27.なにを失くしたんだろう。
私たちには予想通り、今まで以上の量の任務が与えられた。
ほとんどはさほど辛いものではなかったけれど、いくつか本当にヤバいものも混じっていて、そういうときはルーナの命を最優先で考えて行動し、何回か怪我を負って帰ったこともある。
私があまりにも不用意に飛び込んで行くものだから、お前はもっと命を大切にしろとルーナに叱られることもしばしばあった。
なんだかんだで私たちは団の中で最も多忙な二人組にまでなったころ、金髪の悪魔内では僻みの混ざった噂が流れ始めた。
私と、ルーナがデキているという、なんとも馬鹿馬鹿しいものだ。
それをたまたま耳にし、ルーナに言うと、本当に結婚でもすっかと軽くあしらわれたのであまり気に留めていなかったのだが。
金髪の髑髏本部一階の食堂で私が一人、遅めの朝食を摂っていたときだった。
一人のルーナより年上に見える赤毛の男に声をかけられた。
「お前、本当にルーナとデキてんのかよ?」
思わず大きなため息がでてしまった。
まさか直接言われるとは思っていなかったので、驚きと言うよりは呆れ、男を無視して食事を続けることにした。
ダン、と大きな音を立てて男がテーブルを叩いた。
もう一度溜息を吐いて男の顔を見上げるとこめかみのあたりがヒクヒクと小刻みに震えている。
「どうなんだよ」
「いいえ」
手短に答えて食事に戻った。
そろそろルーナが来るころだ。
「隠さなくてもいいだろ。正直に言えよ」
「いいえ。私はルーナとデキてない」
「だーかーらー、正直に言えって」
「正直に言っているつもり。私とルーナにそういう関係は無い」
「照れなくてもいいだろう」
男のあまりのしつこさに軽く苛立ちと殺意を覚えた頃、後ろからいつもの陽気な声が飛んできた。
「なにしてんのー?」
「ルーナ隊長……」
男が舌打ちしたのが聞こえた。
「透、もう食ってんのか。オレも食べるからちょっと待ってて」
頷いて返事をすると、男が再び口を開いた。
しかも今回はルーナに向かって。
「ルーナ隊長。こんなクロネコモドキと寝たって本当ですかー?」
厭味ったらしい口調に、右手で腰から下げているDEATHBREAKERの柄を握り、抜いた。
そして男の首元に垂直に突きつけた。
最近の立て込んだ任務のおかげで剣の腕も上がっているはず。
一秒にも満たない間のことに男は目を見張った。
食堂にいた女性団員からは甲高い悲鳴が上がった。
それにさえイラつく。
ここにいる人間すべて、消してしまいたい。
荒くなる呼吸を抑えることもせず、今度は私が口を開いた。
「ルーナに対する侮辱は許さない……!」
「いや、どっちかと言うとお前への侮辱だと思うけどさ」
暖かい手が肩の上へ乗せられた。
「ルーナ、許可を。こいつはお前を貶した」
「いやいや、オレはいいから。それより腹減ったから飯食わせて」
刀の柄を握る手に、ルーナの温かい手が重ねられてしぶしぶDEATHBREAKERを鞘に仕舞った。
さあ、飯だ飯! と言って食べ物の並ぶ大円卓の方へ向かうルーナを追いかける前に、男に釘を刺しておいた。
「次は、殺す」
男が短く悲鳴を上げたのを確認するとルーナに付いて行った。
すでに席に着いていたルーナの脇に座り、適当に視線を泳がせた。
誰かと目が合っては反らされる、その繰り返し。
「透。マカロニサラダ取って」
何も乗っていない真白な皿を突き付けられて、無言で受け取った。
さっきのこともあってなんだかまだ胃の辺りがもやもやしていて、皿にたっぷりのポテトサラダを盛って突っ返した。
ルーナからは非難の声が上がったけど、聞こえないふりをしておいた。
円卓の上で手を組んで、その上に顎を乗せて目を瞑った。
ちらちらこっちを見てくる視線が鬱陶しかったのだ。
数分して食事を終えたルーナに透、と名前を呼ばれた。
「今回の任務は護衛だとさ」
「無理」
あまりの私の即答っぷりにルーナが目を丸くして、それが可笑しくて小さく噴き出した。
「まあ、とりあえず詳しい話を聞いてから決めようぜ。オレの部屋に来てもらうように言ってあるからさ」
いやいやと首を振っても無駄だった。
行きたくないと子供のように駄々を捏ねる私の手首をしっかりと握ってルーナはずんずん進んでいった。
仕方なく俯きながらとぼとぼと歩きながら、護衛という仕事について考えた。
隻眼テディベアにいたときはシヅキと一緒に何回かやったことはあるけれど、――今の自分には到底できそうにもない仕事に思えた。
What had I lost?
わたしはなにを失くしたんだろう。




