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33回目 その3

「「「王様れーじ君♡♡♡」」」


 こたつの中で棒を回しながら、俺は少しだけニヤリと笑った。

「よし、最初の命令は……」


 3人が同時にごくりと息を呑む。

 杏奈は前のめりに、ふわりは頬を押さえてうっとり、鈴音は正座の姿勢で固まっている。


「“手をつなげ”」


「……へ?」

「おお~♡ そうきたか~♡」

「えっ!? そ、それだけですかっ!?」


「うん、それだけ。簡単だろ?」

「か、簡単ですけど……!」

 鈴音が真っ赤になって両手を胸の前に引っ込める。

「こういう“何気ない”のが一番くるんだよな~♪」

 杏奈が意地悪く笑いながら、俺の右手に自分の手を重ねてきた。

 指が触れ合った瞬間――

「……あったか」

 思わず呟いた声が、自分でも驚くほど柔らかかった。


「ね、れー君。こうやってると……なんか落ち着くね」

「……ああ」

 その隣で、ふわりが左手をそっと重ねてくる。

「ふわりも~♡ れーじくんの手、やわらか~い♡」

「おいふわり、両手ふさがったんだけど」

「れーじくん、逃げられないね~♡」

「お、おいっ」


「じゃ、じゃあ……鈴音もっ!」

 鈴音が両手を伸ばして、杏奈とふわりの間に割り込む。

「三人同時!?」

「だ、だって、鈴音だけ離れてるの変ですっ!」

「えへへ♡ リンちゃんも一緒~♡」

「ふふっ、ハーレムだね~れー君♪」

「うるせぇ……!」


 3人の手が、俺の指に重なる。

 こたつの中、布団越しのぬくもりが一つに溶け合う。

 雪の降る音さえ、遠く感じた。


「ねぇれー君」

「ん?」

「卒業しても、こうやっていられるのかな」

 杏奈がぽつりと呟いた。

「……そりゃ、いられるだろ」

「ふわりも~♡ 一緒だよ~♡」

「鈴音も……ずっと」

 3人が手を握る力をほんの少し強める。


 その瞬間、俺の心の奥で、何かが静かにほどけていく気がした。


「なぁ……お前ら」

「ん?」

「手、あったかいな」

「えへへ♡」

「うん……」

「そ、そんなに言わなくてもいいですっ!」

 鈴音が照れながらも、指先を離さなかった。


 外では雪が深々と降り続き、

 窓に映る明かりが、まるで4人の影を包むように滲んでいた。


 しん、と静まり返った部屋。

 こたつの中で、まだ全員の手が繋がったままだった。

 雪の音が、薄い障子越しにぽつぽつと響いている。


「……さて、次の命令、いくか」

 俺がそう言うと、三人の視線が一斉に集まる。

「えっ、もう!?」

「れーじくん、連続命令~♡」

「こ、心の準備がっ!」

「準備いらないよ。簡単な命令だから」

「えぇ……またその言い方ですかぁっ!」

 鈴音が身を縮める。杏奈とふわりはニヤリ。


「命令、その二――“距離を詰めろ”」


 その言葉に、3人がピタッと固まった。


「ど、距離……って?」

「そのまんまの意味だよ。物理的に、近づけ」

「わ~♡ れーじくん、それちょっと大胆~♡」

「ちょっと!? だいぶですっ!」

 鈴音が真っ赤になって立ち上がろうとするが、こたつの布団に足を取られてずるっと座り込む。


「ほら鈴音、逃げたら反則だぞ?」

「うぅっ……そ、そんなぁ……」

「ルールはルールだよ~♡」

 ふわりがのんびり微笑んで、隣へずずいと移動。

「ふわり、近っ!」

「だって“詰めろ”って言ったのれーじくんだよ~♡」


 右からは杏奈が滑り込む。

「ん~♡ この距離だね♪」

 俺の肩に自然に寄りかかるような体勢。

「ちょ、杏奈……お前、近っ!」

「王様の命令には忠実だから♡」

 涼しい顔で言って、さらに頭を預けてきた。

 ふわりも柔らかく身体を寄せる。

「れーじくん、あったかい~♡」

「そりゃ、3人が密集してるからな……!」

「じゃあ……鈴音も」

「えっ!?」

「リンちゃん、こっち♡」

「こ、こうですかっ!?」

 両脇を杏奈とふわりに挟まれ、鈴音が恐る恐る間に腰を下ろす。

 結果、こたつの中は完全に“密着地帯”になった。


「……お前ら、ほんとに容赦ねぇな」

「えへへ♡ 王様の命令だから~♡」

「れー君、今どんな気分?」

「……正直、暑い」

「えぇ~♡ 冷めちゃったの?」

「冷めてねぇよ!」


 笑いながらも、3人それぞれの距離感が妙に心地いい。

 杏奈の髪からはシャンプーの匂い、ふわりの肩越しに柔らかな温もり、鈴音の手が時々布団の中で当たって――そのたびに彼女がピクッと反応する。


「っ、す、すみませんっ!」

「ぶつかっただけだろ、気にすんな」

「でも……! こう、なんか……!」

「リンちゃん、かわいい~♡」

「か、かわいくないですぅっ!」

 杏奈がくすくす笑いながら、鈴音の頬を軽くつつく。

「ほらね、照れるとすぐ赤くなる」

「やめてくださいぃっ!」


「ふぅ……なんか、すごいね」

「何がだ?」

「こうやって、みんなでこたつに入ってるだけなのにさ――」

 杏奈が小さく笑う。

「卒業旅行って感じがする」

「確かに~♡ ふわり、こういうの夢だった~♡」

「鈴音も……楽しいです」

「なら、良かった」


 3人がこくんと頷く。

 雪はまだ降り続き、

 障子の向こうの世界が、ふわりと白く滲んでいた。


「じゃあ、次の命令いくぞ」

 俺がそう言うと、三人の背筋がピンと伸びた。

「え、ま、また!?」

「れーじくん、連続ミッションだね~♡」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! 鈴音、心の準備が……!」

「ふふっ、今度は優しいやつだから安心しろ」


 3人の目が同時にこちらへ向く。

 その一瞬の沈黙のあと、俺は軽く笑って言った。


「命令その三――“癒せ”。」


「えっ……癒す?」

「そっ、そういう命令!?」

「ふわり、得意分野かも~♡」

「やっぱりな」

「れーじくん、どうして笑ってるの~?」

「いや、なんか予感がした」


「じゃあ順番に行こうか」

「じゃあ最初はあたしね!」

 杏奈が真っ先に手を挙げた。

「癒すっていえば、これしかないでしょ♪」

 そう言って、俺の背中にまわり――。

「れー君、肩もみターイム♡」


「お、おいっ」

「じっとして。力抜いて」

 ぐっ、ぐっ、と指が肩の筋肉を押し上げる。

「お、思ったより上手いな」

「そりゃもう、毎回やってるもん♪」

「毎回!?」

「ふわりちゃんの料理手伝う時とか、リンちゃんが疲れてる時とか~♪」

「杏奈ちゃん、地味に気が利くよね~♡」

「でしょ?」

「……褒められて照れてる顔、可愛いです」

「ちょ、鈴音!? 真面目に言わないでよ!」

 笑いがこぼれ、部屋の空気がいっそうあたたかくなる。


「じゃあ次は、ふわりの番~♡」

「来たか……」

「ふわりの癒しはね~……これ♡」


 そう言って、ふわりはどっかりと俺の横に座り、

 膝をポンポン、と叩いた。


「れーじくん、こっち♡」

「ま、まさか……」

「ふわり耳かき上手なんだよ~♡」

「いや、上手い下手の問題じゃなくてな……!?」

「大丈夫~♡ れーじくんの耳、ふわりがふわふわにしてあげる~♡」

 柔らかい声とともに、頭が自然と彼女の膝に乗せられる。

 ふわりの指先が、耳のまわりをそっと撫でるように動く。


「どぉ? くすぐったい~?」

「……いや、気持ちいいけど……!」

「ふふ~♡ よかったぁ♡」

 ほんのり甘い香りが鼻をくすぐり、思考がふわりとぼやける。


 この間はおっぱいが邪魔でできなかったけど、上手くなったらしいな。


 大変気持ち良かった。

「ず、ずるいですっ! そんな癒し方反則ですっ!」

「鈴音ちゃんもやる~♡?」

「む、むりですっ!」

「リンちゃん、照れてる~♡」

「照れてませんーっ!」


「じゃあ最後は……鈴音の番だな」

「うぅ……プレッシャーですっ!」

「無理しなくていいよ。癒す方法は自由だから」

「じ、自由……」


 鈴音が数秒考えたあと、顔を上げた。

「じゃあ……鈴音、お茶を淹れますっ!」

「お茶?」

「はいっ! 温泉宿といえばお茶です!」

「おお、いいじゃん♪」

「ふわりも飲みたい~♡」

「杏奈ちゃん、れー君の分先ですよ!」

「わかってるって~♪」


 鈴音が急須を丁寧に扱う姿は、まるで茶道の所作みたいに真剣だった。

 湯気の立つ湯呑みをそっと差し出す。

「ど、どうぞ……」

「ありがとな。……うまい」

「よかったぁ……」

 ほっとした笑顔が、湯気の向こうで柔らかく滲んで見えた。


 こたつの中。

 3人の“癒し”が、それぞれ違うぬくもりで残っていた。

 肩の軽さ。

 耳の心地よさ。

 そして、温かいお茶の香り。


「……これ、最高の組み合わせだな」

「でしょ~♡」

「ふわりたち、王様を癒すチームですから~♡」

「い、癒すチームって……!」

「ねぇれー君、幸せでしょ?」

「……ああ」


 外では、まだ雪が降り続いている。

 それでも、部屋の中だけは、春みたいにあたたかかった。







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