1020.対処
ひとまず、マナではなく神聖力に頼ってみることにしたリゼだ。自身と絵画の間に黒色に塗りつぶした結界を張ってみた。これで絵画の視界から遮断された状態になるはずだ。すると動けるようになっている。浮いていたヴィズルも地面に落下して動けなかったようなので、相当に危険な絵であることは間違いない。急いで結界をもう一枚展開し、扉を目指して外に出た。
『マイマスター、私はアイスランスをあの絵に放とうとしたところ、いきなり動けなくなりました。無属性魔法によって何とかなりましたが、非常に危険でしたね。人以外にも効果があるようです。つまり、モンスターや精霊にも効果がある可能性がありますよ』
ヴィズルの意見には同意だ。無属性魔法がなければ、ラファティが戻ってくるまで動けなかったことだろう。久々に肝が冷えたリゼだ。東方未開地の平原エリアにおいてインフィニティシールドの結界にヒビが入ったのは驚いたが、何とかなる状況であった。しかし、今回は無属性魔法が使えなかったら詰んでいた場面だ。
(あの絵画って聖遺物だと思いますか? 白いキャンバスに何かを描くと効果が決まるといいますか、そういった感じの……。今回は部屋の防衛と監視的な効果があるのかなと思いましたが……。あと、そもそもとして魔法がきかなさそうでしたので聖遺物としては相当に強力なものですよね。光の神ルーフ様がデイラ聖教国に与えたものである可能性もありますかね……)
疑問に対してヴィズルは肯定してきた。
『あの強力さを考えますと、聖遺物というよりも光の神ルーフがデイラ聖教国に授けた特殊なものである可能性が高いです。デイラ聖教国に対して光の神ルーフがどういった加護を与えているかというのは未知数ですが、ブルガテド帝国の場合はダンジョン投影施設やオートマタ、闘技場を与えておりますよね。もしかしたら神が授けた可能性もありますね。あの絵があれば就寝しているときも安全です。同じようなものがあと数点くらいはあるかもしれませんよ』
危険なものがあるということの収穫とはなったが、この日はレガルナスにすぐに戻ったリゼたちだ。気付いたラファティとすれ違うのも問題である。
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その頃、ラファティはというと教会自治区で皇帝と話していた。一度、逆らう地区を完全に皆殺しにして全てを光属性魔法で破壊し尽くして焦土と化すことでどちらにつくか迷っている地区を揺さぶる案を提案している。
だがその時、部屋への侵入を感知した。ラファティは笑みをこぼす。
「ところで大神官、ケラヴノス帝国という国をご存知ですか? アスラロテ大陸の西側にある国なのですが、大国気取りの困った国でして。よりにもよって殺戮の神モリガンを信仰しておりまして、夜の神ルアを信仰するレガルナスやアレーナ王国などよりも邪悪です」
「ケラヴノス帝国、噂程度は聞いたことがあるといったところでしょうか。エリアル神聖帝国とは国の規模も軍事力も劣る国だと考えております」
「はい、実際のところ、その評価通りです。しかし、諜報機関だけは厄介でして、そのネズミたちが工作を行い国の転覆を狙うのです。この国にもネズミが入り込んでいるのですよ。今のところは情報収集程度でしょうが、内戦をしているということは伝わるでしょうね。ここ最近、私の周りを嗅ぎ回っているようでして、大神官の周りも嗅ぎ回っていた可能性があるということを伝えさせていただきます」
ラファティは皇帝がネズミに気づいているのかどうかというところが気になるのか笑顔を崩さずに目を向けた。
皇帝は苦々しげに首を振る。
「ケラヴノス帝国という国は確か、レガルナス公国、ベーテル連合王国の隣りにある国で、帝都はだいぶ西寄りでしたね。ネドラを支援する可能性はありますが、ケラヴノス帝国は元々レガルナスやベーテルとは敵対しているはずですので、そう簡単に支援は出来ないと考えています。そのネズミは私の周りには来たことがないと思いますね。奪い取った加護で自分が認識していないところに何かがいるということを感知出来ますからね。ネズミについては処刑して見せしめのために送り返すのが良いと思いますがいかがでしょうか?」
「とても良い案かと思います! ただし、それなりの強者であるのでロプタス様の生贄にするという案もありかもしれません。ところで大神官、いえ、皇帝陛下。仮にそのネズミが加護によって強化されているとしたら、皇帝陛下であれば対処可能でしょうか?」
「可能でしょう。どのような敵であれ、我々が対峙すればなんとかなるかと考えておりますので状況次第では共闘としましょう。強力であれば加護を奪い取っておきたいところです」
ラファティは「流石でございます。共闘出来ることを楽しみにしております」と一礼する。それから皇帝とラファティは戦局についての会話を行い、ラファティは城に戻ってきた。そして、すぐに自室へと向かう。中に入ると光の神ルーフを描いた絵画に恭しく一礼を行い部屋を見渡した。
「なるほど……何かを探していた……といったところですか。あの神官から腕輪のことでも聞いたといったところでしょうかね。残念でしたね。セキュリティ上で重要なものですから部屋に置いたりはしませんよ」
ラファティは腕輪について、他のものの手に渡らないように対処済みであるようだ。




