表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/108

シェリルとおっさん


とある部屋をノックする。


「はーい、誰かな誰かな?」

「シェリルさん、ヨシオですけれど」


扉の向こうでバタバタと音がする。

やがていつもの白衣姿のシェリルさんが顔を出した。


「やーやーおじ様から来てくれるなんて嬉しいよー。でもどしたのかな?かな?」

「お礼をと思いまして、あの薬のおかげで腕も治りました」


腕を軽く差し出して見せる。

それにシェリルさんは笑顔で答えてくれた。


「そっかそっか!まあ立ち話もなんだし入って入って?」

「お邪魔でなければ失礼します」

「どぞどぞー」


機嫌の良さそうなシェリルさんに促され部屋に入る。

すると学校の、理科室で嗅いだことのある様な、何かの薬品の様な匂いに包まれる。

部屋の中には本、フラスコ、標本、何に使うかわからない器具などが所狭しと置かれていた。

シェリルさんの後について、辺りの物に触れない様に慎重に歩く。


「狭くてごめんねー」


そう言うものの、本人は特に気にしていない様子だった。

部屋の奥につくとドサドサと物を移動させるシェリルさん。

しばらくするとアンティークな感じのおしゃれな椅子が顔を出した。


「ここ座っていーよ!」

「ありがとうございます」


腰掛ける。

シェリルさんも向かいの椅子に腰掛けた。

間にあるテーブルにも本や紙束、それにいくつもの酒瓶が置かれており、そこだけはお酒の匂いが勝っていた。


「お酒好きなんですか?」

「それはマリちゃんが置いてったやつだよ」

「あーなるほど」


そりゃこれだけ飲めば二日酔いもするだろうと納得できる量だ。

そしてそれを飲み干す酔っぱらいに絡まれる絵も想像するのは容易い。


「私のせいで、すみません」

「いーのいーの!マリちゃんとは仲良しだしね」


ニコニコ笑顔。

本当に仲がいいんだろうな。

微笑ましい限りだ。


「お詫びと言ってはなんですが、これを」


インベントリから1冊の本を取り出す。

本の名は『賢者の石』。

マリアンヌさんに聞いたところ、シェリルさんのジョブは《鑑定士》の他に《錬金術士》《考古学士》など、なんというからしいジョブを持っていると聞いた。

この本の内容はよくわからないが、さらっと見た感じシェリルさんが好きそうだと思った。

なのであの薬のお礼に渡そうと思っていたのだ。


「なにかな?かな?」

「気に入ってもらえるといいのですが」


本を差し出すと、興味津々と言った面持ちで受け取ってくれる。

すぐ様開くと、そこで動きが止まる。

かと思えば、今度はパラパラと次へ次へページを送っていった。

本を見つめるシェリルさんが目は激しく動く。

これが目まぐるしいというやつだろうか。

やがてまた動きが止まると、小刻みに体を震わせた。

これは、いったいどういう反応なんだろうか。

本の内容がわからないから推測できない。

私は不安から恐る恐る口を開いた。


「あの、なにか気に障ったでしょうか」


するとシェリルさんはおもむろに立ち上がり、テーブルに体をぶつけた。

衝撃で積んであった本や酒瓶が倒れる。


「おじ様、これをどこで?」


いつもの明るさとはどこへやら、やけにトーンが低い。

やばい、もしかして怒ってるのかこれは。


「そ、それはかつての勇者が遺した物で、私が貰ったのですが」

「いつの勇者?」

「そこまではちょっと……」


なぜそんなことを聞くのだろうか。

私にはわからない。

困り顔の私に、シェエルさんは静かに答えた。


「おじ様は賢者の石って知ってる?」


賢者の石。

本のタイトルだが、前述で述べたように詳しくは知らない。

あ、でもそう言えば有名な映画のサブタイトルで見た気がする。

といってもその映画自体は見ていないのでやっぱりどういう物かはわからないが。


「賢者の石って言うのはね、例えば金を作れるとか、不老不死になれるとか、無限の知識を得られるとか。つまり空想上の産物なの」


「この手の書物はごまんとあるし、どれもちょっとこの分野をかじったくらいのおバカさんが妄想を書き殴った様な物だよ」


「でもねおじ様。この本には、賢者の石とはいったいどんな物なのか、そしてどう作るのかが事細かに書いてあるの」


「理解できない事はあるけど、これはたぶん本物」


「驚きだよ。シェリちゃんも錬金術士の端くれだから興味を持ったことはあるけど、これは無理だと思って匙を投げちゃったから」


「でもかつての勇者――仮に先代の6代目勇者が遺した物にせよ、何百年も前に既に完成されていたなんて……」


最後は少し悔しそうに流された言葉。

その余韻が、この本のすごさを物語っていた。


「にゃはは!シェリちゃんも天才とか奇才とか言われてるけど、やっぱり本物は違うね!」


空気を変える様に笑顔を取り戻すシェリルさん。


「ほんとにこれ貰っちゃっていいのかな?かな?」

「え、ええ。シェリルさんが良ければ是非」

「ありがとうおじ様!にゃはは!これから忙しくなるよ!」


どうなることかと思ったが、どうやら喜んで貰えたらしい。


「そう言えば、あの薬ってまだありますか?良ければ譲って頂きたいのですが」


そう。ここにはお礼とお願いに来たのだ。

魔力が切れると相当なピンチになるのは今回の一件で良くわかった。

あの薬の回復量はなかなかの物だったし、是非ストックしておきたかった。


「あー……残念だけどあれ1個しか作れなかったんだ」

「時間が掛かる物なんですか?」

「ううん。材料さえあれば作れるけど、その材料があまり手に入らないから」

「そうなんですか」

「でもおじ様も《錬金術士》だったよね?材料があればおじ様にも作れると思うよ。レシピを教えようか?」

「いいんですか?」

「いいよいいよ!というかこの本に見合う対価なんてシェリちゃんには用意できないし。……体で払おっか?」

「から!?」

「おじ様ならいいよ?シェリちゃんも色々興味あるし」


悪戯に白衣をずらし、艶かしいつやの肌を曝け出すシェリルさん。


「いや、あの、そう言うことはそんな簡単に決めることではないと思われましゅ!」

「ぷっ。やっぱり童貞さんはおもしろいなー」


くそう。

冗談とわかっていても動揺してしまう。

この体が憎い。


「じゃあこれがレシピだよ」


さらさらと近くの紙にペンを走らせ、私にくれる。


「ありがとうございます。……『マンドレイク』『ナースラビットの角』『マジックハーブ』『妖精の瓶詰め』?」

「そうそう。その中では妖精の瓶詰めが入手し辛いかな?かな?」

「これはどういう物なんですか?」

「妖精を瓶に詰めて、中を吸魔草きゅうまそうを煎じた水で満たすの。しばらくすれば妖精から魔力を抽出した水ができるから、それを使うの。ただ妖精ってあんまり人前に出てこないから、物が少ないんだよね。妖精の瓶詰めは色んな物に使えるから便利なんだけどね」

「そんな貴重な物を使ってしまって良かったのでしょうか」

「気にしないでいいよ。シェリちゃんも持ち合わせはなかったんだけど、たまたまゲットした物だから」

「たまたま?」

「そうなの!パーティしたでしょ?あの後に会場の片付けを手伝わされてたんだけどさ、どこから紛れて来たのか、豚みたいにまん丸になった妖精が転がってたの。誰かの奴隷ペットでもなかったみたいだから持ち帰っちゃった」


あっ(察し)

これは間違いないだろ。

何やってんだあの人。


「その妖精がまた平均的な妖精族の魔力量を遥かに超えてて、おかげでかなり強力な薬ができたよー」


一応神様が化けている訳ですからね。


「その瓶詰めってまだありますか?」

「ん?見たい?えっとどこやったけな」


シェリルさんは辺りを探しているのか散らかしているのかよくわからない動きで室内を掻き回す。

少し埃が舞って咳き込む。


「あ!あったあった!これだよこれー。……なんかガリガリになってる。ん?どこかで見たなこの子」


差し出された瓶には水に漬かり、骨と皮だけになったようなエーリンさんの姿があった。

どうやらまん丸の状態から魔力を抜かれてこんな姿になった様だ。


「すみませんシェリルさん。これ私の連れです」

「え。……あー!そう言えば謁見の時に一緒に居た子だ!」

「出してもいいですか?」

「当たり前だよ!早く出して出して!」


瓶を開けて手の平にエーリンさんを取り出す。

ぐったりと動かない。


「死んじゃってる?」


死んでても復活できるみたいですけどね。

もしかしたら死に損ないの状態が逆に面倒なのかもしれない。


「エーリンさん。大丈夫ですか?」


指でエーリンさんをつついてみる。

反応がない。

と思いきや、やがて力無く訴える。


「お……おなか……空いた……」


……このまま瓶に詰めておこうかな。

妖精の瓶詰め。時価。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ