1004.疑惑の神官
少し考えてみるリゼだ。
(流石に一定の吸収を行うと、しばらくは吸収できないなどの制限があるのかな? といっても、かなり運の良い環境にいると思う。ロプタスであるアルカディは他のロプタスと違ってすでにダンジョンを出ていて好きに歩き回れるし、モンスターも数え切れないほど東方未開地には沢山いるし……。この調子でいけば、デイラ聖教国やエリアル神聖帝国のロプタスのように強化ができるかもしれない。むしろ超えることももしかしたら……? 流石に人間をいままで生贄にしてきたとしても何万人もの人を用意することは難しいでしょうし)
ロプタス戦に対してアルカディは盾として重要な役割を担ってもらうことになるので、少し希望が見えてきていた。
それからリゼは毎日城に向かって離れたところからラファティの様子を窺うことにする。数日後のことだ。審問官と呼ばれていた聖騎士たちに神官が連れてこられていた。場所は城のラファティが使っている大広間の半分くらいの広さの少し大きめの広間である。
この部屋は光の神ルーフの教会というような形に随分と改造されており、デイラ聖教国から持ってきたのか山の上に男がいて、光の神ルーフと思わしき神が空から降臨する姿に祈りを捧げているという絵や光の神ルーフに人々がひれ伏している絵が飾られていた。
ラファティが口を開く。なお、神官はリゼよりも二歳くらい年上くらいの若い神官だ。後ろ手を縛られていて身動きが取れないようである。
「神官、レノルド・ハーヴィー。あなたはなぜここに連れてこられたか分かりますか?」
「大神官様、わかりません。私は何もしておりません。ただ、散歩をしていたら地区の外縁部にいつの間にか迷い込んでいただけです」
「あの時間は外出禁止令が出ていて神官もやぶさかではありません。それを知らないとは言わせません。それに、あなたは審問官に気づいて何かを燃やしたそうですね」
神官はそこまで言及されると黙り込んだ。もしかするとネドラ側に何かしらの情報を渡そうとしていたのかもしれない。
「光の神ルーフ様、神官レノルド・ハーヴィーは虚偽の報告をいたしました。決して許されません。私に裁きの許可を……おお、ありがとうございます! あぁ、光の神ルーフ様。このような大義をお任せいただけて私は幸せでございます」
ラファティは祈りを捧げたが、興奮気味に神官に向き直った。
「それでは神官レノルド・ハーヴィーには裁きを与えましょう」
「大神官様! そもそもネドラ皇女殿下側も光の神ルーフ様を信仰している者たちがおりますね? なぜ争うのですか? 教典には争いが禁じられております!」
「あなたはそれでも神官ですか。法王猊下、大神官を要する皇帝派に対して武装蜂起をした時点でネドラ一味は光の神ルーフ様の教会から除名され、すでに信者として認めていませんよ。なるほど、まだ若いので神官になりたて、というところでしょうか。そんなことであるから迷いが生じるのです。しかし、それにしても、あなたは何かしらの紙を燃やしていた。その内容が頭の中にある場合、とても危険な人物ということになりますし、やはりきちんと裁きを与える必要があるでしょう」
通常、光の神ルーフを信仰していれば大神官の言うことは絶対だ。しかし、神官は食い下がっている。やはりスパイか、信仰心が薄れているタイプなのかもしれない。流石にこのままだとすぐに殺されそうな雰囲気であるので、(助けておきましょうか……)と考えた。神官レノルド・ハーヴィーが持っている情報にも興味がある。
この場には審問官が一人、ラファティ、扉の付近に聖騎士が四人という状況だ。リゼは神器を取り出して小声で「フォーススリープ」と扉付近にいる聖騎士に向けて魔法を放つ。すると聖騎士の一人が崩れ落ちた。扉付近の三人の聖騎士は動揺するが、審問官とラファティは特に驚いた様子はない。
「やっと行動に出ましたか。コソコソとしたネズミがまた入り込んでいるようですね」
ラファティが声を上げるが、気にせずに扉付近の聖騎士たちを眠らせていく。全員が眠りにつくとラファティが先程のレノルド・ハーヴィーに向けて光の玉を放った。光属性魔法だ。リゼはレノルド・ハーヴィーの周囲に結界を展開して魔法を防ぎきった。まだリゼの姿は見えていないはずだ。守られたレノルド・ハーヴィーはどうすればよいのかとキョロキョロとしている。審問官は細い剣を引き抜き辺りを警戒しており、ラファティについても収納袋から剣を取り出した。
(コソコソとしたネズミというのは私のこと……気づいていたようね。さて、どうしましょうか)
姿を見られるのはまずい。
「私はこうみえて剣も使えるのですよ」
ラファティは審問官と同じように細い鋭い剣を持っているが、何やら呟くと剣が光り輝き始める。
「この剣の光は物体に当たると屈折します。なるほど、そこにいるのですね」
リゼのいる方向にむけて笑顔を向けてきた。なかなかに便利な剣だ。




