其七十四
短くてごめんなさい
「きっと、あの軈乃球は……………いわゆる"繭"のようなものです。
いつ孵化するか分からない繭…………それが割れた時、黒の御子は"完全復活"を遂げます。」
空に浮かぶ軈乃球を指し示しながら、巴樹は静かに語る。
「あの闇結界は、普通の黒亜が創り出すものとは違います。
普通の人間…………つまり、龍精ではない人達はくぐることが出来ます。
でも、龍精……………しかも、私達二十七族生は、逆にここへ"呼ばれます"。
そして、入ったら最期、黒の御子を倒すまで、ここから出られません。
いくら佳穂さんや冷さん、陵様の力でも、この闇結界は破れません。いわゆる"鉄壁の最強結界"です。」
そして、四方を囲む、巨大な蔦を指しながら話す。
そこで、佳穂がようやく口を開いた。
「これが、黒の御子が千年前にかけた【呪い】?」
「はい。【呪縛霊魂】という、いくら術をかけても呪いから逃れられないという、禁忌に値する呪術です。」
そう言う巴樹も、先ほどとはうって変わって、縛られたようにその場から動かない。
走って、疲れていはずの体は、もう落ち着いていた。
「じゃあ……………私達はどうすれば?」
「どうしようもできません…………………できないんです…………………手の、打ちようがないんです………………………」
絶望しきった巴樹の言葉は、佳穂の最後の望みを完璧に打ち砕いた。
「そ、か………………………」
十字路に、無言の静かな雰囲気が流れる。
「じゃ、あ…………………ここから出られないし、打つ手もないのね。」
「はい…………」
今にも泣きそうな巴樹の表情。
刹那
まさにその時だった。
地鳴りのような大きな音が、辺りの地面を揺るがす。
突然の揺れに、巴樹と佳穂は驚いて周りにあった電柱や壁に掴まる。
突如、巴樹の高い声が路地に響いた。
「か、佳穂さん!!上っ!!」
切羽詰まった響きに、佳穂は反射的に上を見る。
そこには、勾玉二つが組み合わさった形"のはずの"軈乃球があった。
だが、そこには軈乃球は無かった。
しかし、そこにはぐるぐると黒い渦を巻く球体が浮かんでいた。
「「?!」」
そして、その渦は少しずつ拡大してゆき、最終的には家一軒がすっぽり入るほどの大きさにまで膨らんでいった。
二人はそれを見て、大急ぎで飛行上昇し、軈乃球もどきの近くまで飛んできた。
「な、なにが起こってるの?」
「か、佳穂さん、離れてください………………………」
ぼそりとつぶやき、巴樹は風華を構える。
それを見て、佳穂も持っていた光輝に矢を番える。
その瞬間
クラがはじけるかのように軈乃球がはじけ、黒い霧が辺りを覆い尽くす。
もちろん、その爆発に最短距離でぶつかった二人は、一瞬で視界を奪われる。
「きゃああ!!」
「っっっ!!!」
巴樹の悲鳴が、黒い疾風に掻き消える。
『ふん…………………弱いな。』
突然、その疾風を切り裂くように、低い低い声が響き渡った。
まるで刃物のように、その言葉が風を消し去る。
『敵にもならぬ…………』
瞼を開いた二人の瞳に映ったのは、見覚えのある姿だった。
『"この"体も……………まだまだ強化しがいがある。』
黒い髪に整った顔立ち………きいだった。
だが、決定的に違った。
"彼"であって、【彼】でなかった。
黒い、腰下まである長い髪、平安時代のような紺色の袴、ギラリと獰猛に光る赤い瞳。
そして、真っ黒な刀剣の大太刀。
「く、『黒の御子』、ね…………………………」
『ふん………………貴様は…………この時代の龍か。くだらん余興だ。』
どこまでも見下したような視線と言葉。
だが、佳穂はいつもの冷静な言葉で言い返した。
「そうよ。後、この時代の龍でもあり、あなたの【呪縛】でここに来た、「南」の生まれ変わり。」
『ほう…………………"あれ"に関わる、我の復讐の人物か…………………』
にやりと口角を上げ、黒の御子は言った。
巴樹は、佳穂のその言葉に、静かに目を細めた。




