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ドラゴンすくらんぶる!  作者: 葉月 都
第拾章 蒼い記憶
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其八十八





そして、次の日。

約束通り寮の前で集まった巴樹と葵の二人は、伏見町の散歩に出かけた。




「じゃあまずは皐月学園にいこっか!」

「分かりました!」




皐月学園は比較的睦月寮から近い場所にある。

コンクリート塀に囲まれた道を歩きながら、巴樹は葵に問いかける。




「葵君、何か思い出したことはあった?あのあと、どうして倒れたのか教えてくれなかったでしょ?」

「そう……でしたね。」




あはは、と苦笑を漏らし、葵は言い淀む。





「で、でも!無理に教えてくれなくていいからね?!言いたくない理由があるなら、強制はしたくないし………」

「………いえ、それほどのことではありませんよ。………思い出したといっても、どうやら前世の記憶みたいなんです。」





それから、葵は自分が見てきた「祇夕」という名の青年の記憶を少しだけ巴樹に話した。

彼が不遇な過去を送ってきたこと、闇夜なる人物によって暗殺を頼まれた先で謎の霧に飲み込まれたこと。


そこまで話したところで、二人は皐月学園に到着した。


だが、巴樹は葵の話にやや呆然としていた。





「あの……大丈夫ですか?」





今日は日曜日なので学校の門は固く閉ざされている。

柵のような形をした門を前に、葵は、放心状態の巴樹をかすかに揺らした。


少しして覚醒した巴樹が、真っ青な顔で葵の肩をつかむ。





「あ、葵君!!もしかして…私と戦う場面も見てたり、する?」

「はい……で、でもとりあえずここを教えてもらえませんか?」

「そうだったね………って、今日日曜日だった!中入れない!」





がーん!という効果音が聞こえてきそうな表情でがっくりとうなだれる巴樹を見て、葵は思わず目を見張る。外から案内してくれるのかな、と思っていた葵は、まさか忘れていたのか…という結論にたどり着き、つい笑ってしまった。





「ごめんね……葵君………」

「全然大丈夫ですよ!……良ければ外側からでも教えていただけませんか?」





葵がにこりと笑ってそういえば、巴樹は申し訳なさそうに照れながら笑い返した。





「えっと、あそこが私ときいくんの教室だよ!で、あっちは体育館。皐月祭の時はナレーターを利人さんがやっててびっくりしたなぁ。」

「皐月祭……とは何ですか?」

「んーと、五月にある文化祭?みたいな。」





ぐるりと学校の周りをまわるように歩きながら、巴樹は校舎を案内する。

思えば巴樹がこの街にやってきたのは、この四月のことだった。たったの四、五か月だったが、随分濃い事件ばかり起こっていた気がする。


苦い笑みを浮かべ、巴樹は案内をつづける。





「その皐月祭でさ、私、操られた友達に拉致されたんだよね。」

「えええ?!だ、大丈夫だったんですか?」

「まあ大丈夫だったんだけれどね、少し不思議なことがあったんだ。」





その時のことを思い出しながら、巴樹は少しだけ首を傾げた。





「気絶してた私を見つけてくれたのは柴さんと利人さんなんだけど、一度探したはずの場所にいたんだって。だから、誰かが私を運んでくれたのかもしれないって二人が言ってたんだ。」

「運んだ………?」





「ほんと誰だったのかなー?」と呟く巴樹を視線の端に収めながら、葵は驚いた表情で固まっていた。

脳裏にひらめく謎の景色が、葵の思考を凍らせていた。







見覚えのない古い小屋。そこにはぼろぼろになった、たくさんの体育用具が置かれている。

視界の中央には、目隠しされ、手足を縛られ行動をふさがれた金髪の少女がいて、それを見ていると心の芯から氷みたいに冷たくなっていくのを感じる。







思わずすっと笑顔が消えるのが分かった。





「……いくん?葵君?」

「……………え?あ、」





気づくと、巴樹の緑色の瞳が心配そうに葵を覗き込んでいた。

あっという間に氷が溶けだして、葵はほんのりと笑う。





「すみません、少し考え事をしていて………」

「………そうなの?なんかやけに怖い顔してたから、私何か変なこと言ったかと思っちゃったー!」

「いえ!巴樹さんはとてもお優しいですよ!皆さんも絶対そう思ってますって。」





ほんの数週間ほどの付き合いだが、葵は巴樹の優しさと果てしない慈愛の心を深く感じていた。

自ら率先して奈濟の手伝いを行い、困っている人には、やや恥ずかしそうにしながらも手を差し伸べる。


こんなにも絵にかいたような親切心を持つ人が本当にいるなんて葵は初めて知った。





「そうかなぁ……でも優しさって色々あるよね。」





巴樹はそう前置きして、ぽつりぽつりと話し出した。





「人によって優しさの基準って違うかもしれないよ。例えば、人見知りで喋るのが苦手な人はいきなりぺらぺら喋りかけられたら戸惑うよね。その人は善意だったとしてもさ。でも適度な距離を置いてくれてたらありがたいと思うんだ。そんな感じでさ、もしかしたら私の親切心が逆にうざったかった人もいたかも。」





そう言った巴樹は少し悲しそうに目を伏せる。

葵はただ無言でそれを聞いていた。





「世界にはいろんな優しさがあるよね。でも、話を聞いてくれるだけでも"優しさ"だと思うよ」





「なんか変なこと言っちゃったね」と苦笑いをこぼし、巴樹は言う。

葵はぎゅっと唇を引き締め、少し駆け足気味に少女の背中を追いかけた。


何かを悟ったように仄かな笑みをたたえながら。





「あれ……巴樹ちゃん?」

「わっ、巴樹ちゃんだ!やっほー!!」





その時、前方から、顔立ちのよく似た二人がこちらに走り寄ってきた。

さっぱりとしたショートカットの方は奈月()()()。やや後方から後を追うようにやってきたボブヘアの方は夏樹()()だ。


二人は巴樹の横で戸惑いを浮かべる葵にしばし目をとられていたが、さっと顔を真っ青にさせて巴樹に詰め寄った。





「待って待って巴樹ちゃん!?まさか、ききき、きいのドッペルゲンガー!?」

「あいつを封印したけど寂しくなってそっくりさんを………」

「なななななに言ってるの二人とも!全然違うから!!」





ひくひくと口角を引きつらせる二人に慌てて弁明する巴樹の姿を、少しの間見つめていた葵だったが、こらえきれなくなって思わず笑った。

「あ、葵君っ!?」と非難の視線を向ける巴樹だが、結局つられたように苦笑いを浮かべた。





「あっ、僕は華波葵と言います。よろしくお願いします。」

「ええっ華波って名家じゃんっ!」

「なるほど……あいつはボンボンだったのか…………」




どこか納得したようにほくそ笑む夏樹の横で、奈月はきらきらとした目で葵をまっすぐと見つめる。





「ってやばいよナツ!そろそろ時間!」

「あっそうだった………ごめん二人とも、俺達これから佳穂さんに呼ばれててさ。」

「そうだったんですか!?呼び止めちゃってごめんなさい……」





じゃあねーと同タイミングで手を振って、夏龍精達は去っていった。

二人も手を振り返していたが、葵がふいに巴樹を見上げて言った。




「次はどこに行くんですか?」

「えっとね、白波神社だよ!」




それに巴樹は笑顔で答えた。

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