1011.観察
ただし、この禁書庫で気になることはこうして神託の記録を読んでいるのだが、壁際で神官らしき人物がニコニコしているのだ。神託を学んでいるリゼに対して勉強熱心だと喜ばしく思っているのかもしれない。正直なところ、気になってしまって仕方がないので、質問をしてみることにする。
「あの、すみません。こちらの神託以外に教会で管理されている神託というものはあるのでしょうか?」
神官はすぐに近づいてくると首を振ってきた。
「どなたなのかは存じませんが、この禁書庫に立ち入りが許されていてその身なりと雰囲気から察するに貴族のご令嬢だと推察いたしました。こうして学ぶことは実に素晴らしいことですね。神託は国と共同で管理しているので秘密にしていることはなく、そちらにあるものが全てでございます」
メサ帝国は教会とも良好な関係を気づいているということがわかったし、教会のみで管理している神託はないようだ。
「ありがとうございます。神託は啓示石板によるもの、加護を得た者や法王猊下への直接の神託などが主なのでしょうか? かなり昔に火事で記録が焼失したという話をお聞きしたのですが、その昔にはそれなりに神託があったのでしょうか?」
せっかくなので聞いてみるが、神官は相変わらず嬉しそうにしていた。
「はい、まさに! お詳しいですね。まさにそうなのです。神託はそのパターンしかありません。なお、他に芸術の神ミカル様によるコネクトの実装などのように全体への神託もあるにはあるのですが、光の神ルーフ様による神託という意味では先程おっしゃられていた二つのパターンとなりますね。残念ながらご存知のとおりでして神託は火事で焼失しました。特に昔の神託は時の法王猊下が基本的に記録をつくっていたのですが、そちらを複製することは失礼というような考えがございまして、いざという時のための記録のコピーが作られていなかったのも原因ですね。その事件があってから、法王猊下の方で記録は複製し、いくつかの教会にも置いておくようにという話がありました」
リゼはお礼を伝えると神託の記録を丁寧にしまう。
しまうと神官が口を開く。
「ご令嬢、学びはありましたか?」
「あっ、はい。色々と勉強になりました」
神官は壁際に戻っていった。この禁書庫の神託を見守る役なのだろうかと考えるが、魔法やスキルの本を見てみることにする。光の神ルーフを信仰する国であるということもあり、光属性魔法に関するものが大量にあった。逆に強力であるはずの闇属性魔法はあまり数がない。なお、少し時間をかけて調査したが、そこまで有用な聖遺物はなかった。すでに誰かが会得をしたりしたのかもしれない。とはいえ、便利そうな聖遺物は多少はあった。しかし、勝手に会得することは出来ないので禁書庫を後にすると宝物庫も見てみる。流石に歴史のある国ということもあり、宝物は沢山あったが、騎士に使わせていることもあるのか状態としてはあまりよくはない。傷がついたりしている。特に盾などはモンスターとの戦闘で出来たのか一部が凹んだりしているものもあった。騎士に使わせて、騎士が退役したら一度ここに返却してというような感じなのだろうか。聖遺物を無駄にせずに有効活用しているということになるかもしれない。
その後、メサ帝国の帝都に繰り出してみるが、基本的に建物は石材で出来ていた。白い石材が使われているため、陽の光を反射して明るい雰囲気である。道も石が敷き詰められており、ここが砂漠の中だと感じさせるものは遠くの砂嵐以外にはない。見渡すと人々が出歩いており、雰囲気も良い感じだ。この国は砂嵐が国を守る防壁のようになっているので攻められることが少ないからか、安心しきっていた。帝都自体は特に新しいこともなく、見学を終えると騎士の訓練場というところに向かってみる。皇帝に仕えているものたちであるので近衛騎士であろうか。しかし、よく見ていると甲冑に差があるようで、ヴィズルに聞く限り、近衛騎士と教会の騎士が共同で訓練をしていた。なお、教会の騎士は聖騎士とは呼ばれていないそうであり、仲も悪くないようである。連携した動きのテストなどをしていた。見ているとエリアル神聖帝国でメサ帝国の皇帝の護衛騎士として来ていた息子がリゼに気づいて急いで近くに寄ってくる。
「ランドル大公様。お越しになるという話は聞いておりましたが、このようなむさくるしいところにおいでになられるとは思っておらず、すぐに気づかずに申し訳ございません」
この息子は非常に皇帝と似ていてとても丁寧な人物だ。
「先日はありがとうございました。私、結構練習場に籠もっていたりするのでパーティー会場よりも馴染むというようなところはありますね……。エリアル神聖帝国との戦闘に向けて訓練中ですか?」
恐らくはエリアル神聖帝国との戦争のために集中的に訓練を行い、教会の騎士との連携を確かめていると予測したので質問をしてみた。




