其八十二
なんか、毎回言っている気がしますが、お久しぶりです。
そして、短いです。すみません。
「でもさぁ。」
ソファで和気藹々と笑顔で話し込む二人(一人と一匹)を横目で見つめながら、ふと、御津葉が口を開いた。
「本当に、あの【葵】って子、【きい】なの?確かに外見そっくりだけど、ただのそっくりさんって可能性だってあるでしょ?」
「………同感。確かに、あの葵って男の子、本当にきいなのか?」
ベランダに腰かけ、文庫本片手に冷斗も同調する。
二人の意見を聞き、奈濟が考え込む素振りを見せた。
確かに、巴樹は葵=きいと仮定して、あの年齢詐称(?)説を話してみせたのだ。違っていれば、結局のところまた暗礁に乗り上げてしまう。
もう夕方もすぎ、学校が終わったレナも加わり、再び思案する睦月寮生達。
すると、突如、神が降臨した。
「……………それなら、きいくんの好きだったもの、食べてもらえばいいんじゃないですか?」
ダイニングテーブルに座り、車座になって座る皆皆を見つめ、首をかしげるその天使姫は、全員が見落としていたことをさらりと告げた。
巴樹はきょとんとして、「だって、そうですよね?」ととぼけてみせた。(彼女はこれが素である)
その神のお導きに、全員の目が輝いた。
"きい(くん)の好きな物って言ったら、あれしかないよね!!"
ーーーーーー
奈濟の一緒にご飯を食べないか、という誘いに、葵と御癒は二つ返事で承諾した。
話を聞けば、帰るところもないというのだから、ついでという名目で泊まっていくことを提案した。
二人は、泊まる件は承諾を渋っていたが、奈濟の押しに負け、こちらも承諾した。
睦月寮の食卓が、久しぶりに大いににぎわった。
「うわぁ!すごく美味しいですね、これ!」
「まあっ、元の人とは全然違うわね!嬉しいわぁ………」
屈託のない、曇り一つない笑顔で奈濟に言うのだから、奈濟がデレデレになるのも無理はない。
無論、寮員達は、顔を赤くする寮長を冷ややかな目で見つめていた。
そして、奈濟が「全然」を強調したところは、全員が黙秘した。
今日の晩御飯は、王道肉じゃが先生だった。
ただ。
葵の肉じゃがと他の寮員達の肉じゃがには、決定的な差があった。
それは。
「でも…………少し辛さが足りないかなぁ、って僕は思います。」
"いやそれあなただけだから!"
巴樹達全員のツッコミを受けるが、もちろん鉄壁を持つ葵。かすりもせずに笑顔を向ける。
この時、全員が悟った。
このきいは、天然すぎる天使だ!と。
あの、ドSで毒舌な悪魔は今や存在しないのだ、と。
ーーーーー
とにかく、これで葵=きい説が通ったことが証明された。
やはり、辛い物が好き、ということはつながっていたらしい。
「……葵くん。」
「はい?」
晩御飯がすみ、ひと時の団らんの時。
ソファでテレビを見ていた葵の元に、睦月寮旧メンバー(つまり、巴樹以外)が集った。
「どうしましたか?」
あどけない顔で、葵は首をかしげる。
すると、
「年下扱いしてすみませんでした!」
「年下扱いしてごめん!」
「年下扱いして悪かった!」
「何かいろいろごめん。」
「からかったりしてごめんなさい!」
「同等な口答えしてごめん!」
「同等な口答えしちゃって、わがまま言ってごめん!」
七連射の機関銃の弾幕を受けた。
パチパチ、と葵は瞬きをする。
巴樹も御癒もポカーンと唖然とした顔をする。
とにかく、七人はきいに対する無礼(?)を葵に伝えているのだ。
「あ、あの……皆さん………」
「な、奈濟さん…皆さん……」
唖然としすぎて御癒は固まってしまい、葵と巴樹がやっとのことで声を出す。
それは、寮員皆が皆90度の礼をしてきたらそれはそれで怖い。
と、その時。
「『そうそう。ったく、年下に見やがって………』……え?」
葵の口から漏れ出たその言葉に、全員が目を見張った。
自分が意図せず発した言葉に、目を瞬かせて口を押さえる葵。
あの低い声と喋り方には、全員ほとほと覚えがあった。
"きい(くん)だ…………"
ーーーーー
それから、巴樹達は葵について分かっていったことが増えてきた。
まず知っていることは、葵が幻術使い【華波家】の長男であること。
彼は12歳だということ。
そして、後あと分かってきたことが、葵は現在記憶喪失だということ。
御癒も、巴樹達のことは分からないよう。
自分の名前と御癒のこと、龍精のこと、そして、自分の家のこと。
それだけしか分からないようだった。
ちなみに、記憶喪失、というのは、巴樹達のことを覚えていない、という意味の記憶喪失である。
陵にも、もちろんこの件は話したが、「しばらく置いといてあげて♪」と言われた。(佳穂談議)
黒の御子の脅威が去り、一安心した最中の、この葵事件。
彼は、本当にきいなのか。
きいならば、なぜ小さくなったのか。
再び、龍精達を悩ます事件が巻き起こった。
ガシャンッ……………!




