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決意とおっさん


焦っていた。

あのルミさんを見た時の、サクヤさんが斬られた時の、あの感情が毒の様に私を締め付ける。

彼女達の笑顔を見る度に、毒は体中を駆け巡るのだ。

彼女達を愛おしく思うほど、その笑顔が汚されるかと考えるといてもたってもと言うやつだ。

だから進むしかない。


真摯な眼差しを向ける2人。

私は静かに答えた。


「私は、魔王さんに会いに行きます。だから一緒に行けません」


























「それで?」

「え」


だからなんだと言う態度で聞き返してくるルミさん。

あれ?私は何かおかしなことでも言ったかな。


「で、ですから私は魔王さんの所へいくので、ウィンポートには行けないと」

「予定を変更して魔大陸に行くってことでしょ?それがどうしてあたしとサクヤの2人でウィンポートに行く話になるわけ?」

「ついてくるんですか」

「当たり前じゃん。なにバカなこと言ってんの?ウケるんですけど。ねえサクヤ?」

「その通りです!ヨシオ様にどこまでもついて行きます!」


えー……遊園地に行くんじゃないんだから。

そりゃリアル絶叫アトラクションとかありそうだし、血生臭いマスコットとかもいそうだし、年中ホラーナイト状態かもしれないけど。

そんな所に2人を連れて行くなんてできません。


「あのですね、きっと危険がいっぱいです。恐い魔族の方々がたくさんいるんですよ?」

「かもね」

「ですから!お2人にはウィンポートからヤマトまで行ってもらってですね――」

「安全な場所にいろってこと?」

「――そういうことです」


少しの静寂の後、真顔のままのルミさんが近づいてきた。

そのまま私の前まで来ると、弾ける様な音と共に頬に痛みを感じた。

すごい速いビンタだ。痛いです。


「ルミ……さん?」


私の問いかけを無視し、反対側の頬が鳴る。

眼鏡がどこかへ飛んで行ってもその手は休まらなかった。


「あのっ!ルミさん!ちょっと!」

「おっさんは、あたし達のことを仲間と思ってなかったわけ?」

「ぶふっ!いえ!そんなことはっ!ありません!」

「じゃあなんで一緒じゃだめなの。あたし達じゃ力になれないってこと」


ルミさんの手が止まる。

そんなことあるわけない。

傍にいてくれたらどれほど心強いか。

なんて言えるわけもない。


「……はっきり言って足手まといです」


そう答えることにした。

他になんと言って彼女達を突き放せばいいかわからなかった。

でも私は、それ以前に彼女のことがわかっていなかった。


「ふざけないでよ!」


先程までの表情は一変し、怒りを露にするルミさん。


「……そりゃあたしがもっと強ければあんなことにはならなかったかもしれないけど」


「おっさんのこと傷つけて、サクヤのこと傷つけて」


「あんなことさせた奴、1発ぶん殴ってやらなきゃ気が済まないわよ!」


「おっさんが連れってくれなくても、あたしは行くから。例え相手が魔王でも」


「おっさんのことは仲間だと思ってるけど、おっさんの子供じゃないから、あたし」


……参ったな。言葉が出ない。

私は彼女の気持ちをまったく考えていなかった。

ただ私の気持ちだけを優先して、彼女達を縛りつけようとしていた。

私の子供じゃない、か。その通りだ。


「ヨシオ様、私も悔しいです。このままヤマトに帰りたくはありません」


「それに、ヨシオ様とルミさんと離れたくありません!もっとずっと一緒に居たいです!」


「おじい様も話しをすればわかってくれますよ!たぶん!」


私の眼鏡を差し出してくれる。

本当に私は何をやっているんだか。

この子達を見ていると、自分がいかにちっぽけか思い知らされる。

もう少し、正直でいてもいいかもしれない。


「すみません、私は思い上がっていました。許して下さい」


「私も2人と一緒に居たいです。ついてきてくれますか?」


「最初からそう言ってよ、バカ」


「もちろんです!よかった~これでまた旅が続けられますね!」


「そうだね☆」


「じゃあさっそくおじい様を呼んでみますね!」


え、まだ心の準備が――

サクヤさんが詠唱を始め、足元が発光する。時既に遅し。

あーもう気配が変わってるー。

大丈夫かな、怒られないかな。


「あの……」

「ふううううううううううううううう!久方ぶりのサクヤのからだじゃああああああああ!」


うわあ。

サクヤさんをこねくり回す中の人。

間違いなく初代勇者 ヤマト・タケルヒコ様だ。


「やめてくださいおじい様!」


サクヤさん(霊)が現れる。

タケルヒコ様を呼ぶ度にこれではサクヤさんも大変だ。


「冷たいのう、よいではないか少しくらい」

「だめです!それよりお話しがあって呼んだんですからちゃんと聞いて下さい!」

「話しとな?そういえばここは王都ではないか?まだこんな所にいるのか」

「それには事情がありまして、そのお話しをと」

「む、出たなへっぽこ勇者」


さっきから居ましたよ、はい。


「それにそちらの女子おなごは……」


ルミさんを見やるタケルヒコ様。

しまった!この変態、ルミさんまでも毒牙に掛けるつもりか。

ルミさんは隠しておくべきだった。


「は、初めまして。4代目勇者の子孫、ルミエール・ヴェルト・スペアンツァと言います」


珍しくルミさんが緊張している。

やはりどれ程の人物か知っているのかな。


「……そうか」


あれ?対するタケルヒコ様は随分落ち着いた感じだ。

もっと陽気に、というかエロい感じで接するかと思っていた。


「して、儂に話しとは」


いつになく真面目な顔をしている。

私はサクヤさんと顔を見合わせる。

本題に入るには時間が掛かると思っていたのに、拍子抜けだ。


「なんじゃ、話しがあって呼んだのであろ。はよう話せ」

「は、はい。実は――」


私はここまでの経緯を話した。

特にルミさんのこと、アルマゼルさんのこと。


「ふむ、なるほどのお。大体掴めたわ。して、ヤマトには来ず、魔王討伐に向かいたいと」

「まだ戦うかはわかりませんが」

「阿呆、会えば戦いは必然。勇者と魔王はそういうものじゃ。しかし針のう……」

「心当たりが?」

「《操心術そうしんじゅつ》と言ってな、大昔にそういう術を使う者はおったよ。ただ非常に扱いが難しい術でな。今でも使える者がおるとはのう」

「《操心術》……」

「強いぞ、其奴。下手をすれば儂と同等かもしれぬ」


うわー、洒落にならないよそれ。

しかし疑問が残る。


「もしそれだけ強いなら、なぜルミさんを利用したのでしょう?」

「自分の手を汚したくないか、単にそういうことが好きなのやも知れんのう」

「むかつきますね」

「そうじゃの」


タケルヒコ様が黙想する。

腕を組み、口をへの字にするサクヤさんは珍しい愛らしさだ。


「あいわかった。ヤマトには帰らず、魔大陸を目指すが良い」

「え!いいんですか!?」

「何をそんなに驚いておる……」

「いや、その」


もっとこう「いーやーじゃー!サクヤが帰ってこないと儂は死ぬぞー!ぜったいいやじゃー!」とか、子供みたいに駄々をこねると思っていた。


「お主、なにか失礼なことを考えておるな」

「め、滅相もない」

「ほんとにいいの?ええっと、サクヤのおじい様」

「事情が変わった。ただそれだけのことじゃろ」

「なんだ、全然わかる人じゃん☆もっと恐い人かと思ってた」


うまく行き過ぎてものすごく騙されている気分だ。

実際なにか引っ掛かるんですよね。


「ではおじい様、魔大陸に行くにはどうすればいいのでしょうか?」

「そうじゃのう、いくつか方法はあるが……というかお主ら3人で行くつもりか?」


3人というか、元々1人で行くつもりでした。


「阿呆、思い上がりは身を滅ぼすぞ。まずは仲間を集めることからじゃろうな」

「仲間ですか」

「勇者の名を使えばついてくる物好きもおるじゃろ。あとは自分でなんとかせい」


一緒に戦ってくれる仲間か。


「行き先は……そうじゃな、共和国を目指せ」

「共和国ですか」

「そこから魔大陸に渡る手がある。その話しはいずれな」

「わかりました。ありがとうございます」

「うむ、ではまた何かあれば知らせるようにな。それと4代目の」

「あたし?」

「この者と旅を続けるなら、しっかり話しをしろよ」

「……はい」

「ではの」


光と共に、気配が薄れていく。

やがていつものサクヤさんに戻った。


「よかったです~!おじい様を見直しました!」

「そうですね。頼りになる方です」

「ふう~緊張しちゃったよ」

「これで心置きなく旅に出れますね!」


これからが大変だが、ともあれよかった。


「おっさん、これからどうするの」

「そうですね、女王様への報告に旅の準備、それから出発でしょうか」

「エーリンちゃんも呼んでこないといけませんね」

「あ、そうでした。でもマリアンヌさんに聞いたんですが、知らないらしいんですよね」

「いったいどこに行ったのでしょうか」

「城の中にはいると思うのですが、また探してきます」

「あたし達も探してみるよ」


さて、やることは決まった。

彼女達を守り、魔王さんと会う。

シンプルだが、私の想像以上に難しいことだろう。

でもやらなければ。必ず。


そう私は誓った。

おっさんの戦いは始まったばかりだ!

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