其五十五
意味深な終わり方すぎだぁー!
でも、絶対にすっきりさせます!
「ちょ……巴樹ちゃん?大丈夫?」
「巴樹、ちゃん………無理しないでね。」
「うん………」
寮に帰ってくると、やつれた巴樹の顔を見て、奈濟さんとレナが声をかけてくる。
作り笑いを浮かべ、巴樹は自分の部屋へ戻っていく。
(はあ……はあ……はあ……………)
部屋の中へ入ると、そのままベットになだれ込み、巴樹は静かに目を閉じる。
その瞳からは、微かに涙がこぼれていた。
今日は、とにかく巴樹にとって記憶に残る一日となっていた。
今朝からの無視に加え、地味ないじめ。
筆箱を隠されたり、机に落書きされたり。
どれも程度の低いものではあったが、その頻度が問題だった。
何度も先生に言おうとしたが、何かしらで邪魔されてしまう。
最初は女子数人によるものであったが、どんどん人数が増えていき、最終的にはクラスの女子の三分の二に渡っていた。
(なんで、こんな目にあうの……………?)
しかも、そのいじめの主犯格が、なんと鳴海なのである。
巴樹にとって鳴海は、一番最初に話しかけてきてくれた女の子で、信じていた友達だったのが、たった1日でこんなに関係が成り代わってしまった。
巴樹は結局、ご飯も食べず、次の日には調子が悪いからと伝えてもらい、学校を休んでしまった。
ドアの外では、心配そうに奈濟さんが立っていた。
(近頃は、やけに邪気が多い)
一人教室で読書をしているきいは、ふとそう思った。
隣の席はカラッポ。
巴樹がふさぎ込んでしまってから、あっという間に丸二日が立った。
教室の話題と言えば、近づいてきた皐月祭りのことで持ちきりだ。
巴樹のことなんて、まるで、そんな人がいなかったかのようになっている。
きいは気がついていた。
最近、巴樹が女子に何かされていることを。
と言っても、実際にやられていることは分からず、ただ、教室をまとう邪気………憎しみ、嫉みなどの陰の力、呪の力が増えてきている。そして、邪気のむけられている先が巴樹だということからそう考えたのだ。
でも、きいは助けられなかった。
というよりも、『助けることができない』のだ。
自分の拳を睨みつけ、きいは思う。
(……………こんな時に、深くかかわらないほうがいいからな。)
暗く沈む心をなだめ、きいはもうほとんど読み終わった厚い本を横目で見つつ、窓の外の青空を見上げた。
(こーゆー空が、いつまでも続けばいいのに)
空を見るきいの瞳は、あの時のように悲しく細められていた。
と、その時。
「こんにちは。信重さんいますか?」
教室に、キリリとした声が響き渡る。
その声に、突如辺りがざわめきだした。
きいが顔を上げると、教室の戸の近くに、見知った顔ぶれ…………
佳穂、悠、小冬が立っていた。
「……………………。」
佳穂は可愛い後輩がいるためか、笑顔をつくっているが、奥の二名は難しそうなまじめな表情できいの方を見ていた。
その沈黙から何か読み取ったのか、きいがすっと立ち上がり、三人のもとへ歩いていく。
そして、小さな声でつぶやいた。
「……………邪気の件ですか。」
無言でうなずかれ、きいは静かに床へ目をそらす。
「失礼しましたー。」と言う佳穂の声を後ろに聞き、佳穂以外の三人は、昼休みで少し騒がしい廊下を進んでいった。
「さすがだね。やっぱ。」
人が少ない踊り場で、小冬が口を開いた。
その言葉に、きいは小冬を睨みつけて言う。
「バカにしないでください。」
「怖い怖い」
小バカにしたような言葉に、きいがますますイライラを募らせていると、黙っていた悠が言った。
「…………………そっちの対処法はないわけ?」
「あったらどうにかしてます。」
はたから見ればすべてが謎な会話だが、先ほどの二人の話も、二十七族生の者であればだいたいは分かるであろう。
余計なことを省き、聞きたいことだけを聞く。
お互いが信頼し合っているからこそ成せることが出来るのだ。
「それでー、ちょっと話変えるけどさ。」
遅れてやってきた佳穂が、きいの瞳を見つめて言った。
「今度のは、いつ頃くると思う?」
少しだけ考えた後、きいはぼそりと答えた。
「ちょうど、皐月祭りの日ではないかと。それなら、"食いやすい"。」
その言葉に、三人の表情がより一層険しくなる。
しばしの沈黙があった後、佳穂が言葉を発した。
「じゃあさ…………"キミ"は?」
すると、きいの表情が曇り、そっと瞳を閉じて言った。
「約一か月」
その数字がなにを意味しているのかは、彼らの心の中でしか
分からない。




