其四十二
「か、佳穂さんっ!!」
「っ?!まさか!」
地面に倒れている佳穂の額に、利人はそっと手をのせる。
そして、苦々しくつぶやいた。
「気龍が、底を尽きかけてる………。」
「ええっ?!」
事態の急変に気付いた巴樹は、気絶してしまった佳穂の手を握ってつぶやいた。
「佳穂、さぁん………!」
すると、後ろから佐久の声がした。
「おい、何がどうなって………!?」
倒れている佳穂に気が付き、佐久は慌てて駆け寄ってくる。
利人から簡単に事情を聞くと、佐久は伏見町の様子を話してくれた。
「突然町の住人達に、金色の粒子が降りかかってきたんだ。そしたら、龍精の使役する結界が張られててさ。わけ分かんないって顔で、おろおろしてるんだ。
今、龍精達が、結界の強化と避難を促しているところだ。」
軈之球の出現が、今日だったなんてな………と一人でぶつぶつつぶやく佐久に、巴樹は両手を握りしめて言った。
「佐久さんっ!私も援護に向かいます!」
少し驚いていたようだったが、佐久はにやりと笑って巴樹の肩をぽんっと叩く。
「期待してるぞ、封じの姫様。」
「はいっ!」
「封じの姫様」と言われたのに気づかず、巴樹はそのまま走り去っていった。
あとに残された二人は、少しの間の後、利人が口を開いた。
「佐久さん、俺はこいつを睦月寮へ運びます。佐久さんは、援護に回ってください。」
無言でこくんとうなずくと、佐久も、巴樹の去っていった方向へ走っていった。
利人は、静かに符を取り出すと、水色の龍を呼び出して佳穂を運ばせると、空に浮かぶ軈之球を睨みつけて、悔しそうにつぶやいた。
「覚えてろよ………!」
利人のそのつぶやきは、昼の暗闇に吸い込まれていった。
「こちらです!落ち着いて、ゆっくり移動してくださーい!!」
皐月学園の前辺りで、巴樹は誘導をしていた。
まるで、昼頃なのに夜のように真っ暗。
懐中電灯片手に、逃げる人々の足元を照らしてあげる。
街灯の明かりは、今にも消えそうなほど小さい。
軈之球の威力は、どうやら伏見町全体のライフラインにも影響を及ぼしているのだろう。
「それにしても……本当に大きいねぇ、『あれ』。」
隣に立つ、二十七族生の中の色龍、赤龍精の雅赤奈がつぶやく。
赤奈は、ここから少し離れた広島県に住んでいるそうなのだが、通達によりこちらに来たらしい。
「はい………そういえば、赤奈さんは、色龍なんですよね。」
「?そうだけど。」
「色龍は、サポートタイプの技を使うと聞いたんですが。」
それは、小さい頃教わったことだった。
龍精の技には、それぞれ特性がある。
きいや巴樹のように、攻撃を重視するアタックタイプ。
そして、佐久のような、視界を遮ったりするのが、サポートタイプ。
色龍は、五人全員がサポートタイプの技を持っているのだ。
「うん。そーだよ!私はこれ!」
元気よくうなずくと、赤奈は胸元から一本の横笛を取り出す。
両端には、真っ赤な龍の紋章が刻まれている。
「紅に、赤って書いて、紅赤って読むんだよ。ちなみに、私の技は、龍精を回復すると同時に、クラを毒状態にするんだ。攻撃と思われがちだけど、サポートだからね☆」
バチンッと音がしそうなぐらいにウィンクをすると、赤奈は再び誘導を始める。
(すごい……こんなに元気なんて。)
おお…と感心しつつも、巴樹は苦笑いしていた。
しばらく誘導活動をしていると、少し足が不自由そうなおばあさんが、よろよろと歩いていた。
「おばあさん、大丈夫?」
「ん?ああ……大丈夫だよ。」
その琥珀色の瞳をキュッと細めておばあさんが言う。
………その琥珀色の瞳を細めて、言ったのだ。
(琥珀色の瞳ぃ?!)
悪い予感が巴樹の脳裏をよぎり、半信半疑で符を構える。
『あの時』と同じように。
「幻術、解除。」
ピタッとおばあさんの額に、緑色の符を貼り付けると。
「おー、さすがぁ。」
おばあさんはまったくよけずに素直に符を貼られた。
そして、聞こえてきた。
あの語尾を伸ばしたような、能天気な声。
巴樹は、右の口角を持ち上げて苦笑いした。
「陵様………。」
「?!」
煙が上がり、そこには、あの袴姿の陵が、舌をペロッと出して立っていた。
突然のことに、辺りにいた人々+赤奈は唖然としていた。
「えっ、えっ、えええええ?!」
酸欠の金魚みたいに口をパクパクとさせる赤奈。
そして、いまだ苦笑い続ける巴樹がいた。
今日は東日本大震災の日ですね。
この災害でお亡くなりになられた皆様のご冥福を、パソコン上ではございますが、お祈り申し上げます。
そして、このような災害が二度と起こらないように、後世まで伝えていきましょう。
葉月都




