其之十三
陵の正体とは?
「もうっ!心配したんだからねっ!」
「そうよっ!全然上から降りてこないしっ。朝っぱらからなにも言わずにクラ退治に行くのは、きいだけにしてよっ!」
「………知ってたのか。」
帰ってきた二人を出迎えたのは、レナと奈濟さんの言論射撃だった。
「ってか、腹減った。」
「くくっ………相変わらずの空気読まない発言で。」
ニヤニヤと、寮員の一人、朝月冷斗が言う。
「一個上なのに、毒舌なければ敬える。」
冷たく冷斗に言い放つと、きいは自分の席に座る。
「あれ?そういえば、陵くんは?」
「ここだよ!」
巴樹がきょろきょろと視線をさまよわせる。
すると、突然バアッと机の下から陵が顔を出す。
「キャアッ?!」
突然のことに、巴樹がひっくり返る。
慌てて奈濟さんが受け止めなければ、床に背中から落ちていたことだろう。
「び、びっくりした………。」
はあはあと息を荒くして、巴樹が言う。
「ご、ごめんなさい、おねぇちゃん。」
机の下からはいだしてきた陵が、自分のせいでこうなっていることに気が付きぺこんと頭を下げる。
「い、いいよ。大丈夫。」
無理矢理笑っているが、いまだ心臓がバクバクとしている。
「すみませーん。お腹すきましたー。」
しらーっとした顔のきいが、のんびりと言う。
「分かった分かった。巴樹ちゃん、一人で立てる?」
「はい。ありがとうございました。」
ゆっくりと立ち上がって、巴樹も自分の席に着く。
陵は、御津葉とレナと一緒に遊んでいる。
「それにしても、なんだかおかしいな。」
首をかしげて巴樹がつぶやく。
「なにが?」
きいが聞き返すと、巴樹が言った。
「昨日までは全然いなかったのに、突然、今日になって大きなクラが何十体も。変だなぁって思って。」
「確かに。」
きいは、二人と遊ぶ陵を見やる。
(こいつがやっぱりトリガーなのか?)
鋭い視線を陵に送っていると、奈濟さんが朝ご飯を運んできてくれた。
「「いただきまーす。」!」
(まあ、いいか。)
全員が朝ごはんを食べ終わって、数分ほどした時。
ピンポーン♪
朝ながら、寮のチャイムが鳴る。
「はぁーい。」
一番近くにいた理衣が走って玄関に向かう。
と、またもや悲鳴が上がった。
「きゃあああああ!」
その瞬間、全員がまったく同じことを思った。
((((((((あー、佳穂さんか。))))))))
「おじゃまします。」
再びの有名人登場に、またまた寮内が緊迫する。
「どうされましたか?」
その空気を破るように奈濟さんが佳穂に聞くと、寮の中をきょろきょろと見回して言った。
「ここに……寮員の方以外の者がいますよね?」
それは、まっすぐに陵のことを示しているようだった。
「………。」
全員がコクンとうなずくと、突然陵が巴樹の後ろからひょっこりと現れた。
「おねぇちゃん、どぉしたの?」
「ん?なんでもないよ?」
よしよしとなでて、巴樹は言った。
「この子です。道で迷子になっていたので、一晩泊めてあげていたんです。」
そう言うと、佳穂が陵をキッとにらむ。
「………やっぱり、ここにいたんですか。」
いつもの凛とした声とは違う低い声に、その場にいる全員が瞬時にこおりつく。
「え?」
その言葉に、御津葉がすっとんきょうな声を出す。
だが、そのつぶやきをスルーして、佳穂は、無表情で陵を睨みつける。
「そろそろその癖をなおしてくださいませんか?」
はあっとため息をつく佳穂。
いまだきょとんと首をかしげる陵。
すると、突然、佳穂が黄色い呪符を取り出して叫んだ。
「幻術解除っ!」
ヒュンッと飛んだその呪符を、陵はサッとよける。
「なにするの?このひとぉ」
目をウルウルと潤せて、ギュっと巴樹の服をつかむ陵。
「かっ、佳穂さんっ!なにを……。」
巴樹のその言葉は、再び飛ばされた呪符の風を切る音によって消された。
「っ!」
ペタリと呪符が陵にはりつく。
その瞬間、黄色の光がほとばしり、陵が光に包まれた。
「はぁー、なんでばれたかなぁ。」
光の中から、陵の声がする。
だけど、さっきまでの子供の声ではなく、低い、大人の男の声。
「ばれますよ。まったく。」
ゆっくりと寮員達が目を開けると、そこには、あの小さな陵はいず、
茶色のひざ下ロングに、琥珀色の瞳。
白と青の袴をはいた、背の高い男性がいた。
「え?え?」
パチパチとまばたきするみんなを見て、佳穂が言った。
「みなさん、本当にご迷惑をおかけしました。……この方は、龍雅会『代表』雅龍将、聖龍士天龍精の、
『幸末陵』様です。」
「・・・・・・・・・。」
睦月寮にひと時の静寂が訪れ、数秒後。
「「「「「「「「「ええええええええええええええええええええええええ?」」」」」」」」」
見事にそろった悲鳴が、伏見町に響き渡った。




