33.わたしを救う人
目が覚めたら、また病室だった。
なんだか最近よく病室に来るなあ。
思わず苦笑が漏れた。
気を失う前のことを思い返すと、今度は心臓じゃない胸のどこかが苦しくて、着せられていた装飾の一切無い白い服の胸のあたりをぎゅっと握った。
レガーロを使ったわけじゃないのに、またおかしくなって負けた。
ああ、でも本当は違うのかも。
服を掴む拳の上に透明な液体がパタリと音を立てて落ちた。
本当は、おかしくなっているわけじゃないのかもしれない。
ただ、刀を使って人を斬るときや戦っているときの私が、本当の私なだけなんだ。
本能から湧き上がってくる興奮、楽しさは紛らわしようもないほど大きくて、抑制することなんてできないのだから。
こんなことをルーナに話したらなんて思われるかな。
そう考えて、思いだした。
ルーナの憐れみに満ちた眼を、ことばを。
――オマエみたいな生きる目的も無く……、自分の命を軽く見ているようなヤツに負けるほどオレは弱くねえよ。
胸に何か詰まっていて苦しいよ。
誰か取って。
ルーナ、お願いだから取って。
生きる目的っていったい何なの。
教えてよ。
シヅキは私が知らないことをたくさん教えてくれた。
だけど、生きる目的だなんて聞いた覚えはないよ。
だから、わからない。
私が生きる意味は、シヅキの仇討をするためだと思ってた。
私が生きる価値は、ルーナを護ることだと思ってた。
それは、間違っていたの?
それだけじゃ、何かを誰かを護れるほどつよく、なれないの?
わからないよ。
誰か、おしえて。
涙が溢れだしては止まらなかった。
両手で顔を覆って、声を上げて肩をひくつかせて泣いた。
こんなに泣いたのは、もしかしたら初めてなのかもしれない。
目が重くて、力を振り絞って開ければヒリヒリと痛んだ。
慌てて目を瞑り、今度は慎重に少しだけ目を開けると、ベッドの脇に立てかけられた愛刀を見つけた。
右手が震えながらも、刀を求めた。
触れたい。
安心したい。
柄のだいぶ傷んできた布の肌触りが心地よい。
涙が止まって、幾分か冷静になった。
違う。
気が狂ったのかもしれない。
それさえ、わからないけれど。
“生”と正反対の意味を持つ、“死”――。
もしかしたら、生きることの意味は死を経験することによって初めてわかるのかもしれない。
そんな考えが頭をちらついて、気がついたらDEATHBREAKERを自分の左肩、鎖骨の上あたりに突き刺していた。
まるで心臓がそこへ移動したかのようにどくんどくんと脈打ち、それとともに焼け火ばしを当てられたような痛みが踊っていた。
薄らと意識に霧がかかり始めた。
これじゃあ、生きる意味だなんて考えられない。
今さっき光を取り戻したばかりの世界が、再び静寂の闇に包まれた。
重い雲と雲の隙間を縫うように鈍い金色の光が見えたような気がした。
もう手が届くことなんてないのに、随分と重量感のある腕を伸ばした。
ねえ、その光の先にいるのは一体だれ。
シヅキなの? それとも。
私の意識を辛うじて繋ぎ留めていた、脆い鎖が切れた。
Are you somebody save me?
あなたは私を救ってくれる人なの?




