意味分かってる!?」

「愛のスパルタマッサージだよ♡」


「ひゃははっ、れー君くすぐったそう~!」

「鈴音も、やりますっ!」


 鈴音が横から肩をトントン叩く。

「鈴音式、ツボ押し療法ですっ!」

「それ、痛っ、いてててっ!」

「効いてる証拠ですっ!」

「お前までスパルタか!」


「じゃあ、最後はふわり~♡」

 ふわりがこたつからゆっくり這い寄ってくる。

「れーじくん、目、閉じて~♡」

「お、おう?」


 次の瞬間――ふわりの指先が、そっと頬に触れた。

「ふわり式“とろけるなでなで”~♡」

「……な、なにこれ、めちゃくちゃ落ち着く」

「でしょ~♡ ふわり、癒やしのプロなんだから~♡」


 隣で杏奈が唇を尖らせる。

「ちょ、ズルい! 癒やしポイント高すぎるっ!」

「リンちゃんも混ざろ~♡」

「わ、わわっ!? ふわりちゃん、腕の中に!?」

「全員集合♡」


 結局、三人が寄りかかるように零士を包み込む。

 杏奈の髪の香り、ふわりの柔らかい体温、鈴音の少し緊張した息づかい。

 全部が混ざって、心地よい熱がこたつの中に溶けていった。


「……あー、これは反則だわ」

「癒やされた~?」

「もう完全に戦意喪失」

「勝者ふわりチーム~♡」

「チーム戦だったのか!?」


 笑い声が夜の旅館に響く。

 外では雪が静かに降っていて、

 その音さえ、なんだか優しかった。


 杏奈が小さく呟く。

「ねぇ、れー君」

「ん?」

「こうしてるとさ……本当に卒業するんだなって思う」

「……そうだな」

「でも、まだ終わらないよ。これからも、王様れー君と一緒にいっぱい思い出作るから」

「……ああ、頼むぞ、正室たち」


 三人の笑顔が、湯けむりのようにやわらかく広がっていた。



 夕食を終えて、温泉宿の廊下を歩く。

 ふわりは満腹でふわふわ、杏奈はテンション高め、鈴音は少し眠そう。


「れー君っ! 卓球場あるよっ!」

 杏奈が急に声を上げた。

「旅館といえば卓球でしょ~♡」

「ふわりも~、ピンポンしたい~♡」

「……こういう流れ、嫌な予感しかしないんだけど」

「大丈夫! 今回は勝負したら、王様から“ご褒美”がもらえるルールにするの♡」

「また王様ゲームの派生!?」

「当然でしょ!」


 卓球場は意外と広く、天井から下がる提灯がオレンジ色の光を落としていた。

 どこかレトロで、妙に雰囲気がある。


 ふわりは帯をゆるめながら、のんびりと首をかしげた。

「れーじくん、浴衣……崩れてない?」

「お、お前こそ、結構はだけて……!」

「え? あっ、ほんとだぁ~♡」

 胸元の合わせ目がゆるんで、あたたかい肌がちらりとのぞく。

 ふわりは慌てて直しながらも、いつもの調子で笑った。

「旅館マジック~♡ ふわり、いつもより開放的~♡」

「心臓に悪いって……!」


 杏奈がニヤッと笑って背伸びする。

「じゃあ、ご褒美目指して勝負しよっか! 王様のために♡」

「れー君のために……全力でやりますっ!」

 鈴音がきゅっと帯を結び直す。その拍子に袖が滑り、白い肩が一瞬のぞく。

「ひゃっ……ち、違います、これは事故ですっ!」

「どんな事故だよ!」


「じゃ、杏奈vs鈴音! 勝った方が王様から“好きな褒め言葉”もらえるってことで!」

「褒め言葉!?」

「そう♡ だってれー君の声、気持ちいいんだもん」

「おい、変な理由つけんな!」


 俺が呆れてる間に、勝負開始。

 杏奈のサーブが鋭く飛ぶ。

「いっくよーっ!」

 ぱんっ、と弾ける音。

「ひゃうっ!?」

 鈴音のラケットが空を切る。


「杏奈ちゃん強いっ!」

「当然でしょ♪ 体育王国の女王だもん!」

「ふふっ……油断しましたねっ!」

 鈴音が気を取り直し、ドライブを返す。

 浴衣の袖がふわりと揺れて、ほんのり色香を感じる。

 温泉の余熱もあって、顔の赤みが余計に可愛く見えた。


「鈴音、ナイスショット!」

「ありがとうございますっ!」

「でも……次で決めるよ!」

 杏奈の瞳がキラリと光る。

 軽快な足運び、跳ねる裾。

 浴衣の裾から、すらりと伸びた足がチラッと覗く。

 息を呑む暇もなく、スマッシュが炸裂。


「決まったぁ!」

「くぅっ……やりますね、杏奈ちゃんっ!」


 点数は10対8。

 息を切らしながらも笑い合う二人。

 その姿に、なんだか胸が熱くなった。


 そこへ、ふわりがマイペースに登場。

「ふわりも~、やりたくなっちゃった~♡」

「えっ、今の流れで!?」

「次はふわりvsれーじくん~♡」

「なんで俺!?」


 ふわりが構えた瞬間、

 帯がふわっとほどけて――

「わ、わわっ! ふわりちゃん!?」

「きゃ~♡ れーじくん見た~?」

「いや見たけど! いや、見てない!」

「ふわり、ちょっと大胆すぎ~♡」杏奈が笑う。

「だ、だからこれは事故ですってぇ!」鈴音が真っ赤。


 慌てて直しながら、ふわりはにっこり。

「えへへ~♡ れーじくん、ドキドキした~?」

「お前は天然で言ってんのか確信犯なのか分かんねぇ!」


 最後は全員で笑いながらラケットを放り出した。

 頬は温泉の熱で赤く、息も少しだけ弾んでいる。


「ねぇ、れー君」

「ん?」

「今の勝負、楽しかったね」

「……ああ。温泉卓球、恐るべしだな」

「じゃあまたやろっ。大学でも!」

「もちろん。……ただし、浴衣はもう少し慎重にな」

「はーい♡」


 笑い声と湯けむりが混ざって、夜の空気がほんのり甘く揺れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ