積み重なる仕事、頼る人
あれから、しばらくの時間が経ち。
ユリはヴェルディーゼの執務室にて、床に寝転がって駄々を捏ねていた。
「やだやだやだやだ構ってぇぇぇぇっ、仕事ばっかりやだぁ! なんで救世のお仕事が無いのに忙しいのぉ!」
「それは……僕の仕事がそれだけじゃないからじゃない?」
「せーいーろーんーいーらーなーいー!! 泣きますよ!? 年甲斐もなくギャン泣きしますよ!? いいんですか!? かなりイタイですよ!」
「僕からしたら可愛いから別にいいかな。今は泣いたって構ってあげられないから、聞き流すだけだし」
聞き流すだけというヴェルディーゼに、ユリはむっと唇を噛んだ。
駄々を捏ねても陥落しなさそうなので、ユリは仕方無く立ち上がってヴェルディーゼの膝に乗る。
結婚式を開催することをちゃんと決めたはいいが、ここ数日ヴェルディーゼは忙しくて、結婚式の話どころかユリに構ってすらくれないのだ。
これではいけないと、ユリは無理矢理にでもスキンシップを試みている次第である。
「ふふん」
膝に乗れば、構わざるを得ないだろうとユリは勝ち誇った笑みを浮かべる。
だが、ヴェルディーゼは、ユリの頭にぽんと軽く顎を乗せて仕事を続けた。
確かに構われてはいるかもしれないが、期待していたものとは違うのでユリはむっとする。
「……違うぅ」
「ふふ……膝の上じゃ無視はできないからって、暴れはしないんだね。いい子。その調子で、大人しく待っててね。これでも、急いで仕事を片付けてるから」
「ぶーぶー……構ってくれない主様なんかきらぁい。……はぁ……」
駄々を捏ねてもどうにもならないのはわかっているので、ユリは溜息を吐いて目を逸らした。
結婚式の場所はどうするとか、格好はどうするとか、相談したいことはたくさんあるがヴェルディーゼの仕事は休むようお願いしてもヴェルディーゼにだってどうにもできない。
ヴェルディーゼのそれはただの仕事ではなくて、最高位の神としての役目だから。
それくらい、わかってはいる。
「主様〜……仕事と私、どっちが大事なんですか?」
「ユリ。……あー……結婚式の話、したいもんねぇ。……嫌だけど……本当、嫌だけど……行くかぁ……?」
「えっ? ……行くって、どこに……」
「前の最高位の神。一応、最低限気にかけられてはいるらしくて、いつでも会いに来いとは……言われてるんだけど……行きたくなくて」
歯切れ悪くヴェルディーゼがそう吐露すると、ユリはぱちぱちと目を瞬かせた。
そして、にんまりと笑顔を浮かべると、そっと手のひらでヴェルディーゼの頬を包み込む。
「なんですかそれぇ〜〜? 可愛いですねぇ〜〜〜♡♡♡♡」
「な、何っ。怖いんだけど……」
「んふふ〜……それでぇ? 強いんですか、その人」
「僕よりは弱いよ」
「主様が強すぎるから範囲がデカすぎて何もわからぁん。そんなん主様以外の全てが当てはまるじゃないですか……」
「えー……んー……気付かずに倒したからちゃんと覚えてないんだよね。喧嘩吹っ掛けられて……絡まれて……」
うーん、とヴェルディーゼはなんとか遠い過去の記憶を思い返す。
なんだか妙な雰囲気の中で絡まれて、面倒だったからさっさと倒してしまったのだ。
だから、ほとんどのことは覚えていないが、一つ言えるとすれば――
「まぁ、ユリよりは強いよ。当時、それなりに長引いた記憶はあるし」
「昔のこととはいえ、長引いた……? ……主様が??」
「僕のこと、過信しないでよ。長引くことくらいあるよ……最近、ユリも模擬戦頑張ってるでしょ? 立っていられる時間が長くなってきたよね」
ヴェルディーゼはそう言って息を吐き出すと、背もたれに背中を預けた。
そして、ユリを自分にもたれさせながら独り言を呟く。
「会いに行くか。……何言われるかわかったものじゃないけど……」
「嫌いなんですか?」
「うーん……嫌いというか……苦手? 声大きいし、お節介だし、距離近いし……はぁ、行きたくないなぁ。……でも、結婚式の話し合いも、さっさと始めたいから……うん、行く。ユリ……付いてきてくれる?」
ヴェルディーゼがユリの指と自分の指を絡ませながら、少し甘えるようにして言うと、ユリはぽっと頬を染めた。
ぽす、とヴェルディーゼの胸板に頭を預け、ユリははにかみながら言う。
「えへへ……一緒に来てほしいんですか?」
「うん。一人じゃ嫌だから……異性に興味一切無い人だしね。妙なことにはならないはず。たぶんユリと意気投合もしないだろうし」
「独占欲うれし〜♡ ……その人、男性ってことですよね? ……も、もしかすると、同性には興味がある……? つまり主様が……」
「……妙な関係を邪推しないでね。違うよ……仕事任せたいし、なんか菓子折りとか用意した方が良いかな……ずっと何かしら食べてたし」
「はいはーい! 時間と材料頂けたらお菓子作れますよ! 甘いのもしょっぱいのも、苦いのも酸っぱいのも行けます!」
ヴェルディーゼは、前代の最高位の神に仕事をさせようとしている。
ならば、ちゃんと誠意が伝わるようなものがいいだろうと、ユリは笑顔で挙手して自慢げに胸を張った。
「……本当、多才だよね。僕も食べたいから、三人分くらいよろしく」
「ふっふーん。主様のお嫁さんなので、それも当然ですね!」
ドヤ顔でそんなことを言うユリにヴェルディーゼは少し照れてしまいつつ、その場にドサドサとお菓子の材料になりそうなものを出した。




