其之十二
次の日の朝。
「ふわぁあ……。」
まだ脳内は半寝状態のきいが起き出してきた。
陵は巴樹と一緒に寝ている。
「あ、おはよ。きい。」
ひらひらと手を振ってくるレナの隣には、寮員の一人、桂川理衣が座っていた。
「おはようございます、きいさん。」
にこりと笑って、理衣は立ち上がる。
「奈濟さん、なにかお手伝いすることはありますか?」
キッチンの方へ向かう理衣を見て、きいはレナの隣に座った。
「巴樹は?」
「まだ起きてないよー。珍しいよねぇ、巴樹ちゃん。」
いつもなら、六時半には起きて、七時にきいが降りてくると必ず巴樹がいるのだが、今日は珍しくいない。
(まさかなぁ……。)
なにか心に引っかかるきいは、二階に再度上がって着替えなおすと、1階に降りてきて奈濟さんに言った。
「奈濟さん、少し外を散歩してきます。」
「え?ええ……朝ご飯までには帰ってきてね……?」
玄関を飛び出すと、きいは全神経を集中させる。
しばらくすると、稲美の方からクラの気配を感じ取った。
(あっちか。)
タンッと飛び上がると、きいは稲美へと駆け出して行った。
その頃の巴樹はというと。
「はあっ、はあっ、はあっ。」
(あとちょっと……あとちょっとで!)
もう一度飛び上がると、巴樹は叫んだ。
「風華風夢!」
バサッと風華で気を仰ぐと、辺りの風がクラ達へとぶつかる。
(いつもなら、一撃、二撃で倒れるのに、何度出しても祓えない!これじゃあきりがないよ)
ウオオオオオオオオオオオオオ………
逆にパワーアップしているような感覚を巴樹は感じる。
今朝、いつも通り六時半頃に起きた巴樹は、大きなクラの気配を感じて、眠ったままの陵を置いて飛び出してきたのだ。
(っていうか、昨日までここまでのクラはいなかったのに!突然どういうこと?数も増えてるし!)
最初の二・三体はなんなく倒せたものの、次々に増えてきて、今では十体ほどいた。
(そろそろ……力がつきそぉ……まずい……)
巴樹は頭に手を当てて、苦しげな表情を見せる。
すると。
「うわぁ。大量発生してるねぇ。」
「ほんとだねぇ。」
つい最近聞いたことのある声が、巴樹の耳に聞こえてくる。
「な、なつちゃん?つきくん?」
振り返ると、そこには、まったく同じ顔の水色の髪をした双子が立っていた。
「巴樹ちゃん、あとは任せてよ。」
「うん。下がってて。」
さっと二人が前に出る。
「ふうん。まあまあ力はあるみたいだね。」
「早く終わらせたいから、使っちゃおうか?」
二人は、ぎゅっとてをつなぐと、叫んだ。
「夏陽!」
「夏月!」
「「双龍夏流!!」」
そう叫ぶと、二人の頭上に水色の龍と青色の龍が絡み合って現れる。
そして、空いている手に持っている短剣を前に突き出すと、二匹の龍がクラの巨体を締め上げていく。
「す、すごい………。」
圧倒的な光景にぱちぱちと目を見開いて、巴樹はつぶやく。
パチンッ
最後の一体が弾けて、二人が巴樹の方を振り返る。
「大丈夫?巴樹ちゃん?」
「大丈夫?」
「あ、はい。ありがとうございました!」
ぺこんとお辞儀をして、巴樹が言う。
「いいっていいって。」
と、奈月が言ったその時。
「巴樹っ!」
横の通りから、突然きいが走り出てきた。
「き、きいくん?」
三人のもとに来たきいが、夏樹と奈月に言った。
「なつき、なにが、あったの。」
まっすぐに二人を見ると、いきなり夏樹が巴樹をギュウッと抱きしめる。
(な、なつちゃんっ?!\\\\\\)
「なにがって、楽しく遊んでただけだよ?」
顔を真っ赤に染める巴樹。すると。
「うそつくな、なつ。」
冷ややかな目で、きいが夏樹を見据える。
そして、巴樹を無理矢理夏樹から引き離すと、逆にきいが抱きしめる。
(ひゃわわわわ?\\\\\)
ますます顔を赤くすると、巴樹はきいに言った。
「きっ、きいくんっ!なつちゃんとつきくんが、クラを祓ってくれたんだよっ!なつちゃんはなにも悪くないよ!」
と、きいがあきれたように言った。
「やっぱり、巴樹勘違いしてた。」
「え?」
すると、夏樹が近づいてきて、巴樹に微笑んだ。
「気付いてなかったんだね、『俺』のこと☆」
「『私』となつと、勘違いしちゃってたんだ。」
その瞬間、巴樹の脳内で、もやもやとしていたものがやっと整理される。
(もっ、もっもしかしてぇっ!)
「なつちゃんじゃなくて、なつ『くん』っ?!それで、つきくんじゃなくて、つき『ちゃん』っ?!」
「せーかい。」
抱きしめていた手を放し、ポンポンと頭をなでるきい。
「似てるしね。」
「髪の長さが違うけど、名前がそっくりだし、『なつき』って男女どっちもあるしね。」
そう笑う奈月に、あっけにとられる巴樹。
「俺も、『なつ』・『つき』って呼んでるし。見分け方はほくろと髪の長さと武器かな。」
にやっと笑って、きいは言った。
「おい巴樹、帰るぞ。奈濟さん達が心配してる。」
そこで巴樹は、近くの時計を見て気付いた。
「もっ、もう七時半?私、一時間もここにいたの?!」
「そーいうこと。」
きいは、二人に手を振ってから、もと来た道を帰っていく。
「ま、待ってよおぉ!」
巴樹は、奈月と夏樹に手を振って後を追いかけていった。
そんな四人を、近くのビルから見る小さな一つの人影があった。
「ふうん。あの二人、おもしろぉい。」
その琥珀色の瞳は、しっかりと巴樹ときいへと向けられていた。
たぶん、陵のことは次回分かると思います!




