共和国とおっさん
「ただいま帰りました」
ポポリ村からの帰り道、特に何事もなくキスカの町まで戻ってこれた。
全力疾走したが、息も上がらなかった。
王都から帝都に向かった時はもっと辛かった覚えがあるが、これも修行の賜物か。
成長を感じられるというのは気持ちがいいものだ。
「おかえりー☆」
「おかえりなさい」
「おう。待っておったぞ」
「! 旦那様!?」
宿屋の食堂で出迎えてくれたのはルミさんとサクヤさん。それにタケルヒコ様だった。
いるとは思わなかったイブキさんに動揺が走る。
「いったいどうされたんですか?」
「ん、ここではの。戻ってすぐで悪いが、お主の部屋で話そう」
またイブキさんの偵察かと思ったが、どうも違うらしい。
察して、挨拶も程々に部屋へ向かった。
タケルヒコ様、イブキさん、ルミさん、サクヤさん、そして私。
皆が部屋に収まる。
「ヨシオさん。私もいます」
「人の心を読まないで下さい」
女神(一応)であるエーリンさんは私の心がなんとなく読める。
あまり役立ったことはないが、自分に関することだけには鋭いんだよな。
と、そんな間にタケルヒコ様が術を展開する。
部屋を覆う力を感じる。
外部からの接触を防ぐ系のやつだろう。
「よし。では始めようかの」
準備ができたとタケルヒコ様が始める。
「敵の居場所がわかった」
「「「!」」」
一同が動揺を見せた。
が、一瞬だ。
皆、いつかその時がくると思っていた。
『敵の居場所がわかった』のだ。
つまりそれに続くのは、こちらから先手を打てると言うこと。
敵に強襲されるよりかは幾分マシだ。
「と言っても恐らく、いやある程度、十中八九」
――確証はないが自信はあるということだろう。
「何か手掛かりがあるんですか?」
「うむ。お主が前に会った男。殺し屋ジュウベイが見つかった」
「ジュウベイさんが……」
「まだ2代目の所在はわからんが、ジュウベイは使徒の1人。奴を絞めれば、足が続くかもしれん。――もしかすると案外近くにいるかものう」
「つまり」
「現地に行って敵情を探る。まずはそこからじゃな。無論儂も行く」
よかった。タケルヒコ様も来るのか。それならかなり安心できる。
私は二つ返事で返した。
「わかりました。場所はどこへ?」
不敵に口角を上げると、タケルヒコ様はこう答えた。
「共和国じゃ」
――エルミア共和国 首都リンリム――
「ここが共和国」
共和国への入国を済ませ。人の賑わう広場までやってきた。
レンガなどの石造りの多い王都や帝都と違い、建物は木や土を固めた作りだ。
道も普通に土だ。
首都にしては文明レベルが他の2国に比べ劣っている気がするが。
ヤシの木っぽいのも生えてるし、まるで南国の様だ。海も近い。
「共和国は人族以外の亜人が住む国ですから、この方が落ち着くんですよ。人族のように利便性を求めていないというところもありますね。でも色んな種族がそれぞれの利点を活かして生活をしていて、見た目以上に生活水準は高いですよ」
「解説どうも」
エーリンさんの解説を聞きながら辺りを見る。
所狭しと並んでいる商店。途切れない往来。確かに活気がある。
犬っぽい人。トカゲっぽい人。耳の長い人。顔ぶれは様々。
この都のどこかにジュウベイさんがいるのか。
タケルヒコ様の言葉を思い出す。
『これは偽の通行証じゃ。これで入国しろ。都に入ったら目立たず、適当に旅行者として振る舞え。あ、お主のマイハウスは使うなよ。普通に宿を借りろ』
『タケルヒコ様も一緒に行くんですよね?』
『儂も行くが、別行動じゃ。都の中にはおるから、何かあればすぐにわかる。それとこのローブを渡しておく。索敵阻害、認識阻害の魔術が施してある。街中では羽織っておれ。それと現地にはもう1人連れて行ってもらうからよろしく頼むの』
『もう1人?』
「いやー、共和国は暑いでゴザルなあ! 鎧が歪まないか心配でゴザルよ!」
黒い鎧を纏った騎士が言う。
実際暑さのせいもあるだろうが、顔が暑苦しい。
そう。もう1人は魔王国、魔王軍八雷神のディアノックさんだった。
本来彼に顔はないのだが、魔族だとばれないようにタケルヒコ様が魔術で顔を作った。
作ったのだが……なんだか濃い。
もう少し涼しい顔にしてくれればよかったのに。
タケルヒコ様の趣味なのだろうか。今度聞いてみよう。
「んーいい空気! やっぱりあたしはこの国好きだな☆」
「ルミさんは来たことあるんですか?」
「おっさんを探しに出るまでは共和国にいたからね。ここは半耳族も過ごしやすいし」
「ということは、ルミさんが目覚めたのもこの国ってことですか」
「いや、目覚めたのは魔大陸のどっかだよ」
「そうなんですか?」
「うん。今思えばこの国に誘導されてたのかも。そう考えると、敵がこの国にいる確率ってのも高い気がする」
確かに、駒を手元に置いておきたいということなら話はわかる。
私はてっきり魔大陸のどこかにいると思っていたのだが。
「わ、わ、なんだかわくわくしてきます~」
「サクヤは初めてだもんね。あたしが案内してあげるよ☆」
「拙者も初めてでゴザルからして、一度都内を見て回るでゴザル。地の利を把握するのは大事でゴザルからなー」
「イブキさんはどうされます?」
「私はサクヤ様とルミ様についていきます」
ふむ。イブキさんも一緒なら心強い。
そしてイブキさんが一緒なら私は行かない方がいいな。
ディアノックさんは1人でも大丈夫だろう。
少し変わった人だが、経験豊富な大人だ。私が心配する必要はない。
「じゃあいったん解散ですね! 私もおいしそうな店――じゃなかった、あやしそうな店なんかを調べて回ります!」
この人は放っておこう。
「おっさんはどうする?」
「そうですね。まず宿を取って、その後は散策しようかと思います」
「じゃあ日暮れにはまたここに集合ってことでいい?」
「そうしましょうか。皆さんお気をつけて」
「じゃあまたあとでね☆」
「行ってきます~」
「姫様にお土産を買わねば」
「おじさん! この名物リンリムまんじゅうを10個!」
それぞれが人込みに紛れるのを見送った。
さて、何をしようか。
まず宿を確保して、ディアノックさんのように都内を見回ろうか。
地図は事前に頭に入れてきたが、実際見といた方がいいだろう。
考えをまとめると、私も歩き出した。
予定していた宿を確保し、店を後にする。
強い日差しに顔をしかめる。
ちょうどお昼と言った頃合いだ。
そして、当然お腹も空いてきた。
アレと一緒にされたくないが、やはり異国の料理に興味はある。
散策しながら、よさそうな店を見つけるとしよう。
一通り街を歩くと、やはりいくつかの発見がある。
食事処に関して言えば、出店が並ぶエリアと、出店ではなく都内中央に店を構える中央エリアと別れていた。
がっつり食事をするならやはり中央エリアだろう。
そう思いぐるっと周って中央エリアに戻ったのはいいが、出店と違ってどんな料理を出すところなのかは、外からではわかりにくい。
メニューが外にある店も多いが、料理名はわかってもどんな料理なのか……。
『エービーフリャー』『サタンアンダギー』『アクアパンツァー』
なんかわかりそうでわからんな。
「ごちそうさーん」「あーうまかった」
そんな声と共に、傍にある店からお客さんが出てくる。
そして店の扉から放たれる油と肉の焼ける匂いが、私の空腹に拍車を掛ける。
当然匂いに惹かれ店に目が行った。
ん? あれは?
お客さんの開けた扉から見える大きな鉄の板。
間違いない。鉄板だ。
とするとここは鉄板焼き屋さんか。
カウンター形式のようだったから、店の人が目の前で調理してくれるタイプの店だろう。
その手の店なら素材にこだわっている筈。うん、悪くない。
よし、ここに決めた。
私は店の扉を開ける。
「いらっしゃい! お好きな席へどうぞ!」
顔が犬のお姉さんが元気に出迎えてくれる。
昼時だし、店内は結構な賑わいだ。
テーブル席はなく大きなカウンターを囲んで席が並んでいる。
店内の様子を窺うように、私は店の奥の端まで行った。
カウンター内では数人が持ち場の鉄板を調理している。
肉、野菜、魚介、麺。どれもおいしそうだ。
などと、他のお客さんの料理を横目に、私は席についた。
「いらっしゃい! なににする?」
席に着くと、私の席を担当する店員さんが水を差しだして声を掛けてくる。
私のオーダーは既に決めてあった。
ここはどんなお店でも通じる魔法の言葉で行くのが吉。
「おすすめをお願いできますか?」
「おー、おすすめね。あるよーおすすめ」
「そうですか、ではそれをお願……い……しま……す」
注文したところで、私はあることに気付いた。
いや、もっと早く気付くべきだったのだろうが、予想だにしていなかったのだ。
思わず少し目を開いた。
まさか、まさかね。
「ジュウ……ベイ……さん」
確かに、何となく聞き覚えのある声だった。
だから顔を見たら、見覚えのあるおっさんだった。
すると間違いなく。十三使徒の1人。殺し屋ジュウベイさんだった。
私に直接宣戦布告してきた人だ。忘れる筈もない。
でもまさか、まさかそんな人が、頭にタオル巻いて鉄板じゅうじゅうしてると思わないじゃない。
「オーダーいただきましたあ! おすすめ入りまーす!」
「「「あいよ! じゅうじゅう行こうぜ!!」」」
ジュウベイさんの言葉に続いて、他の店員さんが全員で返す。
なんだこれ。
なんだこれ。
オーダーの後には「じゅうじゅう行こうぜ!」




