始まりの場所とおっさん
更新遅くなりました。
読者さんが増えているのが不思議。おっさんブームなのか。
「それじゃあ、行ってきます」
ルミさん、それにサクヤさんに告げる。
「うん。気を付けてね☆」
「イブキさん、ヨシオ様とエーリンちゃんをお願いしますね」
「畏まりましたサクヤ様」
しばしの別れ。挨拶を済ませると、私とエーリンさんはイブキさんの作る陣の中に入る。
発行と共に宙に浮くような感覚と共に景色が変わる。
だいぶ慣れたけど、やはりまだめまいがするな。
転移した先は、ポポリ村の近く。ファスの森。
私がこの世界にきた、勇者の家がある場所。
ここでルメールさんやシルバーバックウルフのウルちゃんと出会ったのだ。
まだ大して時間は経っていないが、懐かしい匂いがする。
「なんだか懐かしいですねヨシオさん」
「そうですね。来たばかりのことを思い出します」
「例えば?」
「エーリンさんをポンコツだとは思っていなかったこととかですよ」
「だ、誰がポンコツですか誰が!?」
「言います? 1から言います?」
「――い、いまは忙しいのでまた今度で」
「仲がよろしいことで」
イブキさんの冷たい視線が突き刺さる。それはなぜか。
決まっている。
イブキさんは、さる方にあらぬ誤解されてしまっている。
それはイブキさんに好きな人がいるということ。
それ自体は間違っていないが、問題はその好きな人に誤解されているということだ。
とどのつまり、タケルヒコ様の気を引こうとしたルミさんの作戦はことごとく失敗に終わった。
『長髪で逞しく和装の似合う年上の殿方が好き』というところまで伝わったが、タケルヒコ様は自分のことだとは塵ほども思わなかった。
魔王国に帰るまで条件に該当する人間を探し回っていたくらいだ。
まさかあれほどまでとは。
最終的に「お、お慕い申し上げております!」とどストレートな手段をとった。が。
「……押した芋を仕上げております?」
と、これ以上ないくらいの難聴を披露されて、それ以上何も言えなくなってしまった。
まあイブキさん的には少しほっとしていたようでもあったが。
しかし誤解が解けた訳でもなく、なぜか私への当たりが強くなった。
「ぐずぐずしないでさっさと進んで下さい」
普通に歩いているだけでもこの言われようだ。
元々イブキさんの好感度は低かったみたいだし仕方ないか。
「あ! 見えてきましたよ!」
エーリンさんの指さす先にある、ポポリ村。
いよいよこの村で挨拶回りは終わりだ。
この村にはどうしても気がかりなことがあるので、寄らない訳には行かないんだよね。
どうしてるかな。
まさか脱走してたりとか。
最悪村の人達を……。
いかん、悪く考えるとキリがない。
そんなことはない、ないと思うが。
なんて堂々巡りを払拭しにきたとも言える。
そんな思いは、案外簡単に解消された。
「やっぱり力すごいねー、助かるよお」
「コレハココデイイノカ?」
「ああ、大丈夫。ありがとう」
「終わったらこっちも頼むよー!」
「アア」
「おじちゃーん、早く遊ぼうよー!」
「仕事ガオワッタラナ」
「ぶー! みんなおじちゃんに頼りすぎー!」
「い、いやー、働き者だからつい」
「仕事ガモラエルノハイイコトダゾ。トコロデ、オマエノ仕事ハオワッタンダロウナ」
「ドギューン!? あ、あとでやるよー」
「サキニオワラセテコイ」
「あーん! おじちゃんのいじわるー!」
荷物を担ぎ、村人と汗を流している豚牙族。
子供にまとわりつかれながらも、決して嫌そうではない。
うーん、ちょーなじんでるね。ちょー杞憂だったね。
「ン? ……オオ」
見つかった。もう少し彼の今を見ていたかった気もするが。
「お久しぶりです。お元気そうですね、ウザフカさん」
「アア……オマエハスコシヤツレタカ?」
「そうでしょうか」
「勇者トイウノモ楽デハナイトイウコトカ」
「ははは」
そうそう、この遠慮のない感じ。
「こ、これは勇者様。すぐに村長を呼んできます!」
そう言って村人の1人が駆けていく。
こうやって気を遣われると、ウザフカさんとの居心地の良さが際立つな。
「勇者様! それに妖精族のお姉ちゃん! こんにちは!」
「はい、こんにちは」「こんにちはメルルちゃん」
「そのセツはお世話になりました」
「ご、ご丁寧にどうも」
「メル、お姉ちゃん呼んでくるー!」
そう言って、駆けて行く少女はメルルちゃん。
ルメールさんの妹さんだ。
弟のアルルくんは見当たらないが、いつも一緒な訳ではないのか。
「ソレデ、ドウシタンダ、コンナトコロマデ。俺ヲ処分シニキタノカ?」
「まさか。ただ、事態に進展があったので、それを伝えにきました。あとはただの挨拶ですよ」
「ソウカ」
ウザフカさんと話をしていると、村長のマモンさん、それにルメールさんがやってくる。
ルメールさんの横にはウルちゃんもいた。
「これはこれは勇者様。それにエーリンさん。お久しぶりでございます」
「お久しぶりですマモンさん」「おひさですー」
「勇者様! エーリンちゃんも。ご活躍は町で聞いていました。お元気そうでよかったです!」
「ルメールさん。そちらもお元気そうでなにより」「こんにちはルメールさん」
「ウォッフ」
「ウルちゃんも、いい子にしているみたいですね」
「立ち話もなんですから、どうぞ私の家でお話ししましょう。ルメールも来なさい」
「はい、マモンさん」
「あ、ウザフカさんにもお話があるのですが」
「もちろん来て頂いて結構ですよ。ねえウザフカさん」
「ン。ワルイガ仕事ガオワッテカラデイイカ」
「村の仕事は後でもいいですよ?」
「イヤ、クギリノイイトコロマデヤリタイ」
「私は構いませんよ。急に押しかけてきたのはこちらですし」
「勇者様がそう仰るなら。ウザフカさん、家で待っていますね」
「ワルイナ」
「勇者様、そちらの方は? 勇者様の……召使いさん? ですか?」
ルメールさんが、控えていたイブキさんを気に掛ける。
いかん。そう思われても仕方ないだろうけど、そう思われることを彼女が良く思うはずがない。
すぐに訂正しなければ。
「ちが「誰が誰の召使いですって」
私が答えるより早く、イブキさんが否定する。
しまった。先に紹介しておくべきだった。
「この私が、旦那様のモノであるこの私が、こんな底辺勇者の召使いなどと、そんな――」
「お、落ち着いて下さい! わかってます! わかってますから! こ、この人は知り合いのメイドさんでして、色々とお世話をして頂いているんです。でも決して私のではありませんので!」
「そ、そうなんですか」
「ジャ、ジャアマタアトデナ」
危険を察知したのか、足早に去っていくウザフカさん。
2人もたじろいでしまっている。
早く魔力を抑えて下さいイブキさん。
「それで、この度はどうなさったのですか?」
マモンさん、ルメールさんと共にテーブルを囲む。
エーリンさんはテーブルの上でお茶菓子を頬張る。
イブキさんは扉の傍に控えていた。
マモンさんの奥さんが用意してくれたお茶に口を付けたところで、話が始まった。
「様子を見に、というか、彼はどうですか?」
「よくやってくれていますよ。もうすっかり村に馴染んでいます」
「そうですか、それはよかった。しかしなにかきっかけでも? 村の方とのやり取りを見るに、かなり信頼されているようでしたが」
「それはまあ、彼は恩人ですからね」
「恩人?」
「妹の、メルルの命を救ってくださったんです」
ほお。これは興味深い。
なにがあったのか気になるじゃないか。
「詳しく聞いても?」
「はい。まだ村の皆がウザフカさんを敬遠していた頃です。メルルは元々好奇心が旺盛で、その頃からウザフカさんにちょっかいを出していました。そんな時、ウザフカさんの興味を引きたくて森に入ったんです」
「森ですか、まだ1人じゃ危ないんじゃないですか?」
ルメールさんも、森でウルフに襲われていたしな。
まあその時はウルフ寄せの実というミスマッチな物を所持していたからだけど。
しかし私がウルフを味方につけたからといって、子供が気軽に入っていける場所でないのは明らかだ。
「そうなんです。でもあの子、言いつけを破って入ってしまって。そしたら運悪くポイズンベアーに見つかってしまったんです」
ポイズンベアー。詳しくは知らないが、要は熊だろう。
「危うく食糧になるところを、ウザフカさんが助けてくれたんです」
「それは、誰にでもできることじゃありませんよね」
「本当に。その一件があって、皆彼の認識を改めたんです。見た目は怖いけど優しい人だって」
「へー。やりますねあの豚牙族! ゲフッ」
きちゃないなこの妖精族は。
しかしすごいな。簡単ではなかったろうに。
少しはこの妖精族にも見習ってほしいものだ。
「そうですか。お話ありがとうございます」
「勇者様は知っていらっしゃったんですよね」
「? なにがですか?」
「彼がそういう人物だと言うことですよ。でなければ、普通魔族を村に置こうなどと言うことは考えないでしょう。いやはや、勇者のご慧眼には脱帽いたしました」
マモンさんが大きく笑う。
ルメールさんからも尊敬の眼差しが贈られた。
言えない。本当は魔王軍と面と向かって敵対したくなかったから殺さなかっただけなんて。
ま、まあ結果オーライってやつかな。
と、扉をノックする音が聞こえる。
マモンさん、奥さんが招き入れると、話題の人が入ってきた。
「マタセタナ」
「いえ、全然待っていませんよ」
マモンさんに促され、ウザフカさんも卓に着く。
これで私の話ができる。
「今、ウザフカさんの近況を聞いていたところです。いい人ですってね」
「フン、コノ村ノヤツラハバカバッカリダ。イツカ足元ヲスクワレルゾ」
「ウザフカさんが結構照れ屋なことも知っていますよ」
「オ、オイヤメロ。ソンナンジャナイ」
ルメールさんにからかわれるウザフカさん。
本当に仲が良くなっておっさん嬉しい。
だからこそこれからどうするか、ウザフカさんは何と言うだろう。
「実は、皆さんにお伝えしたいことがありまして」
「どうかされたんですか? なにか悪い知らせでしょうか」
「いえ、そういう訳ではないのですが。……まだ公にはされていませんが、魔王国との戦争は終結しました」
3人の眉が動く。
そりゃそうか。まだ一般市民はこのことを知らないんだから。情報規制と言うやつだ。
でも、言わば捕虜の様な扱いであるウザフカさんには伝えないとと思ったのだ。
「ソレハ、本当カ?」
「ええ。既に各国に侵攻した魔王軍は本土に撤退しつつあります」
「それは、勇者様が魔王を倒したと言うことですか?」
「いえ、魔王さんとは和解しました」
「オイオイ、ソンナコトイッテイイノカ」
「いずれわかることです。今は共通の敵の為に協力関係にあります」
「共通の敵……ですか?」
「これまでの魔王国との戦争は、その敵によって仕組まれたものだとわかったんです。魔王さんよりも強大な……簡単に言えば悪い神様です」
「か、神様」
混乱を隠せない様子の3人。
そりゃそうか。私も展開についていくのに時間がかかった。
「まあその件は心強い味方がいるので、なんとかなると思います。私が伝えたかったのは、もうウザフカさんを縛る必要はなくなったと言うことです」
そう。
魔王国との戦争は終わった。
今なら軍に帰ることも、故郷に帰ることもできる。
問題があればユウリシアさんに口添えしてもらえばいい。
「ソレハツマリ、ココカラ出テイケトイウコトカ」
ウザフカさんが呟く。
元々静かな家が、さらに静まり返った。
「いえ、そういうわけでは「だめええええええ!!」
「バンッ!」という効果音と共に、木の窓を開けて小さな女の子が転がり込んでくる。
ちょっとびっくりした。
「メ、メルル!?」
「おじちゃんいなくなっちゃやだぁ!! メルが許さないもん!!」
「オイ、大丈夫カ」
心配をよそに、メルルちゃんがウザフカさんにしがみつく。
なんともまあ、よく懐かれている。
「おじちゃんはメルと一緒にいるんだもん! どこにも行かないから! そうだよね!?」
「ソレハ……」
子供とはいえ、なかなかの剣幕。
流石のウザフカさんもたじろいでいる。
可哀想だし、誤解を解かなければ。
「メルルちゃん。別に私は彼を追い出そうとはしていませんよ」
「……そうなの?」
「ええ。あくまで故郷に帰ることもできると言っただけで、強制するつもりはありません。ただ、戦争が終わったからといってこの国に残っていて問題ないのかというと、そうでもないです」
「どういうこと?」
「もしウザフカさんが村の人以外に見つかれば、殺されてしまうかもしれないということです」
「!? なんで!?」
「多くの人族は、魔族のことが嫌いなんです」
「メルはおじちゃんのこと好きだよ!?」
「オマ、ソウイウコトハ」
ウザフカさんに照れが見える。愛されてるな。
しかし、どうしようもない。
「皆がメルルちゃんみたいに彼らを好きになることはできないんです。残念ながら」
「ううー、よくわかんない。なんでみんな仲良くしないの?」
「難しい問題ですね。でもいつか、仲良くできる日がくると思います。メルルちゃんとウザフカさんの様に」
いつか。いつになるだろう。
例えこれまでの戦いが仕組まれたものであろうと、家族を、友人を、大切な人を失った人達が大勢いるのだ。
はいそうですかと納得できる筈はない。
元女神を倒したとして、この世界はどうなるんだろう。
……いや、スケールが大きすぎる。
私のようなおっさんにどうこうできる問題じゃないよ。
きっとタケルヒコ様がなんとかしてくれるだろう。
「……スコシ時間ヲモラッテイイカ」
「構いません。……と言いたいところですが、こう見えてなかなか忙しくて、できれば明日には返答が欲しいのですが。内容によって、私にできることはします」
「ワカッタ」
「では勇者様はお泊りに?」
「ええ。マイハウスを持っていますので、空き地を使わせてもらってもいいですか?」
「もちろんです。ではすぐに宴の準備をして参ります」
「あ、いえ、お気遣いなく」
「何をおっしゃいますか。勇者様のおかげでこの村は救われ、お貸し出し下さったウルフ達、それにウザフカさんの力で村の暮らしは目に見えてよくなりました。村の皆も喜びます、どうか」
私の力でもないような気がするが、これは断っても悪いか。
次にいつ来られるかわからないし。
「ではお言葉に甘えて」
「ありがとうございます。ルメール、すぐに皆に知らせて準備を」
「はいマモンさん」
「メルも手伝う!」
「あ、では私も」
「勇者様は準備が整うまでごゆっくりなされて下さい」
んー。こういう接待は性に合わないんだけど。
いいや、ただ待っているのも悪いし、マイハウスで料理でも作ろう。
「ヨシオさん。こういう時はのんべんだらりと過ごすのが1番ですよー」
茶菓子を腹いっぱい食べて、まんまると膨らんだ物体がそこにいた。
こうはなりたくないと私は思った。




