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幕間 温泉街デート

 翌朝。

 障子越しの光がふんわりと差し込み、部屋の中があたたかく照らされていた。

 雪は止んで、空は冬らしい澄んだ青。

 温泉宿の朝は、どこか特別な空気を持っている。


「れー君、朝ごはん行こっ!」

 杏奈が寝起きの髪を無造作にまとめながら笑う。

 その隣で、ふわりはまだあくびをしていた。

「ふわり、もう少し寝たい~♡」

「だーめっ! 朝市行くんだから!」

「す、すみませんっ! 鈴音も、準備できてますっ!」


「お前ら……朝から元気だな」

 苦笑しつつ外に出ると、

 石畳の坂道に湯けむりがふわりと漂っていた。


「わぁ……綺麗ですね」

「ねー! 雪が残ってるのに、あったかい匂いする!」

「ふわり、まるで夢の中みたい~♡」


 湯けむり越しに差し込む光が、三人の髪をやわらかく照らす。

 それだけで、この旅行に来てよかったと心から思えた。


「はい、これっ」

 杏奈が差し出したのは、温泉まんじゅう。

「試食、ただだったよ~♪」

「お前、朝から甘いもん食うのか」

「だって旅先だもん♡」


「れーじくんも食べて~♡」

 ふわりが差し出したまんじゅうを、自然に口元に運んでくる。


「ほら、“あーん”♡」

「お、おい……」

「れー君、まんじゅうに目が泳いでる~♪」

「うるせぇ……」


「鈴音もあーんどうぞ♡」

「え、ええっ!? わ、私は自分で食べますからっ!」

「リンちゃん、照れてる~♡」

「照れてませんっ! ……ちょっとだけですっ!」

 結局、頬を赤らめながら小さく口を開く鈴音。

 まんじゅうを食べた瞬間、表情がぱっと明るくなる。

「……あ、あまいですっ! おいしい!」

「可愛い食レポだな」

「な、なにがですかっ!」


 朝市を歩きながら、

 三人がそれぞれお土産を選んでいく。


「れー君、どれがいいと思う?」

「えっと……そのキーホルダーとか?」

「だよねっ♡ おそろいにしよ♪」

「お、おそろい!?」

「ふわりも買う~♡」

「じゃあ鈴音も……」

「はい、全員おそろい決定~!」

「強制かよ!」


 笑いながら店を出ると、湯気の向こうに

 ゆるやかに流れる時間があった。


「ねぇ、れー君」

「ん?」

「こうして4人で歩くの、次は大学のキャンパスだね」

「……ああ。きっと、もっと広くて、もっと賑やかだぞ」

「じゃあ、また“王様れーじ君♡♡♡”やろっか」

「まだやるのか……」

「当たり前でしょ!」


 その言葉に、

 ふわりと鈴音が同時に笑う。


「大学生になっても、ずーっと一緒ですよ~♡」

「はいっ。絶対、離れませんから!」


 雪が溶けて、湯けむりが春のように揺れる。

 卒業旅行の朝――

 俺たちは、もう次の季節を歩き始めていた。


 温泉街の通りには、まだ湯けむりが漂っていた。

 石畳を踏みしめる足音が、心地よいリズムを刻む。


「れー君、見て見て~♡」

 杏奈がクルッと一回転する。

 青地の浴衣に、赤い帯。髪はハーフテールのまま、金色の簪がきらりと光った。

「似合ってる?」

「いや、似合いすぎだろ……」

「えへへ♡ 言わせた~♪」


 その隣で、ふわりが帯を結び直していた。

 淡い桃色の浴衣に、白の帯。

「れーじくん~、帯きつくない? ふわり結び、見て見て~♡」

「ふわり結びって何だよ」

「ふわりオリジナル~♡」

「帯までマイペースかよ……」


 そして、鈴音は真面目に髪を整えながら小さく言った。

「れー君、どうですか……? へ、変じゃないですか?」

「いや、すごく似合ってる」

「っ……ありがとうございますっ!」

 頬が赤くなり、視線を逸らすその仕草が、やっぱり鈴音らしかった。


 道の先に、無料の足湯コーナーがあった。

 3人とも目を輝かせる。


「入ろっか♡」

「おー、気持ちよさそう!」

「れーじくん、タオル持ってきてくれた~?」

「おう、三人分ある」

「さすが~♡」


 4人で並んで足湯に入る。

 温かい湯が足先を包み、空には湯気がゆらゆら昇っていく。


「はぁぁ……極楽です……」

「鈴音、おじいちゃんみたいな感想っ!」

「ふふっ♡ リンちゃん可愛い~♡」

「ふ、ふわりちゃんまで~!」


 のんびりした空気。

 だが、こういう時ほど――例の遊びが始まるのがこのメンバーだ。


「……ねぇ」

 杏奈がニヤリと笑った。

「王様れーじ君♡♡♡」

「おい、ここでか!?」

「旅先特別ルールだよぉ~♪」

「ふわりも賛成~♡」

「す、鈴音も……や、やります!」


「……はぁ。どうせ止めても始まるんだろ」

「その通りっ♡」


 杏奈がポーチから小さな紙くじを取り出す。

「旅館のメモ帳で作った“簡易くじ”だよっ♪」

「なんで準備いいんだよお前」

「クセだよ、クセ!」


「じゃあ――いくよ!」

 三人が声を揃える。

「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 くじを引く。

 当たりを引いたのは――ふわり。


「ふわり、あたり~♡」

「おぉ、正室ふわりか」

「ふふっ♡ 特別命令、考えてたの~」

「おいおい、もう用意してんのかよ」


「じゃあね……“れーじくんを、とろけさせちゃう♡”」

「……は?」

 杏奈と鈴音が同時に「えっ⁉」と声を上げた。


「ふわりちゃん!? な、なにを……!?」

「んふふ♡ 足湯で~リラックスしてるれーじくんを~、癒やしてあげるの~♡」

「……やっぱお前、天然の天才だな」


 ふわりが零士の肩にそっと手を置く。

「こうやって~、肩を優しくマッサージして~♡」

「おいおい……みんな見てるだろ」

「平気平気~♡ 旅先では誰も気にしないの~♡」


「ふわりちゃん、ずるい~! 杏奈もやる!」

「鈴音も、負けませんっ!」


 結局、三人が両肩と背中を占領。

 足湯の中で肩を揉まれる男子高校生――完全に勝ち組の図だった。


「おいおい……こりゃ王様が溶けるわ」

「ふふっ♡ とろけた~?」

「いや、もう手遅れだわ」


「次の駅でもやろうね!」

「……まだ続くのか?」

「当たり前だよ~♡ 卒業旅行、まだ半分だもん!」


 笑い声が湯気の中に溶けていく。

 温泉街の空気はあたたかく、

 4人の距離は、もう“家族みたい”に近かった。












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