其之十一
「んで?こいつどーすんだよ。」
怒り度MAXで、きいが、巴樹の手を握る小さな男の子をにらみつける。
「一応さ、奈濟さんたちに相談してみようよ。」
頭をなでつつ微笑みながら、巴樹が言う。
「おねーちゃん、どっかいくの?」
茶色の髪の毛にくりくりとした琥珀色の瞳をした男の子が、巴樹を見上げて笑う。
「ん~。私の住んでるおうちに行くんだよー?」
「おうち~?」
花開くように笑う巴樹を見て、きいが少し不満そうな顔を見せる。
どうして二人が、知らない男の子と一緒にいるのかというと、実はこういうわけだった。
「きいくん、きいくん!」
稲美から少し離れて、やっときいの足が止まった。
はあ、はあ、と息を弾ませる巴樹に、きいは慌てて言った。
「ご、ごめっ!悪かったな、巴樹。」
そう言うきいの顔は、ほんのりと赤く染まっている。
しばらく背中をさすっていると、落ち着いたらしく巴樹が笑った。
「大丈夫。もう、落ち着いたかr……!」
(え?も、も、もしかして……?!)
「もう落ち着いたから。」と言おうとして巴樹は言葉を途切れさせる。
そして、ぴしっと背筋を伸ばし、何か見つけたらしく、驚いて目を見開いた。
「巴樹?」
きいが首をかしげて声をかけると、巴樹は突然走り出した。
(は?)
意味不明の行動だが、きいもなんとかついていく。
少し走って、きいは止まった巴樹の目線を追う。
すると、そこには一人の男の子がうずくまっていた。
茶色のちぢれっけに青いTシャツを着ていた。下は半ズボン。
「大丈夫?キミ?」
「みちにまよっちゃって……おとぉさんとおかぁさんとはなれちゃったぁ………。」
えんえんと泣き始める男の子の背に、さっききいがしてくれたように手を当てる巴樹。
「そっかぁ。じゃあ、お姉ちゃんが一緒に探してあげる!」
小さな手を引っ張って、巴樹がその子を立ち上がらせる。
「キミ、お名前は?」
「んーと、陵!」
にっこりと笑って、陵が言う。
「陵くんか。私は巴樹。こっちのお兄ちゃんは、きいくんっていうんだよ。」
「わかった!はぎおねえちゃん、きいおにいちゃん、よろしくね!」
無邪気な陵に、巴樹がつられて笑みをこぼす。
(こいつ……なんかムカつく!)
あからさまに不満げなきいを見て、巴樹が言った。
「きいくん、どうしたの?」
「……別に。」
ぷいっとそっぽを向いて、きいは歩き出す。
「おい、陵。お前、どこではぐれたんだ?」
「あっち!」
皐月学園がある方向を、陵が示す。
「よし。詳しく教えろ。」
陵から情報を聞き出しながら、きいは歩き始めた。
(ふふ。なんだか、いいお父さんみたい。)
陵と手をつなぎながら、巴樹はひそかにそう思っていた。
こうして、冒頭に話は戻る。
「ただいまー。」
「お、お帰り~、きい。巴樹ちゃん。」
「ただいまです、レナさん。」
出迎えてくれたレナが、陵を見て息をのむ。
「えっ?ちょっ、二人、こっ、こっ、この子!どうしたの?!えっ、えっ、ええええええええ!?」
「奈濟さぁ~~~ん!!」と叫んで奥に消えたレナを見て、二人は顔を見合わせる。
(うわぁ。)
(誤解されてないよ、ね?)
「それで、交番にもよって、捜索願が出されているか聞いてみたけど、なかった。と。」
奈濟さんに事情を説明をした後、きいの横に座っていた源人が言った。
「もしかして、こいつの親、いなくなっているのに気が付いてないとか?」
「それはない。」
そう即答するきい。
「さすがに、自分の息子がいなくなって、気が付かないバカな親がいるはずないでしょ。」
「す、すんません……。」
きいにいつも以上ににらみつけられ、そそくさと源人は席に座った。
「一応、警察には言ってきたし、引き取りに来るまでここに置いといてあげてもいいですか?」
(((うわぁ、きい(くん)が超絶真面目だ!)))
三人が驚いている間も、真剣に奈濟さんを見るきい。
はあ。とため息をついて、奈濟さんが言った。
「分かったわ。もう暗くなりかけてるしね。」
にこりと笑って、奈濟さんは、レナと御津葉と一緒に遊んでいる陵の元へ行くと、こう言った。
「陵くん、今日はここに泊っていって。」
「わぁい!ありがとう、おねーさん!」
「まぁ!お姉さんだなんてっ!この子いい子ねぇ♡」
きゃっきゃっとはしゃぐ陵と奈濟さん。
そんな光景を見ながら、きいはふと思った。
(陵……、こいつ……本当にただの人間か?)
「ええ?本当なんですか?赤羽さん!」
夜も遅く、外は真っ暗闇。
そんな中、ある場所で、女の子の声が上がった。
「ああ。またどこかに行ってしまったみたいで。」
赤羽が、あきれたようにつぶやく。
その瞬間。
「っ!?」
少女のいたところから、赤い炎が燃え上がる。
「~~~~~っ!ったく……りょお様はああああああああああ!!」
「…………………ちょっと落ち着こう、ね、」
苦笑いする赤羽になだめられるその少女は、どこかの一点をにらみつけていた。




