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ピザと宴とおっさん


大きめのボウルに強力粉と薄力粉を振ってあわせ、塩、ドライイーストを入れ軽く混ぜ合わせる。

オリーブオイルとぬるま湯を注ぎ入れ、軽く混ぜる。

水分が馴染んだら、さらに馴染むように手でこねる。

まとまったら生地をボウルに打ち付け、表面を滑らかに。

途中に何度か練り込むといい感じになる。

打った生地を新しいボウルに入れ、濡れ布巾をかけ、適当な物でボウルを塞ぎ約40℃で1時間程発酵させる。

それが終わったら生地を台に敷き、平ぺったくしながらガスを抜く。

ガス抜きが終わったらさらに20分程発酵させる。今度は常温で良い。


そしてできた物がこちらのピザ生地です。


私はインベントリから予め作っておいたピザ生地を取り出す。

まだソフトボールぐらいの丸い生地。

これを手回しで伸ばしていく。

《特級厨士》の効果なのか、単に身体能力が優れているからなのかはわからないが、どんどん伸びる。

後は伸びた生地にお好みの具を乗せて、自家製ピザ窯に放り込んで待てば完成だ。

ピザ窯もインベントリに入れてあるからすぐに出せる。

火力は火魔術で簡単調節。

やはりピザはこの焼いてる時のわくわく感がいい。

焼きあがったピザはインベントリに入れておけば冷めないし。

大人数分作っても大丈夫。


私は村の外れにある適当な空き地で作業に勤しんでいた。

村ではみなさんが協力して宴の準備を進めてくれている。

村の中心から漂ういい匂いに負けない様、ピザ窯をフル稼働させる。


「ヨシオさん! これは何て言う料理ですか!?」

「ピザって言うんですよ」

「ならそのピッツァを1つ!」

「なんで発音良いんですか。宴の席でお出ししますから、もう少し――」

「無理です! こんな匂いを嗅いで待っていられる訳ないじゃないですか!? 後生です! 後生エーリンですから!」


何を言ってるんだこの人は。

しかしあげないといつまでもうるさい。


「1枚だけですよ」

「ひゃっほー! 早く! 早くそのピッツァを私に!」


無駄に発音いいのが腹立つ。

さっさと渡してしまおう。

私は焼けたピザを切り分け、手頃な皿に置いて渡した。


「おおお! これがピザ! いただきまーす!!」


渡したのはサラミやトマトが乗ったオーソドックスなピザ。

ピザの中心に当たる1切れの先を頬張るエーリンさん。


「もっちりとした生地に置かれた塩漬け肉! スライスされたフレッシュ野菜! そしてそれらを包み込むとろっとろのジーズ! う、うますぎる! 犯罪的です! 茶菓子で満たされていた胃に穴が空いたようにガツガツ入っていきます! 止まりません!」


相変わらず小さな体の質量など無視してピザを収めて行く。

1切れではなく1枚渡したが、すぐになくなりそうだ。

まあ、喜んでもらえることに悪い気はしない。


「エーリンさん、これもどうです?」

「先程の肉とは違うしょっぱさ、これは魚介の塩味! シュリンプに()タテにヤバイカ! そこにピマーンのほのかな苦味が加わり最強に見える! 悪魔的です!」


2枚目はシーフードピザ。

これもお気に召したようだ。

これはどうだ?

3枚目のピザを渡す。


「散りばめられた挽き肉に濃い目のソース! そしてこの辛さはピマーンではなくハラペノ! か、辛い! 辛いけど、おいしい! 狂気的です!」


辛めの味付けにした刺激的な1枚。

これも好評だ。

ピザはこの多様性長けているのが良い。


「イブキさんも1ついかがですか?」

「私は結構です」


断られた。

なかなか仲良くさせては貰えないなー。


「ヨシオさん。おかわり」


……。

能天気を体現したような人だなほんとに。























宴が始まる。

村の中心に大きな焚き火。言わばキャンプファイヤーだ。

それらを囲むように皆お酒を飲んだり、ご飯を食べている。

私のピザも好評なようだ。

私はと言えば宴の始まりに嫌々挨拶をさせられ、一通り歓談した後は輪の外れた所で休んでいた。

輪の中にいるより、外から見ている方が落ち着く。


「隣イイカ?」


特徴的な野太い片言。

見なくてもわかるが、一瞥し、少し横にずれた。


「どうぞ」

「スマンナ」


ウザフカさんは座ると、木のジョッキを煽る。

良い飲みっぷりだ。

下戸の私でもなんだかおいしそうに見えるもん。


「コノピザトイウ料理、酒ニアウナ。オマエノ世界ノ料理カ?」

「ええ。人気なんですよ」

「ソウカ。特ニコノ辛イノガイイ。ウマイ」

「それはよかった」

「……コンナ未来ガアルトハ、オモッテイナカッタ」


火を囲む輪を見ながら、ウザフカさんが言った。


「俺ハ善人ジャナイ。魔王軍ニハイッタノハ、魔王様ヘノ忠誠ガアッタカラジャナイ」


「タダ俺ガ、少シデモマトモナ生活ガシタカッタダケダ」


「オマエガ俺ヲ生カシテクレタカラ、ココニイラレタ」


「アリガトウ」


異世界の、異種族の人から向けられた言葉。

言葉は拙いが、なんだかとても温かかった。

でも違う。


「この光景を見られたのは、ウザフカさん自身の力ですよ」


私は決して、村の皆に仲良くしてくれとは言ってない。

ウザフカさんが受け入れられたのは、他でもないウザフカさんの働きによるものだ。


「ここに居たいなら、きっと大丈夫ですよ。貴方なら」

「……ソウカ」


ウザフカさんの態度から、なんとなくわかる。

ここに居たいこと。


「おじちゃーん! もうすぐ踊る時間だよ! メルと踊ってくれる!? くれるよね!?」


駆けてきたメルルちゃん。

元気いっぱいだ。そして踊る時間らしい。

確かに子供の頃したキャンプファイヤーでも踊ってた。

火を囲むと踊りたくなるものなのかな。


「その前に、ウザフカさんから皆さんにお話しがあるみたいですよ」

「ナニ!?」

「そうなの!? じゃああっち行こう! メルが連れてってあげる!」

「オ、オイマテ」

「ウザフカさん、ファイトです」

「勇者、オマエ!」


メルルちゃんに連れられ、輪の中に入っていくウザフカさん。

思わず笑みがこぼれた。


「みんな聞いてー! おじちゃんからお話しがあるってー!」


メルルちゃんの呼び掛けに、その場の全員が注目する。


「おじちゃんどうぞ!」


もう引くに引けない状況。

ウザフカさんが小さく見える。

緊張しているのがひしひしと伝わってきた。

がんばれウザフカさん。


「ア、アー……。俺ハ、コノ村ニ、コノ村ノ……」


「俺ノヨウナヨソ者ヲ、ウケイレテクレタ。仕事ヲクレタ。豚牙族オークノ俺ヲダ」


「本当ニ、オヒトヨシバカリデ、カン、感謝、シテイル」


「モシ、モシヨケレバ、コレカラモコノ村ニ、イサ、イサセテホシイ」


不器用に頭を下げる豚牙族。

答えを待っているのか、顔を上げられずにいる。


誰かが拍手をした。


すると皆がそれに続き、大きな拍手が巻き起こった。


これ以上ない、村の総意だった。


「やったー!! これからもずっと一緒にいようねおじちゃん!」


メルルちゃんがウザフカさんに抱き着き、まるで自分のことのように喜んでいる。


「アア。アア」


片言の返事しかしないウザフカさん。

メルルちゃんと対比すると、冷めている様に見える。

いや、そんなこともないか。

ウザフカさんの目尻に溜まる滴を見て、私はそう思った。


メルルちゃんがウザフカさんの手を取り、踊りだす。

他の人達もそれに続いた。

大勢が火の周りをくるくる回る。

2人はひと際目立つな。アンバランスな感じが。


『ずっと』……か。


「なに黄昏てるんですか?」

「! なんだエーリンさんか」

「なんだとは失礼な! せっかく誘いにきてあげたのに!」

「? 何をですか?」

「ダンスですよダンス! ヨシオさんが隅っこでさみしそー! にしてるから、わざわざピザを置いて駆けつけてあげたんじゃないですか!」

「豚と踊る趣味はありません」

「いいから行きますよ! 同じなんとかなら踊らにゃそんです!」

「貴方と一緒にされたくないのですが、ちょ、ひっぱらないで、私踊ったことありませんし!」

「てきとーですよてきとー! 楽しめばいいんです! ほらワンツーワンツー!」

「こ、こうですか?」

「ぷぷー! ヨシオさん変な動きー! ぷーくすくす!」

「……」

「ほら、手を取ってください。私が動きますから合わせて!」

「……ふふ、わかりました、やってみます」


暖かい炎と満点の星空の下。

下手なダンスは続いた。

能天気に過ごすのも、たまには悪くない。




















「それじゃあ皆さん。お世話になりました」

「本当に馬をお出ししなくてよろしいのですか?」

「ええ、走った方が早いので」

「そうですか。流石勇者様だ」


翌朝、村の人達に別れを告げる。

ウザフカさんは村に残ることになった。

あまりおおっぴらにはできないが、ロッテ様には許可を貰っておこう。

早くこの戦いを終わらせて、平和に暮らせる日がくるといいが。


「勇者様、これ、私が焼いたパンです。よろしければお持ちになって下さい」


ルメールさんからバスケットいっぱいのパンを渡される。

いい匂い。朝に焼いてくれたのか。


「嬉しいです。ありがとうございます」

「是非また来てくださいね。アルル、メルル、勇者様にご挨拶して」

「勇者様! またおいしいごはんごちそうしてください!」

「わかりました。……アルルくんはいないですね」

「あれ? もう、あの子ったら、またどこかに行ったのね。最近1人でどこかに行くことが多くて」

「そうですか、昨日から姿を見ていないので少し心配だったのですが」

「メルルがウザフカさんにべったりだから、きっとやきもちを焼いているんです。これまではいつも一緒でしたから」


ああ。そういうこともあるのか。

この村には同年代の子供は他にいないみたいだし、遊び相手を取られちゃった気分なのかな。

そういう時もあるか。


「マタ、コイ」


ぶっきらぼうな口調。


「死ヌナヨ」


でも十分。気持ちは伝わってくる。


「ウザフカさんもお元気で」


キスカの町へ向かう道に立つ。

キスカの町には転移座標がないので、走って帰る。

頑張れば数時間で着くだろう。

これも修行の一環だ。


「みなさんさよーならー!」


エーリンさんが胸ポケットに収まるのを確認し、最後の会釈をした。

そして走り出す。

またイブキさんに罵られないように全力で。



おっさん、Bダッシュにて帰宅。

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