66話 真実は嘘へと塗り変わる
本物同士のハグたんとマサムネはどうにか合流したものの、今後の方針が定まらないために2人で林中を彷徨い出す。
「じゃあ問題。ウチがおじさんに撃たれた時点でこっちは3人になってたのは確定です。んで、いっぽーそのころハグたんはプルプルしてたってことは?」
「倒されちゃったのはクロさんとマリーさんなんですね……」
クイズ形式に凝り始めたマサムネに訊かれ、ハグたんは先に脱落した友達の無念を悟った。
この偽物騒動を冷静沈着に見抜いてくれそうな2人がもういない。
であれば、この頭のネジが何本か外れてそうな故障機器マサムネに冷静沈着に相談するしかなくなる。それもまた無念極まりない。
「つ・ま・り、もしクーちゃんかマリっさんがいたらそいつは1000%偽物確定! だからハグたん、見つけたらドカーンって一発こらしめてやっちゃおうぜい!」
「え!? いやいややれないです!」
マサムネがお気楽な性格なのは今に始まったことではないが、普段イエスマンなハグたんが咄嗟に反対するのは今始まったこと。
「クロさんやマリーさんがたとえ偽物だったとしても、友達に向けて自爆するなんて私には出来ませんって……」
「そうなん? どうせ本物じゃないんだし普通にぶちのめせね?」
「マサムネさん、普通は出来ないと思います」
難色を示して率直に口答えしたハグたん。
2人の意見がぶつかったのは、ハグたんが優しすぎるからか、マサムネの精神が戦闘民族すぎるからか。
マサムネは難しい顔をしながら、ハグたんのための妥協案をひねり出す。
「だったらさ、偽物ハグたん相手なら流石に自爆出来るっしょ?」
「自分に自爆だなんてなおさら無理ですって!」
マサムネの提案のことごとくが殺意高めであるせいで、ハグたんは住む世界の常識の違いに辟易していた。
「なんでそれもダメぇ? ぶっちゃけた話、自分の顔より自分の指の方をよく見るくね?」
「あの、お節介ですけど顔は毎日洗った方がいいですよ」
まだ敵は4人いるというのにこの緊張感の無さ。
ハグたんが自爆を決意せず反論が続いているというのに、マサムネはどういうことか嬉しそうに涙を流し始める。
「ハグたんがヨイコパスすぎて泣けてきたぜい……。けどま、そのピュアピュア感がハグたんが本物のハグたんたる……あ」
「……あ」
突然に、“ウチ”と“ウチ”は、ばったりと鉢合わせた。
そう、そこにいたのはまさしく、マサムネの姿をした何者か。
違いがあるとすれば、相手側は腰に刀を携えているところだろうか。
この場全員が非現実的な光景を目の当たりにし、互いの時間がほんの一瞬止まって、その後それぞれが状況の理解のフェーズへ。
「しまった!? 既に本物同士が合流されてしまったのでごぉっざぁ!?」
「ニセムネは死ねえええええええええええ!!」
戦闘開始のコングは怒声と悲鳴の二重奏で叩き鳴った。
本物のマサムネは殺意全開で助走をし、1ミリの躊躇もなく偽マサムネに飛び蹴りを放ったのだ。
偽物がダメージを受けた衝撃で僅かに気を失い、その隙にマサムネは刀を奪い取る。
「みなさんきいてください! こいつらが偽物のマサムネです! みなさんこいつをたたきましょう! おいボケめがねが! てめぇのせいでウチが偽物になっちまってるんだろザコが! てめぇなんぞテントで暮らしてるザコマサムネじゃねぇかボケが! てめぇが一生ウチのかわりにザコマサムネになれや! 二度とでていけ! 金持ちのウチをねたむな! 人を怒らすな! おいこらまじでなめんじゃねえぞ! てめぇなんか家に竹刀もねぇくせにいきがんな! ばか! あほ! じいちゃんが! ぼけくそじじいのザコすずきが! すずきは海でくらしとけやぼけあほ! ウチは家にすんでるんだわぼけが! なめたけ二度と食えねえ体にしてやるからかくごしろや! ウチなんて格闘技なんだぼけが! 英語なんだぼけが! 白身魚のフライのように白い心をしてる人間なんだぼけが! 許容しろやぼけ! ぼけぼけぼけぼけけ! ぼけぼけあほ! 永遠に無駄ぼけ! ひぎがえるジェノベーゼが!」
「がぎぐげござじずぜぞばびぶべぼっ!!」
危険なキノコでもたらふく食った後のような破壊力抜群の罵倒集と共に、偽物であろうと自分を真似た顔面を雨あられに連打し、次に刀のカムイで跡形もなくなるほどめった刺しにし、とにかく自分自身に対する蹂躙を加速させる。
「いま爺ちゃんが開発している殿堂自動ミサイル『アインへアリル』でてめぇの家を火炎放射器で燃やすからかくごしろや! このにせものにせものにせもの! サバサバ女のにせものが!!」
「マサムネさぁん! もうとっくに倒してますって!」
偽物のHPを0にまで削りきった後も、マサムネは意味もなく暴力を行使したり噛み付いたりの理性がない死体蹴りを浴びせていた。
こんな私刑の餌食となった哀れな相手の正体は、クラン『半真半偽』所属、二つ名は『発足り半蔵』。
変装や諜報活動に長けた忍者のカムイのアーツ【貧相な変装】は、マリーのような高額な装備をしている相手には化けられない欠点があるが、マサムネのようなズボラで貧素な装備をしている相手には顔ですら変身可能だった。
ご覧の通り、本物のマサムネに目をつけられたのが運の尽きだったが。
「ふぃー。ウチの無双奥義・サディスティックミスティックメリケンサックで偽物をとっちめてスッキリだぜぃ!」
偽マサムネが光の粒となると、一転して新しいパンツを履いたばかりの正月の元旦の朝のように爽やかとなっているマサムネ。
技名は即興で考えついただけで、新しいアーツでもなんでもない。
対してハグたんは、マサムネのいうヨイコパスの対極じみた一連の暴行に悶々とした負の感情が湧き上がってきていた。
「マサムネさん……実は自分のこと嫌いだったりするんですか」
「ん? 逆に自分大好きナルシストマンはおじさんだけっしょ」
噛み合わないコミュニケーションの2人。
ところが、この惨ったらしい一部始終を眺めていたのはハグたんだけではなかった。
「おいおいどういうことだこりゃ? マサムネがマサムネをぶっ倒して……ハグたんもいるじゃねえかよ」
噂をすればなのか、一輪のアンスリウムの花を胸に着けた西部劇のガンマンスタイルの男性が、困惑気味な表情でそこにいたのだ。
「もしかして、キッドさん! ひいっ!?」
相手の初手にとった行動には、ハグたんは戦慄してしまう。
あのキッドから、どんな武器やカムイよりも恐怖の対象である銃を向けられたからだ。
何しろ、仲間の偽物ばかり遭遇するこの戦場を疑心暗鬼で彷徨いているのだから、目で見たあらゆるものが信じられなくて当然だ。
「お願いですキッドさん、私達は偽物じゃないです。信じて下さいっ!」
それでもハグたんは友情のために恐怖を振り払ってキッドに呼びかける。
「そうだな……ちょいと確認してぇことがある」
するとキッド、クイズを投げかけるわけでもなく、何かを思いついてクランランクバトル専用のウィンドウを開く。
そこに表示されたのは、3対3。
ただ唯一決して嘘をつかない表記。
マサムネが偽マサムネを撃破したタイミングで変わった人数差だ。
これを確認したキッドは、表情を緩めて銃をホルスターに納めた。
「へっ、このマサムネは本物っぽいな。疑って悪かった、ごめんな」
「なんか勝手に納得してんすけどこのおじさん」
理解しかねているマサムネ達だが、キッドからすれば2人を本物だと決定づける裏付けは取れた。
仮にさっきの出来事で偽マサムネが本物マサムネを倒していたとすれば、今頃2対4になっているはずだとキッドは推理したのだ。
それに対し、知ってか知らずかマサムネはまだ不審げにキッドを見つめている。
「てかウチらはおじさんが本物かの証明が済んでないんすけど。ハグたん、なんかクイズ出して」
「私ぃ!?」
急に出題を振られたハグたん。
マサムネはキッドとはじめましてを交わしてから1時間くらいの仲なので仕方ない。
「ええっと……それでは、私達がサルーンで飲んだ飲み物の名前は答えられますか?」
これも、本物のキッドでなければ答えられない質問だ。
そんなサービス問題を投げかけられたキッドは、つまんだ帽子の縁を上げ、その瞳をハグたんへ真っ直ぐに向けて、答える。
「ママのミルク(牛乳100%)。ハグたんと過ごした思い出、俺っちが忘れるわけねぇだろ?」
「マサムネさんっ、本物のキッドさんですっ!」
自分らしくカッコつけて証明してみせたキッドに、ハグたんは喜色満面となって走って近寄った。
「や、やった! 私達リトルフラワー、3人だけになっちゃいましたけど、全員集合ですね!」
「ようやくサバゲーらしくなってきたぜ……待たせちまったな、嬢ちゃん達」
「イェーイ! こっからウチらが全員一緒にいれば、他の奴らは全員敵でハッキリするっすねぃ!」
本物同士の三人が輪になり、三者三様の喜び方をここに示した。
心はひとつでも、この性格の違いが個性豊かなリトルフラワーの華々しさだろう。
「だがまた偽物に引っかき回されりゃ堪んねぇ。なあ、俺達だけの合言葉を作るなんてどうだい?」
まだランクバトル中なので喜びを切り上げたキッドは、偽物と相対した際の対策法を提案した。
始めこそ翻弄されてばかりだった3人とも、この偽物多発地帯での順応性を見せてきているだろう。
そんな合言葉制度に面白がって真っ先に手を挙げたのは、やはりというかマサムネ。
「ほいほーい! ウチらの合言葉は、『ナマムギナマゴミナマタマゴ』で」
「これだと途中で噛んでナマゴメになりそうだな。悪いが却下にさせてくれ」
「それなら……『らせん階段・カブト虫・廃墟の街・イチジクのタルト・カブト虫・カブト虫・カブト虫・ドロローサへの道(経路がありません)・カブト虫……」
「長すぎだ! 別のにしやがれ!」
「んじゃ『やま』と聞かれたら『かわ』って答えるやつで」
「古すぎだ! こうなりゃハグたんが合言葉を決めてくれ!」
「また私ぃ!?」
ボケキャラのボケに埒が明かないと見たために、蚊帳の外になりつつあったハグたんに振る。
マサムネの二の舞いとならないように長すぎず古すぎない、小さく水々しい脳みそを振り絞って熟考し、やがて誂え向けの言葉が思い浮かぶ。
「『1人はみんなのために』で、どうでしょうか」
そう座右の銘にしている言葉を2人に伝えた。
「よし、確かに覚えたぜ。それでいこう」
「ウチもギャグ無しで覚えたぜい! えーと、1人はみ……むぐぐぐ」
「大声でいうなバカ! いつどっから敵に聞かれてるのかも分かんねぇんだぞ!」
ギャグ無しでもギャグになりがちなマサムネの口を無理やり手で塞いだ。
少しして頭を冷やさせたところで、口呼吸で酸素を取り入れたマサムネが2人に向く。
「とりあえず、これからもしウチが怪しいって思ったらハグたんにも合言葉いわせるから、よろしゅう」
「わわわ、分かりました」
マサムネがそこまでプレッシャーをかけるのは、妥協なき勝利のためなのだと自覚したハグたんは肝に銘じる。
キッドもまた同様の決意だ。
「そいつはマサムネもお互い様だろ。もし合言葉を言えねぇようなら、俺っちがハグたんに代わって速攻で一発ぶち抜く、いいな?」
「ダッハッハ! おじさん本気すぎ〜、こんな人モテね〜(笑)」
「テメェ言ったからな? ギャグ無しだからな? 合言葉忘れましたとかふざけて抜かしても撃つからな?」
「ヘイ、ワカリヤシタ」
この眼差しは冗談ではないと、マサムネはロボットのようになって約束した。
キッドもようやくマサムネの扱い方を心得てきたようだ。
「そうと決まりゃさっさと動こう。マサムネが前、俺っちが後ろでハグたんを挟む。そのまま見晴らし良い場所を見つけて陣取ろうぜ」
「そうするしかない、ですよね」
方針に頷き、3人は林を抜けて遺跡地帯に戻るために征く。
今や敵も3人にまで絞られた。
なので1人ずつ見つけられれば数的優位で良し。向こうも3人合流して攻めかかるようならハグたんの広範囲の自爆で一網打尽にする完封試合のチャンス。
これまでのように偽物に神経をすり減らされるよりかは満足ゆく戦いらしくなれそうだと、クラン・リトルフラワーは戦意を回復させていた。
そんな中、前衛になるべきマサムネは、何故かふと立ち止まる。
「おいどうした、足でもくじいたか?」
「ひとつ質問いい?」
どこか雰囲気が変わった様子で2人に言ったマサムネ。
「合言葉って何だっけ? ぶふぉ!?」
乾いた銃声と同時の悲鳴。
いきなりマサムネの脳天に弾丸が直撃したからだ。
同時に銃口から煙を上がっているキッドに、一番驚いているのがハグたんだった。
「わわあああっ!? キッドさん何を!?」
「約束したはずだぜ、合言葉を言えねぇ奴はギャグ無しで速攻ぶち抜くってな」
キッドが示した有言実行。されど無言で実行する尋常ではない判断力。
1秒未満の出来事にハグたんは感嘆するよりも、むしろ否定的なものを抑えられなくなる。
「だからってぇ! それで本物のマサムネさんだったらどうするんですか!」
「そんときゃそんときだ。謝って仲直りするだけだ、ぜ」
信じられないほどあっけらかんとしているキッド。
そう、その射撃速度は相手への信頼だけでなく、相手からの信頼すら勘定に入れた判断によるものだったのだ。
『友達』を、迷惑をかけ合えっていいと解釈するキッドと迷惑かけられない存在と解釈するハグたんの差が、このやりとりで浮き彫りとなっただろう。
「で? てめぇはマサムネじゃないんだな」
確信をもって突きかける。
対して、撃たれたマサムネは答え合わせとばかりにその口が開かれた。
「……是。私はマサムネにあらず」
表情豊かでちゃらんぽらんな物言いだったのが、一転して無機質で事務的な喋り方と化したマサムネがそこにいた。
「わわ!? マサムネさんがなんか賢そうになっちゃってます?」
「どう考えても偽物だろ……。思った通り、こいつはマサムネじゃねえってことだぜ」
マサムネが自画自賛したパッチリおめめは狐に憑かれたかのように細め、声も一段と大人びているギャップにハグたんとキッドは驚きつつも、見破った相手からの攻撃に警戒を置いたが。
「見事、私の負けです。煮るなり撃つなり自由にキルして構いません」
丁寧にも地べたに正座し、戦意が無いことをアピールしたのだ。
「ほぉ、やけに潔いじゃねえかベイベー」
「キッドさんこれ……言葉じゃいえないですけど、絶対何かありますって」
「分かってら。見え見えの罠にかかるほど俺っちも馬鹿じゃねえ」
あまりにも美味い話であるあまり、キッドは却って裏があるのだろうと胡乱な目つきとなる。
どうせ負けを認めるならば一目散に逃げるなり捨て身で特攻するなりやるだろうと、少なくともキッドは自分ならそうすると当てはめているために疑い続ける。
「なめんなよ、そもそもテメェのカムイの能力が何一つ分かんねえ。だから要求するぜ、とっとと全部ゲロっちまえってな」
「承諾。全ては私の『鏡』のカムイ、アーツ鏡虚姿により、プレイヤーマサムネの姿を我が身に写させた故」
そう相手は自分のカムイや変身能力に至るまでを機械的に白状。
「なるほど鏡かい。てことは、ダメージを反射するアーツなんて辺りを連想したが、それで俺っちの攻撃を誘っているのかい?」
意外にも素直に吐いた情報の数々でも、キッドは素直な対応だけはしないよう努めている。
「愚問。私は貴方の銃に被弾済。ダメージ反射のアーツは未所持と回答」
「おっと、それもそうだな」
言われるがまま自分で一応確かめてみたが、キッドのHPは一切減っていない。
相手のその無駄を省いた短縮した伝え方による情報自体は嘘をついていない証拠だ。
「私自身や鏡のカムイに戦闘能力は皆無。故に降参を申し出たまで。信用頂けましたか」
「そうかいそうかい。そんじゃ、せめてやられ方のリクエストだけは受け付けてやる」
相手の言葉がどこまで本当かも掴めない中、罠だろうと何だろうとあえて男気を見せて相手の次なる言葉を誘う。
「寛大なご対応に感謝します。不肖私、カムイというカムイに目がなく、特に貴方の銃を使うカムイに撃たれてデスされるのならば本望と存じます」
「よぉーし、承ったぜ」
時間稼ぎの可能性もあると駆け引きをこれまでとし、弾丸を込められるだけ込め、マサムネの姿をした相手に銃口を向ける。
「大盤振る舞いだ。お望み通り、テメェを蜂の巣にして……」
「ダメですキッドさん! 変身したにしてはなんかおかしいとは思わないんですか!」
知らず知らずの内にキッドの誤ちを大声で止めたハグたん。
相手の正体や捉えどころの無い言葉などよりも、この状況自体の不審点にとっくに勘づいていたのだ。
「私達が目を離してすぐなのに、いつマサムネさんが偽物と入れ替わるタイミングがあったんですか!」
「お……っぶねえ!? 言われてみりゃマサムネの奴がいねぇ。どこいっちまったんだ!」
ここでキッドもやっと不審な点に気づき、暫定偽マサムネへ向けていた引き金から指を外す。
剛毅果断なキッドと優柔不断なハグたんの性格の差は、今回ばかりはハグたんの方が命運を分けただろう。
嫌な想像をした2人はまず人数差から確認してみたが、変わらず3対3。
人知れずマサムネが暗殺されたわけではなさそうだ。
だからこそ、マサムネの行方に謎が生まれる。
「聞くぜテメェ、マサムネをどこにやった」
「……」
沈黙が返る。
素直に答えてはよほど困るのか、先程まで必ず質問に答えていたにしては、不審というより異様なほどに静寂だ。
かといって、あからさまに何かを秘めている偽マサムネから目を離すわけにもいかないので、キッドに代わってハグたんが周辺をくまなく見回してみると。
「キッドさんキッドさん!」
「今度はどうしたハグたん!」
「あっちからも敵が来てますっ!」
「マジか! こいつら俺達を挟み撃ちしやがるつもりか!」
これには思わずキッドも追加の敵がいる方へと首を向ける。
目の前の敵はハグたんの自爆の間合いなので、自分こそが遠距離から敵を仕留めると奮い立たせた。
「っておいおい、こんな晴れ姿のレディがいるなんざ、ちょっと敵さんが羨ましくなるだろ……」
胸が高鳴りながらも、敵同士で会遇した運命にため息をこぼす。
そこには、純銀のウェディングドレスを纏った出で立ちの見目麗しい成人女性プレイヤーが接近していたからだ。
何があったのか肩や靴には紫の粘液が邪魔そうに纏わりついており、本人もどこか走りづらそうにボリューミーなドレスの裾を持ちながら息をあげている。
それと、相手が何故か変身していないのはこちらが3人揃われているからだとキッドは高速で解釈。
「レディは撃てねぇ、と言いてえが、俺っちはもうレディを撃っちまった」
キルした偽マサムネが女性プレイヤーだった苦い経験を着火剤に変え、敵が誰であろうと迷わず撃つ覚悟を決めてキッドは銃を構えた。
「後戻り出来ねぇなら、徹底的に修羅になってやるとするか!」
「待って待ってウチは敵じゃねーっ! ウチ、ウチ! ウチがマサムネ! 合言葉は『1人はみんなのために』!」
「は、はあぁ!?」
表情を幼くしたその女性プレイヤーのまさかの発言には、キッドでさえ思考も行動も止まったほどの衝撃を受ける。
なにせ相手はマサムネを名乗るだけでなく、リトルフラワー内でしか知らないはずの合言葉を一文字のミスなく当てていたのだから。
「なんでてめぇが合言葉知ってんだよ! どっから盗み聞きしやがった!」
「いやそれハグたんの合言葉システム全否定だし」
「じゃあナニか! マサムネが俺達に黙って変身能力ラーニングしてたってことか!」
「おじさんが空気読めなさすぎてすげぇムカついてくる……」
腕を脱力させてげんなりする仕草には、初対面の敵だというのに見れば見るほどマサムネらしさしか感じられない。
「ええええ、ええっとえっと、あなたがマサムネさんで、こっちが偽物さんだけど変身とはちょっと違ってて……」
キッドの理解が遅れている分、真相を一生懸命理解しようとしているハグたんだが、土壇場でのじれったい事はせっかちなマサムネが最も嫌うこと。
「いいおじさん、そこにいるウチの中身が敵! ウチの体が、そいつの体と入れ替わっちゃってんの分かる!」
「入れ替わり……だ!? こいつらのクランって偽物がいるだけじゃねえのかよ!」
「そうじゃないっぽいからさ! もうウチと入れ替わってる奴に聞けばいいじゃん!」
ウエディングドレスの成人女性プレイヤーの体にされたマサムネも、まだ全容を把握しきれていないために何だか投げやりだ。
「テメェ、偽物よぉ。テメェの能力は変身なのかそうじゃねえのか、どうなんだ!」
状況が混沌としすぎるあまりパニックになっていたキッドだったが、藁にもすがる思いでマサムネの体の敵へと銃口を向き戻して恫喝。
するとその混沌の根源である敵プレイヤーは、無抵抗な正座をやめてマサムネの姿のまま、いや、マサムネの体のまま名乗りへと移行する。
「クラン『半真半偽』所属、
その二つ名は『写られた花嫁』
我が霞のカムイのアーツ【彼我身移私】は写る能力ではなく、目に映る相手に移る能力。以後、降参は致しませんので悪しからず」
「わ、私、あたまがこんがらがってきちゃいましたぁ……」
嘘まみれだった言動に加え、複雑奇怪な真実を開示されればハグたんも思考のキャパオーバーで目を回すしかなかった。




