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ドラゴンすくらんぶる!  作者: 葉月 都
第拾章 蒼い記憶
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其八十七



ごそごそと布団が動き、ゆっくりと葵が目を覚ました。

ずきずきと頭が痛いが、見知った自分の部屋であることに気づき、ほっと息をついた。


そして、少しだけ重い布団が気になり下を見ると、そこにはふわふわの金色のたくさんの癖がついた長い髪の奥にあどけない寝顔を見せる巴樹の姿があった。




「………かわいい。」




ぽつり、と葵が呟く。

が、その瞬間ぼぼぼっと葵の顔が真っ赤になって、うつむいた。



(………僕は、一体何を言っているんだ………っ確かにかわいい……けども………)



うわあああ、と心の中で叫びつつ、葵はしばらくの間悶えていた。

だけど、その巴樹の寝顔にどこか懐かしさを感じて、葵は高鳴る胸を押さえつけるのに必死だった。




「……………くん?」




ふと、葵の耳にかぼそい声が届いた。

驚いてそちらを見れば、半目を開けた巴樹がぼーっとこちらを見つめていた。




「お、起きましたか、巴樹さん。」

「………んふふ……おかえり、きいくん………」




そう声をかけてみるが、どうやら寝ぼけているようで、嬉しそうに笑いながら巴樹は言葉をつづける。




「………早く帰ってきてよぅ……会いたいよ………」




だが、嬉しそうな笑顔から一転悲しさを含んだ声で巴樹は言う。

葵は思わずゆっくりと巴樹の方へと手を伸ばす。


が、それを避けるかのように巴樹の顔ががくりと下がる。そしてすうすうと寝息を立て始めた。




「………きい………」




ぽつりとそう呟き、葵は行き場を無くした左手を静かに下す。

そして窓の外を見上げ、複雑そうに灰色の雲を眺めた。





ーーーーー





「お邪魔しました!」

「また後日連絡しますね。」




ぺこりと二人が頭を下げる。

蒼清が「いやいや……」とにこやかに笑って手を小さく振った。


葵は一度睦月寮に戻ることにした。

もちろん、この華波家は葵が元々住んでいた場所であり、我が家なのだが、今から急に戻ってくるといわれても、華波家族だって準備がある。

それに、葵自身が「まだ少しやりたいことがあるんです。」というのだから異論はない。




「また、遊びに来てくだされ。封じの姫様。」

「は、はい………」




巴樹はもう一度ぺこりと頭を下げて、華波家を後にした。

葵の顔は心なしか明るくなっていた。





「じゃあ早く帰ろっか。あんまり遅くなったら奈濟さんが心配しちゃうし。」

「そうですね!」




やわらかい笑顔をお互いに向けながら、二人は駅に向かう。

ホームで少し待っていたら、伏見の方へ行く電車がやってくる。


休日にしては少なめの車内で、見覚えのある二人組を見つけるのはたやすいことだった。




「………巴樹ちゃん?」




いつもより抑えられた低い声。

だけどその声に巴樹は驚いて振り返った。




「り、利人さん!?」




そこにいたのは、人気声優の利人とその幼馴染・柴の二人だった。

巴樹は二人のもとに駆け寄って言った。




「ど、どうしたんですか、お二人とも。」

「ちょっと光ヶ丘まで。」

『知り合いに会ってきたの。』




スマートフォンに文面を打ち、柴が答える。


少し遅れてやってきた葵に二人の言葉は届いていなかったようで、少し考え込んだ後、笑顔で二人に尋ねた。それはもう、穢れの一切ない明るい笑顔で。




「もしかして今日はお二人でデートでしたか?」

「はぁ?!」




思わず出てしまった大きな声に、車内の視線が一点に集まる。

利人はすいません、と頭を下げてから鋭い視線を葵に向けた。





「なーんーでそうなるんだよ!ってかお前誰だよ。めっちゃきいにそっくりだけど。」

「あっ、実はですね…………」





うりうりと頭をドリルしながら利人は巴樹に問いかける。

あまりの痛さに頭を押さえる葵を心配しつつ、巴樹は二人に説明した。柴は巴樹の口の動きでだいたいを読み取ったらしい。





「へえなるほど。理解した。」

『確かにきいくんそっくりだよね。さっきのやつも、にやにや笑って言ってきそう………』




柴は遠い目で車窓の景色を見る。

その会話を不思議そうに見ていた葵の脳裏に、突如光景が現れる。




『無理はするなよ。悪いが俺にはお前の暴走を見守ることしかできないからな。』

『ほんと意地悪いよねきいくんって』




今、目の前にいるあの二人がそう言う声が聞こえる。


これは、巴樹達の言う「きい」の記憶………?

葵は緩く頭を押さえ、くしゃっと髪をかき乱した。




「ところで巴樹さん…この方々はどなたですか?」

「あっそっか……"葵"君だと知り合いじゃないもんね………えっと、こっちが五行龍水龍精の六道利人さんと、気候龍雪龍精の三奈城戸柴さんだよ。」




互いにあいさつを交わしていれば、葵の感じた既視感はますます確かなものになる。

絶対に、この人たちと自分は会ったことがあるはずなのに、なぜか思い出せない。


そんなもどかしさを顔に出さない葵は、やはりどこか大人びていた。




(解らない……大切なことを、僕は忘れているはずなのに……どうして思い出せないんだろう……)




もやもやとする心は時間がたてばたつほど霞がかっていくようで、葵はあることを心に決めた。

きっと笑顔でうなずいてくれる巴樹の顔がやけにはっきり思い浮かんで、葵はきゅっと唇を引き締めた。




ーーーーー




その日の夜。

ご飯の後で、ソファに座ってレナと談笑する巴樹の肩をたたく人影があった。




「どうしたの?葵君。」

「あ、あの、明日用事とかありますか?」




おずおずと聞いてきた葵に、横に座るレナがにやにやと笑いながら茶々を入れる。




「あはは、デート?デートのお誘いー?」

「違いますって!」




なぜか頬を赤くして反論する葵を不思議そうに見ながら、巴樹は笑顔で答えた。




「明日は大丈夫だけど………どうしたの?」




幸い明日は日曜日だ。部活に入っていない巴樹はまさにフリーだ。

慌てて葵は巴樹の方に振り返って、笑顔で言った。




「巴樹さんときいさんとの思い出の場所を回ってみたいんです。もしかしたら思い出すことがあるかもしれないので。」

「あ……!」

「確かにねー、いい案だと思うよ。」




ポンッと手のひらをたたけばレナも少し考えるようなポーズでそう言う。

巴樹は葵に了承の返事を返す。


息をついて笑う葵の目には、どこか力強い決心の色が宿っていた。




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