其八十 巴樹目線
八十話突破!
そして、新章突入じゃあ!皆のものかかれぇい!(ふざけてすみません。)
朝、目が覚めると、私の目に見慣れた天井が映った。
ぼんやりとした光景は、徐々に冴えてはっきりとしてきた。
「あ、れ…………?ここ……………」
ぱちぱちと瞼を瞬かせ、私は頭の中を整理する。
なんで………私は部屋にいるんだろう…………
あの時。
祇夕さんときいくん、ふたりを封じ込めた後の記憶が私の中からすっぽりと抜け落ちている。きっと、気絶しちゃったのかも。
体がいつもより重い。
頭が動かない。
六歳ぐらいの時に、何か激しい運動をして倒れた日と同じような感覚が私の体を蝕む。
ガンガンと鳴り響く痛みは、指先の感覚を奪っていく。
うぅ…………頭、痛い…………
手を動かそうとするけれど、錘のように動かない。
すると、
「巴樹……ちゃん?」
控えめな声が、ドアの向こうから聞こえてきた。
これは………奈濟さん?
「入るよ………」
ガチャリ、とドアノブの回る音がして、誰かが入ってきたような気配を感じた。
そして、数秒後には私の視界に、睦月寮寮長 崎山奈濟さんの顔が映りこんだ。
「気分は、どうかな?」
「…………ちょっと、体が重いです。」
「そっか。」
控えめな笑顔が奈濟さんの顔に浮かぶ。
「もう九時半過ぎだからお腹空いてない?ご飯持ってきたんだけど…………」
「いえ、あんまりお腹は空いてなくて…………」
グゥ……………
私の言葉を遮るように、お腹が鳴った。
うう…………
恥ずかしい………
顔が赤くなるのが分かる。
すると、奈濟さんの小さな笑い声が耳に届いた。
「ふふふっ…………はい、どうぞ。体、自分で起こせる?」
「…………はい。ありがとうございます。」
深呼吸をして、ベットに手をつき重い体を起こす。
そして、奈濟さんが手渡してくれたおかゆの入ったお茶碗を持つ。
「すみません、なんだかご迷惑をおかけしてるみたいで………………」
「ううん、全然。むしろ、こっちが"ごめんなさい"よ。」
あ…………
いつもの笑顔から一転、奈濟さんの表情が暗くなる。
「佳穂さんも陵様も皆様言っていたわ…………『今回、巴樹ちゃんには無理をさせてしまった。』って。もちろん、身体的にも"精神的"にも。
たぶん、こういう運命だったんだろうけれど、あまりにも残酷すぎるわよね……………。だから、きいが黒の御子だって黙っててた私達だって悪いの。
本当に、ごめんなさい。」
一気に部屋の温度が下がる。
私はお茶碗を布団の上に置くように手で持ちながらつぶやいた。
「……………正直、きいくんが黒の御子だって知って、すっごくびっくりしました。しかも、そのことを皆さんが知っていて、私に隠していたことも驚きました。それと同時にすっごく悲しかったです。
そういう大事なことを、もし私に言ってくれていたら、事前に何か対策とかして……例えば、きいくんの中の祇夕の記憶を封印するとか。だって、まだ執着する前ですし。そういうことをしていれば、こういう事件は防げたんじゃないのかなって。」
奈濟さんの周りの空気が沈んでいくのが伝わってくる。
ごめんなさい、奈濟さん。自分でもひどいこと言ってるのは分かってる、でも。
「ごめんなさい、巴樹ちゃ「でも」…………?」
私は、奈濟さんの言いかけた謝罪の言葉を遮り言った。
「結局は話してくれたじゃないですか……………それに、結果としては無事に封印できたんですよ?もう謝らないでください。別に、私が封印できなかったならどう言われてもさっきの話で終わりましたよ、私でも。でも、封印できたんです。
きいくんは、最後に言ってました。
「自分の役目を果たせ」って。
あの時の私の役目はきいくんごと黒の御子を封印すること。
だけど、今の私の役目は、「きいくんの分も、平和になったこの世界で楽しく暮らす」ことです。ごめんなさいなんて聞き飽きました。
奈濟さん、前みたいに接してください。
一人だけ…………欠けちゃったけど、その分楽しみましょうよ、ね?」
私は、たぶん十六年過ごしてきた中で一番の笑顔を奈濟さんに向けた。
奈濟さんの瞳からは涙がこぼれていた。
いつも雪憂がいつの間にか片づけてくれている部屋に沈黙が落ちる。
「ふふっ………なんだか、巴樹ちゃんの方が年上みたい。」
「いっいえ!ななな、奈濟さんの方が年上ですから!というか、私こそなんか偉そうにぃ…………」
奈濟さんの笑いで、私の頭が解凍される。
あわわわわぁ………………………やっちゃったぁ…………年上の人は敬えって言われてるのに。
ガーンと大岩で殴られたような痛みを受ける。
「全然大丈夫よ。こっちこそ目を覚まさせてもらったわ。」
奈濟さんは自然な動作で立ち上がると、私のお茶碗におかゆをついでくださってからドアへ向かう。
そして、開ける前にこちらを振り返ってから言った。
「巴樹ちゃん、体が動かせるようになったら下に降りておいでよ。皆、巴樹ちゃんと話したいだろうし。」
いつもの笑顔でそう言うと、奈濟さんは階下へと降りていった。
…………………あぁ、あったかいなぁ。
おかゆも、布団も、皆の心もあったかい。
あったかすぎて、蒸されちゃったりして。
ふふっと冗談を思い浮かべながら、私は二杯目のおかゆを口にした。
ーーーーーーー
気分がよくなって、一階に降りた私を待ち受けていたのは、皆の(冷斗君以外の)大歓声?だった。
レナちゃんと理衣ちゃんと御津葉ちゃんはなんかすごい泣きついてきたし、緑さんはいつも通りか「心配したんだよ!」と言ってくれてたし、源人君は「大丈夫ですかっ?」ってすごい形相で迫ってきて、冷斗君は、「…………お疲れ様。」と言ってくれた。
私は、それをなだめるのに(主に女子組)十分ほどかけて、十五分経った今では、前と同じようにたわいない話をするまでに至っている。
「すごかったんだよ!佳穂さんと悠さんとか、陵様や暦さんとか冷さんとかがばばばばばーってクラを倒していっちゃうの!」
「私達なんか、何にもできなくて……………」
「町の人たちを助け出して結界の外に出たら、そのまま入れなくなっちゃったんです………」
ちょっとちょっとぉ。せっかくムードが明るくなってきたのに、降下させないでよ!
「ズーン……」という効果音が付きそうなほど暗く沈む三人。
「大丈夫だよ!仕方ないって。祇夕が仕掛けた呪いの標的は二十七族生の龍精だったんだよ?理衣ちゃんやレナちゃんや御津葉ちゃんがはじき出されるのも無理ないよ。」
「は、」
「はじき出される……………」
あああ、ちょっと言い方が悪かったかも!
なぜかショックを受けている三人に、私は慌て気味に言った。
「な、何もかも終わったんだよ!過去のことを気にしててもどうにもならないって!」
おっ、若干雰囲気が戻った!?
暗かった表情から、今度は心配そうな顔にランクアップして、理衣ちゃんがたどたどしく言葉を紡いだ。
「でも…………私達が対策をしておけば…………巴樹さんは酷い目には合わなかったのでは。」
「それ、奈濟さんとも話したけど。」
私は、三人をぐるりと見渡して、笑った。
「どっちにしろ、私は祇夕と………きいくんと戦わなきゃ駄目だったんだから。」
その言葉に、三人の表情が完璧に変わった。
心配そうな顔から目を見開いて驚く顔に。
あれ?どうしたのかな?
「そ、そうですよね……………変なこと言っちゃってごめんなさい。」
「もー!ごめんなさいは無し!次ごめんなさいって言ったら、全員100円ずつ徴収するからね!」
「や、やめてー、巴樹ちゃん!最近金欠なんですー!」
レナちゃん、それは私も同じだから。
新作のドーナツを買うためにためていたお金がいつの間にか消えていたことを思い出す。
そのとき。
玄関のドアが荒々しく開けられて、一つの人影がなだれ込んできた。




