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治癒の旅

「ミーク、いこっ」

 山羊のミークに乗った美並は、門を出て真っ直ぐ道を直進する。その道は商人や旅の者が通るため、馬車なども通れるように開拓されて広い道になっていた。美並たちは、すぐに崖へとたどり着く。その崖は、ほぼ直角の90度に近いほど険しい。こんな険しい崖でも、ミークがいつも軽々と上り下りしているのを知っているため、安心感もあるし信頼もしている。だが初めて門の外に出て目の当たりにした断崖絶壁に、美並はびっくりしていた。

 ・・・すごく険しい崖だね。

「さぁミーク降りよう!」

 賢いミークは美並の言葉を理解し、そのまま美並と翠葉を乗せて断崖を少しずつ降りる。崖には突き出たところがいくつかあり、ミークはそこを左右に行ったり来たりしながら、少しずつ降りていく。美並は翠葉が落ちないようしっかり支える。

 ボロっ。

 中盤、ミークが着地した足場が崩れる音がした。ミークは怯えた鳴き声を発する。

「まずいっ...!ミーク飛べっ!」

 一人だったら、美並はそのまま地面へ向かって飛び、着地していただろう。だが、今は翠葉もいる。そして、ミークの上に乗っている自分が、そんなことをできるわけがない。だから美並は叫んだ。

「飛べ!」

今はミークに頼るしかない。ミークに頑張ってもらうしかないのだ。ミークは美並の声に勇気づけられ、飛んだ。なんとかミークは下の方の岩山に着地した。

「よくやったぞミーク、ありがとう」

 美並はヨシヨシとミークの頭を撫でてあげる。ミークは嬉しそうに鳴いた。

 

 断崖絶壁は攻略することができた。無事、美並たちはさらに下にある山へ降りることができた。

そこからはひたすら源國川に向かって、北西へ突き進む。

美並は地図を見ながら、北西の方角を鳥が飛んでいく方角と、朝の太陽の位置を見て把握した。そして、美並たちはその時から北西へ向かって走った。

途中、お昼になると木陰で休憩した。ミークに水やご飯を食べさせ、美並は翠葉の身体の汗を拭ったり、水を飲ませたりした。そして自分は白パンを少しかじった。

それからは、ぶっ通しでミークを走らせた。

そこは森の中だった。暗くなるまでに源國川の近くまで行き、そしてその周囲にある、タマに教えられた洞窟で一夜を越さなければならない。そうしなければ、野生動物が出たりして危険になる。美並は翠葉の体調を見ながらも、必死に頑張った。時折ミークに声をかけ、元気づけながら走らせ続けた。

「ミーク頑張れ!あと少しだ!」


 洞窟に辿り着いたのは、日が暮れる直前だった。

「ふぅ、間に合った」

 美並は沈んでいく真っ赤な太陽を見ながら、汗を拭う。

 ・・・急いで翠葉を降ろして、休憩させなきゃ。今日一日中ミークの上で走らせたから、翠葉はきっと体調悪くなってるよ。

 翠葉と自分を括り付けている縄を解き、翠葉を洞窟の壁際に座らせる。

 ・・・翠葉はこのままでは寝かせられないな。断熱材になる大量の落ち葉が必要だ。

「みな、み・・・」

 猛スピードで落ち葉を取りに行こうとした時、翠葉がか弱い声で呼ぶ。美並はハッとして駆け寄る。

「翠葉っ!どうした!大丈夫?!必要なものがあるなら持ってくるよ!なんでも言って!」

 呼びかけられて自分がこんなに大声で元気よく話してしまったのは、きっとここ最近、翠葉の体力が弱っていて話しかけられず、寂しく感じていたことが関係しているのだと美並は思った。だから、久しぶりに名前を呼ばれて嬉しかった。

「翠葉っ!どーした?」

「みなみ......ぅっ...」

 翠葉は泣き出す。

「ぅぅっ、ぅぁっぅ...!」

 翠葉は啜り泣く。痩せた頰を涙がつたる。

「なんで泣くの」

 美並はギュッと翠葉を抱き寄せる。

「大好きだよ、翠葉。私は翠葉のことが大好き。大丈夫。そんなに怖がらないで。ここで少しだけ待ってて。すぐ戻るから」

 美並はぽんぽんと翠葉の頭を優しく撫でる。自分が翠葉にしてもらったように。少しでも翠葉が安心できるように。

 美並はそっと翠葉の痩せた身体を離すと、急いで大量の落ち葉採集に行った。

 ・・・この苔は川の近くで湿っているから使えないな。

 乾いてたら苔はふかふかの寝台になる。苔は諦めて、爆速で戻る。

 周囲を見渡した。ここなら風が直接当たらない。大きな木が壁になっているから、夜になっても冷たい風が吹き込みにくい。美並は大量の落ち葉を地面に厚く敷き、その上に布を敷いて、そして自分が羽織ってた野犬の毛皮マントを翠葉に包ませ、横にする。

「ふふっ!できたよ!特製美並ベッドっ!」

 美並は我ながら上手く出来たことに満足する。

「みなみは、さむ・・・」

「あー暑い、走ったせいかな?今からお粥作るね」

 ミークを洞窟内に入れて、落ち葉収集の時に拾ってきた枯れ枝や乾いた小枝、樹皮を使って火をおこし、汲んできた川の湧水を鍋に入れて、お粥を作った。

 翠葉にお粥を食べさて、ミークにも餌をあげ、ミークを翠葉に寄り添わせ、できるだけ暖をとれるようにする。ミークが脱走しないよう、自分の腰と麻袋にしっかり結びつける。

 ・・・明日も早い。早く寝ないと。

 美並は火を確認した。薪を少しだけ足し、火が完全に消えないようにする。そして剣を手の届く場所に置く。いつ何があっても、翠葉とミークを守れるのは自分だけだ。

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