其二十九
「さぁーてと。……いっちょ腕試ししてやっか。」
「もー。二人ともどこ行ってたのよー。」
睦月寮へと帰ると、きいの嫌がっていた、奈濟さんのお説教タイムが始まった。
「すみません……」
「………すみませんでした。」
「きいのは、完璧なる棒読みだよね。」
横で聞いているレナが言う。
「お散歩してたら、佳穂さん達にd………」
「「か、佳穂さんにぃっ!?」
「佳穂さんに出会って」と言いかけて、レナと奈濟さんに思いっきり遮られた。
やはり、佳穂パワーは絶大なのか?
「うわっ、すごいじゃん。」
「佳穂さんとご縁があるなんて、きい、自分の運命を感じなさいよ!」
興奮状態で二人が言う。
が、最後の奈濟さんの一言に、きいの表情が変わる。
(あ、あれ?きいくん、どぉしたんだろう?)
真っ青な顔で思案するきいを心配し、巴樹が声をかける。
「き、きいくん?大丈夫?」
「………ああ。」
だが、すぐにいつもの無表情に戻り、椅子から立ち上がる。
いまだキャアキャア言っている二人を横目で見ながら、きいは二階へ続く階段へと向かう。
その時、一瞬立ち止まったきいが、巴樹に何かを耳打ちする。
「っ………\\\\\」
「一応、約束だし。」
ひらひら~と手を振って、振り返らずに二階へと向かった。
ダイニングでは、真っ赤っ赤でうつむく巴樹が、ぼそぼそとつぶやいた。
「ずるいよぉ………それはぁ……」
テーブルに額をくっつけ、巴樹は目を閉じた。
脳裏には、先ほどのきいの言葉が残っていた。
【好きだよ、巴樹。】
「あー、……はっずー……」
と、部屋のベットへ倒れこみ、悶絶するきいであった。
すると。
コンコン
ふいに、窓ガラスをたたく音が響き渡る。
バッと顔を上げると、そこには、右耳だけが白い、一匹の黒猫が座っていた。
やっと呼吸が落ち着いた巴樹は、ある部屋の前へやってきていた。
コンコン、コンコン
「きいくん?いる?」
階段を上がって右の、外側にある部屋がきいの部屋だ。
ちなみに巴樹の部屋は、きいの部屋の左隣の隣。
間には、理衣の部屋がある。
巴樹が声をかけるが、中から返事はない。
「きいくん?」
ドアノブをひねり、巴樹は部屋へ踏み込む。
が、そこには誰もいなかった。
きょろきょろと部屋中を見回すが、すっかり整頓されている綺麗な部屋しか見えない。
まるで生活感がない。
(どうしたのかなぁ……?)
その時、私は、真ん前の窓が開いていることに気が付いた。
(ま、まさか………)
慌てて窓辺に駆け寄ってみる。
広がる景色を見て、巴樹は思った。
(きいくん………なにがあったの?)
その頃、噂のきいは?
「ふうん…でも、落ち着いてるんじゃない?今までより。」
水色のくせっ毛の下の、鋭い青の瞳が眼鏡の奥で細められる。
向かいに座る黒髪の男の子……きいが、静かにうなずく。
「まあな……でも、やっぱおかしいと思う。…あんただって、気になったから飛ばしてきたんだろ。」
青い瞳の男子が、小さく口角を上げて笑った。
「さすが。」
「あったりめーだ。何年の付き合いだと思ってる。」
きいもにやりと笑い返す。
「ま、そーだな。」
くるりと椅子の向きを変え、彼は目の前の白いパソコンへと向かう。
「やっぱり、『封じの姫』か?原因は。」
「………たぶん。」
下を向いて、きいはぼそぼそとつぶやく。
「確かに……少しだけ、パワーの増幅が確認できる。だけど、」
一度言葉を切り、彼は言った。
「いい感じに抑えられてるじゃん。」
「だけど……」
苦虫をつぶしたような顔で、きいは彼を見る。
「やっぱり、【うずく】。」
その言葉に、彼はため息をついて、小さく笑った。
「頑張って抑えろ、としかいいようがねぇ。俺でも、祓いきれないし。」
「当たり前だ。簡単に祓えたら、とうにやってる。」
「だな。」
そんな会話をしてから、席から立ちあがると、きいは笑って言った。
「ありがとうな、
利人。」
彼…利人は、少し肩を揺らして、きいに言った。
「お前が笑うと、ちょっと寒気が走る。……が、
どういたしまして。」
それっきり利人は、薄い青緑色をしたヘッドホンを着けて、パソコンを始めてしまった。
きいは、そんな利人を横目で見つつ、部屋を出て行った。
(ほんと……ありがとな。)
にゃぁーーーーーっ!
逆に、そっけなくて、飾り気がないところが、きいらしいっ!
と、私は思いますが、皆さんはどーですか?




