1005.戦いへ
バレてしまったようなので仕方がない。まだ姿を見られているわけではないが、黒いマントをつけて、聖遺物で姿を変えてさらに機関の仮面を取り出して装着しておいた。そして、ヘルを地面に突き刺して姿を見せる。ラファティはその姿を少しの間、見ていた。
「ようやく姿を見せてくれましたね。黒い装束に不気味な仮面。察するに殺戮の神モリガンを信仰する邪教徒の者でしょうか? 大地の神ルーク、武の神ラグナルなどを信仰する邪教徒たちはそのように外見による自己主張は一般的に過去から遡ってもありえませんでしたからね。しかし、殺戮の神モリガンを信仰しているケラヴノス帝国はこのアスラロテ大陸の西側の国であるにもかかわらず、このように中央南部の国にまでスパイを送り込んでいるとはいやはや面白いですね。しかし、そのわかりやすいマントと仮面は自分たちの正体を自らバラしているようなものでして、どちらかというと低能と言えるかもしれませんね。それで、このレノルド・ハーヴィーはお仲間ですか?」
ラファティは早口に話しながらレノルド・ハーヴィーに向けて剣を向けると剣の先端から光線が勢いよく射出されるが、結界によって弾け散る。機関の仮面を見てもリゼは何も分からなかったが、ラファティはというと殺戮の神モリガンを信仰しているケラヴノス帝国において設立された機関のことを見抜いてきた。なお、話しながらもレノルド・ハーヴィーを殺そうとしており、一切の容赦はないようだ。
「だんまりですか。想像していたよりも早くあなたに出会えて少し興奮しているので出来れば会話をしたいところですがね。背丈からすると女性でしょうか?」
会話を希望しているようであるが、声を発したら情報を与えることになってしまう。よってリゼはヴィズルに音声モードで代わりに話してもらうことにする。
「仲間ではない。ただし、その神官を殺させはしない」
「おや、男性でしたか。随分と……小さいですね。しかしまあ、分かりました。それでは光の神ルーフ様により裁きを与える許可が出たというのにそれを実行しないことに関して合理的な説明をしていただけますか? いえ、殺戮の神モリガンを信仰する邪教徒であるがゆえ、我々の話を理解する頭を持っているとは到底思えませんね。夜の神ルアを信仰する国、アレーナ王国と同盟を結んでいる時点であなたがたケラヴノス帝国は我々の滅ぼすべき国の一つになっています。いずれ全員に裁きを加えるのでまあ、話をしていただかなくても良いでしょう。どうせあなたも裁きを加える過程で死ぬのです。しかし、何のために私を監視していたのかという点は興味がありますよ。この遠く離れた国ですが、ケラヴノス帝国にとっては脅威の一つとして換算しているということですかね。あなたについては教会でネズミのようにコソついていたときから把握しておりましたが、特に隠すことはないので放置しておりました」
煽って挑発のようなことをしてきているようであるが、殺戮の神モリガンを信仰しているわけではないので痛くも痒くもない。会話は続けてヴィズルにお願いした。
「まず、大神官ラファティ。我々からすれば光の神ルーフは何の許可もしていない。光の神ルーフが裁きを許可したと頭の中で思い込んだのみで、声を聞いたりしているわけではないのではないか? 合理的な説明も何もその前提からして間違っている。よって、その質問には回答が不可能だ。そう簡単に頭の中に神託があるはずがない。法王でもないのに神託があるとは思えない」
伝えたよりも挑発的にヴィズルが話してしまったが、今の話を聞いてラファティは初めて明確に顔を歪める。怒りの感情を抱いたようだ。そもそもとして、神託は啓示石板か、頂点に君臨する法王か、神の加護を得ている者に基本的にあるはずである。
『マイマスター、下からの攻撃が来ます』
ヴィズルに言われたので素早く左方向にジャンプするが、ロプタスの幻影のようなものが地面から現れて噛み砕こうとしていた。ヴィズルがいなかったら当たっていたかもしれない。どうやらこのラファティはロプタスの黒い靄で全身が覆われているが、やはりその力の一部を行使できるようだ。ロプタスの巫女と同じような状況なのかもしれない。
なお、審問官と呼ばれていた聖騎士も立ち位置を微妙に変えており、どうしようかと考えるが、ヴィズルより『考えが読めなくなりました。警戒を』と念話がある。まずいかもしれないと思う矢先に衝撃波のようなものが繰り出されてきて防ぐ間もなく壁に叩きつけられてしまった。久々に明確にダメージを受けたことになるし、突然のことで意識が飛びそうになるが、無意識的にキュアを詠唱してなんとか回復する。再度衝撃波が迫ってくると予測したので結界で防ぎきった。
「ほう、この攻撃で終わらせるつもりだったのですがね……」
ラファティは衝撃波を防がれたことに少しだけ驚いているようだ。だが、「邪教徒が我らが光の神ルーフ様について語るなど許されませんね……」とも呟いている。




