其七十
『この寮は、龍精として生まれてきた少年少女達が、稀に不憫な境遇にあっている。だから、その子達を保護して、龍精同士でその力を高めるために設立された場所だ。』
陵のその言葉に、五人は気まずそうに顔を見合わせ目線をそらす。
その状況を知ってか知らぬか、陵はそのまま言葉を続ける。
『つまり、ここには龍精の力が多く結集しているわけだ。龍精の力が多ければ多いほど、この寮の守護力は高まる。
そして、その守護力が強ければ強いほどこの子の力を一時的に封じ込めることが出来るということが、過去の文献に載っている。』
『でも、封じ込めるのは封じの姫がやればいいんじゃ………………』
『ああ。でも、まだ、風華の生まれ変わりが現れていないんだ。
反応はあるのだが、小さい。
つまり、力を発揮出来ていないんだろう。』
源人の反論に、陵は寂しそうに首を振って答える。
つまり、二人の言っていることを簡単にまとめると、黒の御子を封じ込められるのは封じの姫だけ、だということになる。
『そして……………彼の力が全力で発揮されるのは、封じの姫が彼の目の前に現れた時。その時だけだ。
だから、いつ、彼女が彼に遭遇するのか分からないが、それまで彼の力が発動し君たちに害をなすことはない。この僕が保証する。』
陵はそう言うと、奈濟達五人をぐるりと見まわし、突然頭を下げた。
『この条件にあてはまるのは、この寮しかないんだ。どうか、引き受けてくれないだろうか………………………!』
あまりの光景に、五人はあんぐりと口を開ける。
雅龍将が、自分達に頼み事を言い、しかも頭を下げてまで。
しばらくフリーズしていたが、おずおずと奈濟が口を開く。
『それで…………引き受けたとして……………私たちは具体的に何をすればよいのですか?』
『………………彼の監視と、家族のように、接してあげてほしい。それだけだ。』
『…………………………え?』
その内容に、理衣が素っ頓狂な声をあげる。
『そ、それだけ、ですか?』
『ああ。彼が逃げ出さないようにと………………普段通り、楽しく和気あいあいとした空気でこの子に接してほしいんだ。………………実は、彼は両親から無理矢理引き離されたからね。』
あははは……………と悲しそうな瞳を少年に向けつつ、陵は言った。
その言葉に、奈濟達はアイコンタクトで会話をする。
(どうする?受ける?)
(でも………………黒の御子ですよ?)
(だけどさぁ、俺達と同じような境遇なんだろ?陵様の話を聞いてる限り。)
(うんうん。別に無理難題押し付けられたわけじゃないんだし。)
(僕は別に構わないよ?)
(緑さん、優しい…………)
(じゃあ……受けていい?)
最後の奈濟のまとめに、他四人がコクンと頷く。
それを見て、奈濟はにっこりと笑い、陵の方を向いた。
『分かりました。その子はここで預かります。』
『……………そうか。有難う』
陵は、さも答えを知っていたかのように言うと、そのまま隣に立っていた彼に言った。
『じゃあ、君は今日からここで暮らすんだ。心配ない。とてもいい人達ばかりだよ。』
『………………………嫌々やってるんじゃないの?』
だが、彼の口から発せられたのは冷たい壁。
『俺は黒の御子で、あんたらは龍精。敵だろ。
どうせ、こいつの頼みだから引き受けただけ。そうじゃないのか?』
明らかな嫌悪の言葉。
そして、少年がそのまま言葉を続けようとしたその時。
パチーンッ!!
頬を叩く音が、静まり返っていた寮の中に響き渡る。
『っ?!』
『バッカじゃないの?』
その冷たい声を発したのは奈濟だった。
奈濟は、怒気を含んだ眼差しで少年を見ながら言う。
『黒の御子だろうが、龍精だろうが関係ない。
たまたまここには龍精がたくさん集まってるけど、私は、君が敵だとは思わない。
私は寮長です。
全員を公平に見る立場です。
楽しいことがあれば皆で喜びます。
悲しいことがあれば一緒に泣きます。
悩み事があれば聞いてあげます。
いけないことをしたときはちゃんと叱ります。
それは、ここにいる四人も同じです。
君が入ると決めたのなら、私達は精一杯歓迎します。
きっと私達は、陵様がやってこられなかったとしても、君に入る意思があるのならば歓迎します。
でも、君は【黒の御子だから誰にもかまってもらえない】とか【嫌々やっている】とか、自分の居場所を作りたくなさそうにしています。
だけど、それは裏返しです。
ほんとはかまってほしい、自分の居場所が欲しい、誰かと共にいたい、と思っている自分がいるはずです。
ここにいる皆全員、同じ思いを持っていたからこそここにいるんです。
別に、入りたくないのなら、私達は強要はしません。
ただし、君の居場所を作る機会が失われます。
でも、入りたいと思うなら、居場所は必ず出来ます。
君は、ほんとうはどうしたいんですか?』
怒りのままに発したその言葉に、少年はうっとつまる。
すると、むくれているその子の頭を今度こそポンポンと叩き、陵はにっこりと笑う。
『どうかな?入ってみる気はないかい?』
『………………自分の居場所が、あるんなら。』
『あったりめーだぜっ!』
『これから、仲良くしていきましょうねっ!』
少し照れながらぼそっとつぶやくと、源人と理衣が笑いながら少年の肩に触れる。
すると、その時少年は初めて小さく微笑んだ。
『よし!じゃあ決まりだね!今日から君は、ここの寮員だ!』
決定事項を陵が言うと、少年はぺこりと頭を下げて言った。
『よろしくお願いします。』
『よろしくね……………えーと、君、名前は?』
笑顔で緑が少年に言葉を投げるが、途中であることに気が付いた。
『名前か…………』
『じゃあ、"信重きい"なんてどうかな?』
一瞬、彼の瞳が陰る。
が、すかさず陵が一つの名前を出した。
『しののえ…………きい?』
『ああ。
"信じる"ことを"重ねる"んだ。
そうすれば、楽しいだろ?』
ふふん、と得意げに鼻を鳴らす陵。
横では、『きいって……………女子かよ』とぼやくきい。
だけど、そのつぶやきは、五人の声によって打ち破られた。
『よろしくね!きいくん!』
『よろしくな、きい』
『よろしくっ!きい!』
『よろしくお願いします、きいさん』
『よろしく。きい』
そんな歓迎の言葉に、きいははあっと小さくため息をついて、つづけた。
だが、そのため息は、あきれの感情は含まれてはいなかった。。
『ああ……………………』
この時、彼は睦月寮に、信重きいとして、やってきたのだ。
次回は、やっと元の時へ戻ります!




